マンスリー・ブリコメンド(2011年7月上旬)

「何かオススメの舞台はない?」と聞かれたり、大事な公演の存在をうっかり忘れて臍(ほぞ)を噛んだり。といったことが増えてきたので、気になる公演をずらりと列挙するページをつくりたいと思います。タイトルの「ブリコメンド」は、ブリコラージュ(寄せ集めてモノをつくる手仕事)とリコメンド(推薦する)を掛け合わせた造語。ここが何かしらの「入口」になれば幸いです。

とはいえひとりでは寂しく、またセレクトに偏りもあるので、頼もしい助っ人のみなさんの力をお借りします。劇評サイト「ワンダーランド」で「今月のオススメ」を連載していた、徳永京子さん、カトリヒデトシさん、鈴木励滋さんの御三方に加えて、日夏ユタカさん。今回は文章での寄稿をお願いしましたが、来月から体裁は変わるかもです。何はともあれ、船出してみまーす!Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。プルサーマル・フジコ名義で劇評などを書いたりもする。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。音楽雑誌「ele-king」で演劇コーナーを執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』がある。twitter:@pulfujiko

日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。twitter:@hinatsugurashi

鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga



藤原ちから/プルサーマル・フジコのブリコメンド

飴屋法水演出『おもいのまま』

6月30日(木)〜7月13日(水)@東池袋あうるすぽっと
http://www.omoinomama.info/

飴屋法水の演出作品では、いつも何か別のところから「声」に呼びかけられるような気がします。それは飴屋さんの「声」であり「顔」でもあるのですが、同時に、誰のものでもないような気もする。だからそのやさしさに安心するし、いっぽうでは畏怖も感じるのです。その飴屋さんが、今回は著名な俳優陣と組んで舞台をつくる。どうなるのか?

Q『油脂越し』

7月1日(金)〜3日(日)@阿佐ヶ谷アートスペースプロット
http://blog.livedoor.jp/qchan9696/

劇団Qの旗揚げ公演。実はこの「マンスリー・ブリコメンド」を立ち上げた最大の動機として、この公演を紹介したいとゆう気持ちがありました。昨年末、主宰・市原佐都子の桜美林大学での卒業公演『虫虫Q』を観て、それはいわゆる完璧な作品ではなかったけれども、暗い女の子の世界の中に不思議な花がさまよっているような気がして、強い印象にとらわれました。その時市原さんは、「作・演出はもうやらないかもしれない」と言ってたと記憶していますが、しかしこうして彼女は劇団Qを旗揚げしたのです。きっとこの『油脂越し』にも欠損や瑕疵はあるだろうけど、そうそう感じるものではない何かしらの才気を『虫虫Q』で感じたのは事実で、それは、もっと観たい。まあ、少々の失敗上等の精神で! マームとジプシーでお馴染み、吉田聡子も出演。

サンプル『ゲヘナにて』

7月1日(金)〜10日(日)@三鷹市芸術文化センター星のホール
http://www.samplenet.org/

サンプル本公演としては、松井周(作・演出)の岸田國士戯曲賞受賞後の堂々たる第一作。世界を分かりやすく切り分けていくものは世の中にたくさんあるけど、そうではない世界認識・創世の方法がきっとあるはずで、サンプルはそれを、変態的人物の「愛嬌」や、舞台美術を利用した倒錯したイメージ、そして「可能性の低いほう」を掘り当てる妄想展開力、かつ、実力ある俳優陣をもって提示する。ドラマトゥルクや舞台美術や宣伝美術など、スタッフワークも含めて期待大の劇団です。女優・辻美奈子もひさしぶりに復活!

茶ばしら『茶家_ひみつ基ち_<おかえり・ただいま>』

7月7日(木)〜10日(日)@古民家ゆうど
http://chabashira2.com/

茶ばしらは未見だけども、今回の演出・西尾佳織の作品は何作か見ていて、端的に言えば、彼女にしか現せないモノとコトバそしてグルーヴを持っている作家だと感じています。鳥公園『おばあちゃんちのニワオハカ』でも古民家との相性は抜群だったし、前作・小鳥公園『女生徒』に引き続いて太宰のテクストを扱うわけですが、初の外部演出で、初めて組む役者さんたちと、さてどうなるかな。とにかく弾けてくれるといいなーと思います。鳥公園は秋のF/T公募プログラムにも出るので、ここで、ほいさ!どかん! と跳んでほしいな。「ワンダーランド」クロスレビュー挑戦編にもエントリー。http://www.wonderlands.jp/archives/18081/

ナカゴー『バスケットボール』

7月8日(金)〜10日(日)@上野小劇場
http://nakagoo.com/

何しろヘンテコで妙に面白く、日常的な会話からあらぬ世界へと転がっていくナカゴー。実はまだ短編しか観たことないので、長編となる今回、再々演とはいえ果たしてどうなりますかな、と、特に別に「うえっへっへ、見ものだぜぇ」感もなく、なんとなくぼんやーりと観てみたい気がします。同じく鎌田順也が演出していた秘密結社ブランコ『歌えロレッタ愛のために!』のように、そう、あの傑作のように、センスに安住せずリミッターを振り切ってくれたら嬉しいですけど。たぶんナカゴーと相性良いとわたしが勝手に思い込んでいる墨井鯨子(『パイナップルの食べすぎ』で、キレて罵詈雑言を吐きまくっていた人)が今回も出演。

マームとジプシー『待ってた食卓、』

7月9日(土)〜10日(日)@だての歴史の杜カルチャーセンター/北海道
http://mum-gypsy.com/next/post-30.php

5団体によるショーケース「20年安泰。」でも貫禄を見せつけたマームとジプシーの最新作。手法の斬新さでまず驚かれがちなマームだけど(実際それは驚嘆すべき技術ですが)、実はその手法の洗練化と同時に、描いているテーマや内容も着々と進化・深化し、ここにこそ「文学」があるのではないかとも最近感じてきました。主宰の藤田貴大にとって生まれ故郷への凱旋公演となる今回。今まで遠まきに描いてきた故郷のまさにその場所で、何を舞台に乗せ、どう観客と(再び)出会うのか? 俳優たちの地力とガッツも増して疾走感を身に纏い始めたマームとジプシーが、北海道とゆう大きな島で何をつかむのか本当に楽しみです。わたしは生まれて初めて北海道に行きます。ここがフロンティア!


日夏ユタカのブリコメンド

古川日出男 朗読 『東へ北へ』

7月9日(土)@SARAVAH東京
http://www.saravah.jp/tokyo/schedule/log/20110709.php

三島由紀夫賞作家であり、自作の音読イベントを積極的に行っている古川日出男と、「BATIK」主宰でコンテンポラリーダンス界での第一人者の黒田育世のコラボです。このふたりは一昨年の冬にも、川崎市アートセンターの1周年記念事業の一貫として「黒田育世×古川日出男/ブ、ブルー」を上演していて、じつは自分は残念ながら未見も、体験した友人の感想があまりに羨ましかったんですよね。なので、待ち焦がれていた公演。絶叫と激踊が音楽と絡みあい、はたして、どんなうねりが生まれるのか? 席数60席程度の小空間で1日だけ、しかも1ステージだけという濃縮感にもさらにそそられます。

快快『快快-faifai-のOBAKE!!!!!!』

7月15日(金)@アサヒ・アートスクエア
http://faifai.tv/faifai-web/2011/06/715--faifai-obake.html

昨年は、東京芸術劇場が注目する才能「芸劇eyes」に選ばれて公演を行い、さらにスイス・チューリッヒで開催された世界最大級の舞台芸術フェスティバル『チューリヒ・シアター・スペクタクル(Zurcher Theater Spektakel)』 では日本人初の新人賞を受賞した、若手実力派の快快。しかし一方では、家公演や銭湯公演などの神出鬼没なイベントを企てるなど、振り幅の大きい活動も魅力になっています。そして今回は、オバケ??? “最恐節電イベント”と謳っているので、たぶん、お化け屋敷的な展開が予想されるけれど、その全容はまだメンバーすらわからないはず(笑)。怖いものみたさで、気楽に遊びにいきたい場所です♪ そうそう、フード類が美味しいの も、快快イベントの特徴ですよー


鈴木励滋のブリコメンド

SRAP2011「nanpo house mix」

7月1日(金)@アサヒ・アートスクエア
http://asahiartsquare.org/?p=1982

「SRAP2011会期中アサヒ・アートスクエアの会場内に設営される書斎や座敷のスペースをそのまま使い、大田南畝の人生をたどります。」とのことだが、SRAPとはSumida River Art Project(すみだ川アートプロジェクト)。2009年に始まったこの企画、なんと2089年まで続くらしい。今年のテーマは「江戸を遊ぶ : Nanpo × 連」。Nanpoとは幕吏でありながら蜀山人の名でも知られる狂歌師、大田南畝。「連」は現代の「コミュニティ」のようなもので、江戸の粋人たちに倣って、いろんな遊びを企てる連が7月末まであちこちに出現するという。その中のひとつ「nanpo house mix」というこの連では、どうやらツイッターなどを使って遊ぶようだ。実際に空き家を借りて、そこにギリシア劇の人々が住んでいるという荒唐無稽な「墨田区在住アトレウス家」の首謀者の長島確が絡んでいるんだから、単に遊びでは終わらない場所まで連れて行かれちゃいそうな予感。しかも、無料なんだって。

N.N.N.2〜あの子のとこまで、ガンガン行こうぜ〜

7月1日(金)〜3日(日) @横浜STスポット
http://stspot.jp/schedule/nnn2-1.html

3人以上のグループ作品を公募し、KENTARO!!を中心にSTスポット企画チームで選出したショーケース公演。「踊る踊らないとか、踊れる踊れないとか関係なく、色々なしがらみを振りほどいて追求する。その先にはみんなの「届くパフォーマンス」がきっとあると思う」という言葉には、つまらない範疇化(縄張化)が、いかに新しい表現者を阻害してきたのかが伺える。KENTARO!!は自分のことを見出してくれた人々への恩返しを、次の世代の表現者へ機会を創ることで果たしているように見える。


カトリヒデトシのブリコメンド

ニブロール『THIS IS WEATHER NEWS』

6月24日(金)〜7月3日(日)@シアタートラム
http://www.nibroll.com/

ミクニヤナイハラプロジェクト名義なら、文学作品、あるいは文学的なモチーフをダンス要素の強い「演劇」として表現する。ダンス・衣装・映像・美術・音楽などの各分野で活躍するアーティストを集めたダンスカンパニーとしての表現はニブロール名義という区別でやってるのかと漠然と思っていました。昨年、「チェリーオーチャード桜の園 - いちご新聞から-」を見たら、チェーホフへのオマージュが表出した、ひどく感動する作品でした。そこに出演していた酒井和也は知り合いなので、「今日ここで死んでも惜しくないくらいの作品だ。全うしてください」と終演後、彼に断言したほどでした。ポップでキュートで、あっけらかんとしつつ、人間の業の深さを感じるものでした。(http://www.nibroll.com/works/cherry_orchard.html
で4分ほど見られます)。その身体性と演劇性との往還には興奮するものがありました。団体クレジットはありませんでした。名義分け、ジャンル分けが意味ないことがよく分かりました(笑)。今回は世田谷トラムでの公演。昨年愛知トリエンナーレで上演されたものの再演。といってもキャストも大幅にちがうし、どんな作品になるんでしょうか。予告の映像をみても、セリフあり、意味性の高いインスタレーションありの作品になっているようです。ああ、見たい。

MONO『空と私のあいだ』伊丹

6月30日(木)〜 7月4日(月)@伊丹AI・HALL
http://www.c-mono.com/stage.html

謎の塔がある町、その塔が住民たちに健康被害をもたらしているらしいという暗示的な世界。MONOの土田英生が以前書いた本を改稿し、2009年度劇作家協会新人戯曲賞受賞の横山拓也の書き下ろしと2場面ずつ執筆構成されたグランドホテル形式の作品。横山さんとは個人的にも知り合いなのはお断りしておくが、新人賞受賞作「エダニク」以来その才能に惚れ込んでいるのだ。この春、学生時代から15年続いた売込隊ビームが休団し、節目をむかえた。「エダニク」は8月に王子小劇場でオリジナルメンバーによる東京初上演が控えている!新しい活動を始めた彼を応援していきたいが、関西の老舗、20年を越えるMONO(あ、ここも一度休団したこともあったっけ)と作品づくりということで興味津々なわけである。
土田英生は趣向に満ちた不思議な世界の中で丁寧な人間関係を繰り広げていく、東京にはいない作家である。横山とは相性がいいような感じがする。そこに「柿喰う客」の七味まゆ味が客演で加わる。彼女はすっかり関西を活動の一つの拠点として、っていうか今年は東京で出演したか? ちょっと調べたら、ドイツ、柿として大阪、新潟、福岡でやったが、東京ではバナナ学園純情乙女組だけ(笑)。全国的に大活躍している。根性の座った激しくも華麗な演技力が大好きなんだが、関西でも評価されていることがうれしくてしょうがない。
という感じで、見たいなぁ、と思っていたら、突如横山さんから役者がケガして降板するのに伴い急遽役者デビューすることになりました、というメールが…。現場も本人も大変だろうがそんな困難の中にこそ、演劇の神が降臨したりする。うーん…新幹線の時間を調べている自分がいる。


徳永京子のブリコメンド

大規模修繕劇団『血の婚礼』

6月24日(金)〜7月30日(土)@にしすがも創造舎
http://www.bunkamura.co.jp/otherhalls/shosai_11_blood.html

蜷川幸雄演出作品なのに、上演時間が90分という異例の短さ(笑)。でもほぼ全編、舞台上に雨が降り続けているから、その迫力に、観ているだけで体力を使うかも。蜷川さんのこうした演出を「ト書きに書いてあることをバカ正直に守る」と笑う人がいるけど、具体的であるってことは、演劇にとって物凄く重要なこと。具象が積み重なると、あるポイントから抽象(詩)になるということを、私は蜷川さんが演出した『白夜のワルキューレ』(06年。脚本:野田秀樹)で教わった。

パルコ・プロデュース『幽霊たち』

6月14日(火)〜7月3日(日)@パルコ劇場
http://www.parco-play.com/web/page/information/ghosts/

ポール・オースター作品の舞台化という難題に、白井晃さんはライフワーク的に取り組んでいる。誤解かもしれないけどその姿勢が私には「大好きなオースターの世界を、ひとりでも多くの人にわかってほしい」ではなく、「オースター、大好きだけどわかんないから、やってもやってもわかんないから、自分の手で舞台にしながら近づきたい」という、言ってみれば個人的なわがままに基づいているように見える。でもそれ、すごく信用できる。

はえぎわ『○○トアル風景』

7月6日(水)〜11日(月)@下北沢ザ・スズナリ
http://www.haegiwa.net/

去年、ノゾエ征爾さんが岸田戯曲賞の最終ノミネートに選考された時、実は驚いた。「なんで?」ではなく、「ちゃんと評価されるんだ!」と。その『春々』は確かにノゾエさん、はえぎわの印象を一掃するおもしろさで、次の『ガラパコスパコス』でさらに驚いた。どちらかと言えば理屈に引っ張られていたそれまでのはえぎわから、理屈をぶっちぎる大胆な構成へと転換して(転換したという意識は本人にはないだろうけど)、それが結果的に、観客を遠くまで連れていく演劇的快楽につながっていた。その流れは定着したのか。ちょっと心配しつつ、初日のアフタートークに参加。