マンスリー・ブリコメンド(2012年1月前半)

新年あけましておめでとうございます。2012年第一弾、1月上旬のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。今年はなるだけ東京以外の地域にも目を向けていきたいと考えていますが、とはいえ5人とも首都圏在住ですので、どうしても偏ることにはなっちゃいます。長い目で見ていただけたらとー。今年もよろしくお願いします!(今回はカトリさんが現時点でお休みです)Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■悪魔のしるし『SAKURmA NO SONOhirushi』
■ガレキの太鼓『吐くほどに眠る』
■悪い芝居「本当に悪い芝居vol.2『猿に恋 〜進化Ver.〜』」


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
■Tokyo Wonder site 受賞記念公演『BED- 眠り人のための演奏会 -』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■劇団サンプル『女王の器』公開稽古


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★一部、ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)とも演目がダブッています。こちらもぜひお読みください。
http://www.next-choice.com/data/?p=4917
■キューブ『押忍!! ふんどし部!』
シアターコクーン下谷万年町物語
ホリプロ『十一ぴきのネコ』







悪魔のしるし『SAKURmA NO SONOhirushi』

1月6日(金)〜8日(日)@トーキョーワンダーサイト渋谷(渋谷)http://www.akumanoshirushi.com/

悪魔のしるしは一見して「演劇」をナメているのじゃないかと思われるかもしれないし事実そうである可能性も完全に否定はできないのだが、しかし彼らの試みはこのくそったれた世の中に対しての真摯な態度表明であり、いつか放たれるであろう会心の一撃を狙っているとも言えるのではないか、と考えるのはタチの悪い深読みだろうか? いずれにしても彼らが「演劇」を愛し愛される正道を歩んでこなかったのは確かで、みずからドロップアウトを決め込み、今やどこにいっても片身の狭いであろう煙草をプカプカとふかし、一歩間違えば単なる邪道への甘えにもなりかねない際どいこの周縁的立ち位置に居直ることこそが、彼らの現時点での(まったくもって不器用な)持ち味なのだ。
わたしが思うに、主宰の危口統之は、話してみると非常に文学的・民俗学的なセンスを持った人で、つまりは忘れ去られて誰も省みなくなったような日本の黒歴史を「呪い」のように抱えている人物である。と同時に、肉体労働者としての強烈な自己認識も持っており、今や時代の変遷とともになし崩し的に解消されてしまったかに見える労働者とインテリとの自己矛盾的対立を今なお抱え持った稀有なアンバランスの人物だが、今のところはその呪い的に刻印された側面を、屈折した変化球としてしかアウトプットしてないように感じる。しかしこの迂回戦法の結果として、いずれはストライクど真ん中のところに凄い魔球を投げ込んでくるのではないかとちょっと期待している。
さて、それにしても今回の新作で、素敵に思える人もいるにもかかわらず、出演キャストにどことなく「寄せ集め感」が漂っているのはなぜだろうか? きっとそれも彼らが「演劇」の正規軍ではなく流浪の傭兵集団めいているせいだと思うが、その悪魔のしるしのキープレーヤーである森翔太へのロングインタビューは以下↓で読めるので、それ相応の覚悟のある方はぜひどうぞ。ただし、クリックした先に何が起こっても当局は一切関知しないからそのつもりで。(フジコ)
http://d.hatena.ne.jp/hb_bangaichi/20120101/(聞き手:橋本倫史)



ガレキの太鼓『吐くほどに眠る』

1月6日(金)〜15日(日)@こまばアゴラ劇場駒場東大前)http://garekinotaiko.com/

再演です。初演は評判が良かったようだけれども、わたしは、ひとりの女性の傷に囚われすぎている気がしてもうひとつハマりきれなかった。ただもっと若くてわたし自身もトラウマ的な過去に苦しんでいた時期に観たらもっと違っただろうし、いくつかの方法論的な面白さもあったので、より丁寧に(あるいは大胆に?)トライしていけばもっと別の可能性がひらけてきそうな舞台だとも思った。今回の再演では、劇場のみならずキャストも一部変更されており、かなり違った見え方に変化するのではないかと予想します。
ガレキの太鼓は様々なスタイルでの上演をしているようで、わたしはまだ何作かしか観てないけども、直感的に言えば、現時点ではこの『吐くほどに眠る』が彼女たちの核となる作品ではないかと想像する。今回の再演では何がどう育っているだろうか。初演にもあったフレッシュなとあるシーンに特に注目したいです。(フジコ)



cube neXt『押忍!! ふんどし部!』

1月6日(金)〜15日(日)@CBGKシブゲキ!!(渋谷)http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/cubenext_osu-2012.html

決してウケ狙いのお薦めではないので、誤解なきよう。
一昨年の初演、かなり見たかったのに行けなかったので、この再演はとてもうれしい。理由は2つ。まず脚本が、コントユニット「男子はだまってなさいよ」の主宰で、シティボーイズミックスの作・演出もしたりする細川徹だから。そして演出が「真心一座 身も心も」や「ねずみの三銃士」の一連の作品などで、笑いとケレンと毒の適正な調合に冴えを見せる河原雅彦だから。実はかなり笑える舞台に仕上がっているのではないかと期待がふくらむ。
間違いなく“イケメン舞台”と呼ばれるカテゴリーに類する作品であり、そこにまったく興味のない私は(ミュージカル『テニスの王子様』は除く)、あいにくその点からの懐柔の言葉を持ち合わせていないが、細川と河原が力を合わせたならきっと“キレイだけど演技未熟男子が、自分がかいた汗に酔ってご満悦”な困った舞台にはなっていないはず。そもそもふんどし部という設定からしてナルシズムは封印だけど、さらにこれ、DANCE&COMEDYとのことで、踊るわけです、ふんどし部を、イケメン達が。「かっこいい」と「おもしろい」のどちらが勝つのか、見届けなければ。(徳永)



シアターコクーン下谷万年町物語

1月6日(金)〜2月12日(日)@Bunkamuraシアターコクーン(渋谷)http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/12_mannencho/index.html

「大人はわかってくれない」とか「Don’t trust over30」とか、とりあえず中指を突き立てておきたい気持ちは、よくわかる。でも本当は誰だって知っているはずだ。信用できる/できないという区別は、年齢ではなく個人によるということを。
だから蜷川幸雄を、年寄りで、成功者で、売れっ子俳優を使っては大きな劇場で芝居をつくっているという理由で、自分の演劇経験とは関係がないと思わないでほしい。新劇から演劇人生をスタートし、現在は商業演劇の中央にいる蜷川だが、その体内を巡るのはアングラの血だ。それがはっきりわかるのが、この『下谷万年町物語』。理屈が通るストーリーなどない、跳ね回るイメージの軌跡を文字にしたような唐十郎の脚本を、熱量はそのままに、おかしさと美しさと切なさを鮮烈にビジュアル化する。「大きな演劇」とは、ギリシャ悲劇やシェイクスピア作品ではなく、こういうスケール感を指すのだということが、まざまざとわかるはず。
幸い、見えづらいが安価な2階立ち見席に加え、セットが確定したことから押さえ席が追加発売された。「やっぱダメだね、蜷川」は、これを観てから言っても遅くない。(徳永)



悪い芝居「本当に悪い芝居vol.2『猿に恋 〜進化Ver.〜』」

1月7日(土)〜9日(月・祝)@下北沢・駅前劇場(下北沢)http://waruishibai.jp/

「悪い芝居」は京都を拠点にしている劇団の名前で、かねてより「関西に悪い芝居あり」とは音に聞いていたのだが、前回公演『駄々の塊です』は知り合いの見巧者たちの間でも賛否両論くっきりと別れた。わたしにはとても面白い舞台だったので、その時の感想はブログ(http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20111121/p1)に長めに書きました。首都圏の演劇の洗練・発展の仕方とはまた別種のものを感じるけれども、やはり彼らも同時代、つまりはポストモダン以後の世の中を生きているのだろう。単に「若さ」だけでは片付けられないエネルギーが胚胎しているので、いきなり次でどう判断する、とかではなくて、できれば何回か継続的に観てみたい。東京にも良い刺激を持ち込んでくれたら嬉しいです。
さて今回は、昨年秋に「KYOTO EXPERIMENT 2011 フリンジ “GroundP★”」に参加した同名作品の進化バージョン。現代口語演劇ならぬ「原始口語演劇」と称するその正体は一体どんなものか……? 初日、1月7日(土)のアフタートークに出ますのでよろしくお願いします。(フジコ)



こまつ座ホリプロ公演・紀伊國屋書店提携『十一ぴきのネコ』

1月10日(火)〜31日(火)@新宿南口・紀伊國屋サザンシアター(新宿)http://hpot.jp/11neko/

期待されない作家よりも、期待されている作家の方が当然、苦しい。だがもっと苦しいのは、社会的使命を引き受けた作家ではないかと、井上ひさしの仕事に思いを馳せて考える。
『十一ぴきのネコ』は、すでに『ひょっこりひょうたん島』を大ヒットさせた35歳の井上が、馬場のぼるの絵本をもとにNHKの人形劇向けに書いた作品ではあるが、後年の、人間への厳しくも温かな眼差し、「むずかしいことをやさしく」を実践しようとして枚数を費やしたせりふ、テーマが前景化した作品と比べると、描かれた世界は驚くほどドライだ。だがその分、自由な両手をブンブンと振り回している軽やかさがある。
今年は「井上ひさし77フェス」と称して井上作品が8本上演される。鵜山仁、栗山民也、蜷川幸雄というお馴染みの演出家に混じり、30代の長塚圭史が初めて井上戯曲に挑む意味は大きい。そしてこの作品はミュージカルであり、全曲を手がけた宇野誠一郎と井上は、「波をちゃぷちゃぷかき分けて」の『ひょっこり〜』のテーマソングのコンビと聞けば、約40年前の脚本も身近に感じてもらえるかな。(徳永)



Tokyo Wonder site 受賞記念公演『BED- 眠り人のための演奏会 -』

1月13日(金)@トーキョーワンダーサイト渋谷(渋谷)http://gosuenaga.com/BED/

すでに4回の公演が行われていますが、じつはまだ未見。それでも、今回はTWSトーキョーワンダーサイト)で奨励賞を受賞したことによる記念公演(再演)であり、さらに、これまでにさまざまなアーティストとのコラボを観ていて信頼度の高い、大谷能生が前回/第4回の公演と同様に演奏者として参加しているのを担保に紹介させていただきます。
内容は、会場の中心にベッドをひとつ用意し、そこに「眠り人/出演者」がはいり、そのまわりを演奏家たちが囲んで「眠り人」を眠らせるための即興演奏をするというもの。もともとは、観客はあくまでも中立的な存在で「観客に対して演奏される音楽」ではなかったみたいですが、第4回からは鑑賞者すべてに「眠り」のためのスペースを用意(マットとブランケットを配布)。また、パジャマ持参で会場に鑑賞(眠り)にきた場合は500円OFFと、すこし観客にむいた感じに作品が変化しているようなのも参加/体験意欲を高めてくれます。(日夏)



劇団サンプル『女王の器』公開稽古

1月15日(日)@川崎市アートセンターアルテリオ小劇場(新百合ヶ丘
http://www.samplenet.org/

とかく変態性に注目されがちな松井周であるが、『ゲヘナにて』において見せつけた集団をコントロールする力こそ、もっと評価されるべきじゃなかろうか。相殺しかねない多種多様な小道具や照明や音響、クセ者揃いの俳優陣をまとめあげ、あれだけの支離滅裂な世界観を成立させた腕前、マエストロとか棟梁とか呼びたくなるほどであった。それが、強烈なカリスマによる統率力であったのか、隅々に行き渡る気配りゆえに為せた調整力であったのか、物越し柔らかくにやにやヘラヘラしながら、眼光は鋭いままの松井周を観察しても謎は深まるばかりであった。その松井周の創作一端を公開稽古という形で覗けるというじゃあないか。これは未完成の作品を差し出される試演などではない。今はまだ存在しない表現が生まれる瞬間に立ち会えるやもしれぬ、それどころか松井周の秘儀を拝むまたとないチャンスなんだぜ!(励滋)※なお、『女王の器』の本公演は2月17日(金)〜26日(日)、川崎市アートセンターアルテリオ小劇場にて上演される。