世田谷パブリックシアター演劇部 批評課(3日目)


― 柏木陽さんが、中学生批評ワークショップをやりたいと思ったのはなぜですか?


柏木 世田谷パブリックシアター演劇部の中学生の子たちを見ていて、たとえば誰かの発表を見てフィードバックする時に、返す「手」が足りないなあとずっと思ってて。見たものに対する印象を言おうとすると、すごく当たり障りないか、めっちゃキツくなるかしちゃう。それで批評をやっている藤原ちからさんにお願いしてみたんです。意外と、僕がワークショップやる時とアプローチが変わらないなと思いましたね。


― ここまでのワークショップ前半日程では、いろんな作家の文章を声に出してみたり、国語辞典を使って遊んだり、とにかくたくさんの文体とボキャブラリーに触れましたね。


柏木 あれぐらいの年齢の子たちに、ゆくゆく役立つことを手に入れてもらおうと思うと、まずはいろいろ知っていく方向になるのかな。子供たちも、わりと恐れずに思ったことを喋るようになってきて、いつもうるさいけど、いつもよりうるさいかもしれない(笑)。


― 今日子供たちが、互いの『地域の物語』感想文を交換して朗読しあった時に、ある子が「ごめんね、これはちょっと自分の考えと違ったんだけど……」って、書いた本人に直接伝えたスリリングな瞬間がありましたよね。そういう時に、柏木さんは何を思ってるんですか。


柏木 「おっとスリリングだぜいッ♪」と思いつつ(笑)、修復できないことはやつらも言わないと思う。と言いつつ、もしもちょっと配慮に欠ける言葉が出てきたら、「意図してるようには伝わってないよ」って打ち返さなきゃいけないと思ってるけど。でも、基本的には「いいんじゃない? 行け行け!」って言い続けられる場であるといいですよね。


― ワークショップを通して、この年代の子に期待したいことって何ですか?


柏木 ……「背伸び」、かなあ。ひとりでパブリックシアターまで来ることとか、今日はキャロットタワーの奥の扉にまで入ってもいい日、とか。そういう背伸び感。それは行動圏だけじゃなくて、内容とか取り組み方に関しても。


― どうして「背伸び」をした方がいい?


柏木 子供って、安全を守られてると思うんです。だけど「ここから行くとまずいかな?」とか「これ言って大丈夫かな?」って逡巡する時間を持てないでいくと、本当に良くないと思うんです。ワークショップの中でも、いつでも何でもこなせる全能感に満ちているんじゃなくて「今日はこれだけ準備して来たけど、うまくいかなかった」ってことがあってもいいし、「だけど面白い!」って思えてれば、次もトライできる。その子なりの背伸びが出来る環境づくりを、劇場がやらなくてどこがやる? って思うんですね。


― 柏木さんが中学生の時はどうでした?


柏木 僕が中学生の時は……背伸びしてないですね(笑)。中学生の時に無理矢理親父に、川端康成『雪国』、三島由紀夫潮騒』、太宰治人間失格』の日本文学三点セットを渡されて。で、『人間失格』読んでガーンってなってた暗い中学時代だった。高校になって演劇部入ったんだけど、最初体験入部でやめようと思ってたのね。でもやたら構ってくる先輩がいて、僕が二年になった時に「何であの時引き止めたんですか?」って聞いたら、「お前さぁ、そのままほっといたら人殺しそうな顔してたんだもん」って言われて、そんな感じだったんだー? って(笑)。全国大会に行くような演劇部だったんで、背伸び感を持ったのは高校になってからかな。いきなり大阪まで行けとか、この舞台セットつくれとか言われたりね。だけど嫌じゃなかったし、そこで鍛えられたなーって思うと、背伸び感はどこかで要るかなと。大学に入ってから、当時教えに来てた如月小春(故人)に出会って、卒業後にアジア女性演劇会議(※1)の一回目を手伝いに行ってそのままNOISE(※2)入って。アジア女性演劇会議も、自分にとってはすごい背伸びだったな。


― 柏木さんの演劇史は、背伸び史でもあるわけですね。


柏木 そうですね、背伸び史です


― 初日に観劇した『地域の物語』に応答する何らかのものを、これからつくっていきますね。ワークショップ最終日には、それを『地域の物語』参加者の方々に観ていただくわけですが、中学生たちがどんなことを彼らに返せたらいいと思いますか?


柏木 直截な言葉とか行為を返せるといい。自分たちに起きた変化とか、おそろしいとか気持ち悪いと感じたこととか。こういうものを受け取ってますけど、そうじゃなかったら言ってくださいねっていう、応答の場にできたらいいですね。




※1 劇作家・演出家の故・如月小春氏、故・岸田理生氏を中心に、1992年に発足した組織。
※2 如月小春氏の主宰していた劇団。



(落 雅季子 2015.03.27)