マンスリー・ブリコメンド(2012年2月前半)

2月上旬のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。「東京以外の地域にも目を向ける」という年初の予告通りというべきか、ブリコメンダーは東奔西走。今月は関西にも進出します。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■激情コミュニティ『つぎ、待ち』
■カトリ企画UR『チェーホフのスペック?』
■ハイバイ『ある女』(名古屋公演)
■ロロ『LOVE02』
■渡辺美帆子企画展『点にまつわるあらゆる線』
渋さ知らズ de 怖いもの知らズ 渋さしらズ大オーケストラ公演『池袋大作戦!!』
■チェ・ジナ/劇団ノルタン『1洞28番地、チャスクの家』

日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■鹿の劇場「からだの発見」「物語の力」
■We dance 京都2012


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★一部、ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)とも演目がダブッています。こちらもぜひお読みください。
http://www.next-choice.com/data/?p=5880
■ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』
■オリガト・プラスティコ『龍を撫でた男』
■ロロ『LOVE02』






ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』

2月1日(水)〜5日(日)@座・高円寺(高円寺)http://www.bedandmakings.com/hakaba/

いい舞台を俳優が観て「この作品をつくった劇作家/演出家と仕事をしたい」と考えるのは、ごく自然なことだと思う。でも「一緒にユニットをつくりたい」と思い、実行するのは、大きく一歩踏み込んだ行為だ。何人もの俳優にその一歩を踏み出させ、アメーバの分裂のようにフクハラ・テイストを増殖させている作・演出家、福原充則。私はこの人の、音はゆったりしているのに意味としては切れ味鋭い笑いが大好きだ。
昨年、ニッポンの河川で上演された『大きなものを破壊命令』も実に素晴らしい作品で、小さな駅の西口と東口の間で少年が味わう永遠のような死の時間は、せりふが完全に詩だった。ハイバイの最新作『ある女』のラスト、主人公が生につながるとも死につながるとも受け取れる時空間をさまようが、私はあのシーンで『大きなものを〜』と共通する手触りを感じていた。死を劇的、決定的なものとして描くのではなく、生のすぐ近くにぼんやり存在する曖昧なものとして扱う手つき。それは、常識として流通していることを疑い、自分のアンテナで表現に変換する誠実な姿勢と、抜群のセンスだ。
『墓場、〜』は、自殺した女子高生と、彼女を生き返らせてしまった女子高生達の物語だという。墓場を舞台に死を真正面から扱う福原に、期待が高まる。(徳永)


鹿の劇場「からだの発見」「物語の力」

2日「からだの発見」 3日「物語の力」
2月2日(木)〜3日(金)@奈良市ならまちセンター 市民ホール(奈良・近鉄奈良

http://popo.or.jp/info/2012/02/happy-spot.html

障害がある人たちの舞台って、なんか善い人のまなざしで見守らなくちゃならないかのように思われるかもだが、だとするとひっくり返されるかもしれない。「上手なんだぁ」という風にじゃなくて、「こんなのもアリなんだ!」って。
2日はダンス。世田谷美術館の「トランス/エントランス」シリーズにも取り上げられた作品で注目を集めた森田かずよは新作のソロ作品を、アサヒアートスクエアでも上演された「ここだけの話」(振付け・砂連尾理)も再演される。
3日は演劇。奈良の施設の日中活動から派生した自閉症の人や知的障害がある人たちの劇団「くらっぷ」は、5年以上前に新宿タイニイアリスでカフカの『掟の門』を観たが、演出を手がけるもりながまことが門番を演じ、次々と現れるクセ者たちと会場を沸かせた。今では、鳥の劇場の「鳥の演劇祭」に一昨年・昨年と劇団として招聘されるまでになっている。それよりなにより、現在もりながは舞台に上がっていないという。障害がある人たちだけで、今回挑むのはベケットの『ゴドーを待ちながら』だっていうじゃないか。
3日のアフタートークに呼ばれているのだが、どんなことになっちゃってるのか楽しみで仕方ない。(励滋)


激情コミュニティ『つぎ、待ち』

2月2日(木)〜2月5日(日)@日暮里d-倉庫http://gekicomi.web.fc2.com/index2.html

未見の劇団。ひさしぶりに冒険枠を行使します。(*冒険枠とは失礼な言い方ではありますが、正体不明だけど気になるし面白そうな公演にえいやっと賭けてみる枠のことです)
企画書を読んだので、何をモチーフにしているか知っているのですが、ここではあえて書かないことにします。しかしわたしが密かに推している劇団sons wo : 主宰のカゲヤマ気象台も出演するなど、何か相当ヘンテコな劇団ではないかという気配は漂う。そして脚本担当の兼桝綾とは面識はないものの、実はとある同人誌でご一緒していたことが判明。わたしの隣のページに小説を書いていたので読んだのですが面白かったです。南米ふうのマジック・リアリズムかと思わせて現代的な疾走感の漂う切ない物語。読ませる快楽があるし、目の付け所がシャープだった。何かとんでもないことをやってくれそう。
「wonderland」のクロスレビュー挑戦編にもエントリーしているので、観た人はぜひレビュー参戦もご検討を。わたしも書くつもりです。(フジコ)
クロスレビュー挑戦編:http://www.wonderlands.jp/archives/20008/



カトリ企画UR『チェーホフのスペック?』(横浜公演)

2月2日(木)〜5日(日)@STスポット(横浜)http://stspot.jp/schedule/post-100.html

驚異的なペースで公演を打ち続けるカトリ企画。今回は再び鈴木史朗が演出するチェーホフ。プロデューサー・カトリヒデトシの野心はとどまるところを知らないのだった。
さてカトリ企画のポイントは、カトリ氏が見たい俳優・演出家を引っ張ってきて、通常の人脈では出会わないだろう俳優たちを同じ舞台に立たせるところにある。今や劇団ごとに演技方法が違いかねない時代にあって、これはともすれば寄せ集めにもなりかねないリスキーな手法ではある。果たして参加する俳優たちは新たな演劇の可能性を見せてくれるだろうか? 体調不良による俳優降板で最終兵器・夏目慎也(東京デスロック)がまたもや舞台に立つことになり、普通なら滅多に見られないだろう異色の座組が実現している。(フジコ)
トレーラー:http://www.youtube.com/watch?v=EkCxzVIELlA


We dance 京都2012

2月3日(金)〜4日(土)@元・立誠小学校、UrBANGUILD(河原町祇園四条http://www.wedance.jp/2012/

横浜で2009年に産声を上げた「We dance」。4年目の今年は、なんと京都へ! 褒め称えるべきは、こちらでやっていたものを巡回してあげるなんてのじゃなくて、まさに京都の「We dance」だというところ。山下残と か杉原邦生とか、出ないの? な人たちもいるけれど、F/Tで注目された相模友士郎や、言葉と身体のズレを模索している筒井潤といった演劇の枠を揺さぶる人たちが、関西を中心に踊っている人たちと「ダンス」を拡張してくれるはず。観たことない若手振付家のショーケースも盛りだくさん、わたしのお目当てのあの『再/生』にも通じるっていう多田淳之介『RE/PLAY』も観られて、クロージングトーク+ダンス☆ナイトにまで入れる、観て聴いて踊れちゃう2日間の通し券が前売りならば、な、なんと4,000円! さらに今なら、1ドリンクもつけちゃいます!(励滋)
※前売り券でも当日券でもクロージングトーク+ダンス☆ナイトには1ドリンク付きます。 



オリガト・プラスティコ『龍を撫でた男』

2月3日(金)〜12日(日)@本多劇場(下北沢)http://www.morisk.com/plays/ryu_index.html

旗揚げが01年で第5弾。決して活発なペースではないが、前回(09年)は新藤兼人の映画『しとやかな獣』、前々回(06年)はウディ・アレンの戯曲(映画台本ではなく!)『漂う電球』と、ひねりの利いた戯曲のセレクトで、濃い印象を残すオリガト・プラスティコ。作・演出家、ケラリーノ・サンドロヴィッチと女優・広岡由里子のユニットは、たまにオープンする趣味のいい古本屋のようなポジションを、演劇界に築きつつある。今回は、優れた評論家、翻訳家、劇作家、演出家であり、現代演劇協会の設立者でもあった福田恆存が60年前に発表し、当時、「福田の最高傑作」と絶賛された戯曲とのこと。
恥ずかしながら私はこの戯曲について無知なのだが、チラシ裏からストーリーを引っ張ってくると「十年前に不慮の事故で子供二人を亡くした、倦怠気味の精神科医夫妻。孫の死で夫の母は発狂。同居している弟は情緒不安定。元旦の午後、友人の劇作家が女優である妹を伴って、夫妻の家を訪れる」ところから始まる「怪しくてエロティックで、とんでもなくヘンテコリン」な話なのだという。「この店に置いてあるなら」と手に取った本がとんでもなくおもしろい、ということはある。目利きオーナーのKERA&広岡のセンスを信じて、未知の作品を味わおうと思う。(徳永)



ハイバイ『ある女』(名古屋公演)

【名古屋公演】2月4日(土)〜5日(日)  七ツ寺共同スタジオ
【福岡公演】3月24日(土)〜25日(日)  西鉄ホール

http://hi-bye.net/

前回のブリコメンドで、鈴木励滋と日夏ユタカ両氏が東京公演を紹介していて(http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120117/p1)、わたしも観たのだが、驚きました。新機軸、入ってます。女の不倫の話です。まるで小説のようです。人によって様々な文学作品を思い浮かべるかもしれない。暗い世界だが、とはいえすごく笑える。でも笑けている最中に突然泣いてしまう瞬間がやってくるのだった。そしてまるで迷宮だった。ハイバイ・岩井秀人の描く「笑い」と「涙」はほんとうに不思議なのだった。それが(それだけが)まるで生きている証しであるかのようにも思えてくるのだった。
ハイバイには『ヒッキー・カンクーントルネード』や『て』といった素晴らしいレパートリーがあるのだが、岩井秀人にはこうして年に1本は新作を書いてほしいと思った。あ、この『ある女』は本公演としてはひさしぶりの新作なのです!(フジコ)



ロロ『LOVE02』

2月5日(日)〜13日(月)@こまばアゴラ劇場駒場東大前)http://llo88oll.com/

2年前の『LOVE』の台本を基にしているとはいえ、おそらくほぼ新作としてお目見えすることになるだろう。それはタイトルに付された「02」にも示唆されている。ロロは更新されていく。「今」を疾走するだろう。
三浦直之には「@ぴあ」でロングインタビューをしたのでぜひともそちらを読んでほしい。ロロは決して単なる「ちょっともてはやされてる若者演劇の代表」とかでは全然なく、もっと普遍的でラディカルな演劇の魅力を追求しようとしている果敢な開拓者であるのだ。(フジコ)
http://www.pia.co.jp/konohito/miuranaoyuki/index.php

ふと周りを見渡すと、三浦直之ファンの大人の男性の多いこと! いや、「ファン」と言ったら抵抗されそうなので、こう言い換えよう。三浦の作品の出来と評判を、我がことのように心配する男性が、私の周囲にはとても多い。安っぽい推察で恐縮だが、世の男性が心の中にひっそり存在させ続けている“思春期の自分”に三浦作品の甘さと切なさとほろ苦さが、“思春期を卒業した自分”に三浦本人の頼りない真っ直ぐさが、ビビッドに響いているのではないだろうか。
私はと言えば、演出家・三浦直之は不器用ではあるがアイデアは豊富、劇作家・三浦直之は頑固と言えるくらい強いこだわりと長期的な野心を持っている、と認識している。つまり、多少時間はかかっても、心配する必要のない才能なのだ。ブリコメンダー藤原ちから氏の@ぴあのインタビューを読むと、今、具体的にやりたいこととそのための方法が彼の中にあり、自信も回復してきていることがわかる。そうなれば鬼に金棒。安心して客席に座っていよう。(徳永)



渡辺美帆子企画展『点にまつわるあらゆる線』

2月8日(水)〜2月12日(日)@アトリエ春風舎(小竹向原*プレビュー公演は2月5日(日)
http://watanabemihoko.com/

途中入退場自由、飲食自由、どこからでもお好きな場所からご覧くださいという、つまりはインスタレーション的な公演となりそうである。公演時間も「19:00-21:30頃」といったように境界があやふや。それはこのタイムテーブルの画像にも現れている。「点」のイメージ。
正直なところ集客だけを考えるなら、今の演劇界の趨勢の中では、こうしたインスタレーション的なやり方はまだまだ苦戦するのではないかと思う。観客のモードがこれに馴染んでいないと思うから。もちろん松田正隆や小嶋一郎など、まったくの先行例がないわけではないのだが……。しかし渡辺美帆子は実験している。というかこの人はわたしが見たかぎり実験しかしていない。きっと少し変わった人なのだろうと想像する。いつかその実験からとんでもない発明が生まれるかもしれない。(フジコ)



渋さ知らズ de 怖いもの知らズ 渋さしらズ大オーケストラ公演『池袋大作戦!!』

2月12日(日)@あうるすぽっと東池袋http://www.owlspot.jp/performance/120212.html

アングラに出自を持つ混沌としたジプシー的音楽パフォーマンス集団、渋さ知らズ。老若男女にファンを集める彼らが今年もあうるすぽっとに登場する。各班に分かれての多角的ワークショップの最終成果として、このオーケストラ公演は開催。いったいステージには総勢何人が乗るのか……。「やっぱり●●●、100人乗っても大丈夫!」という往年のCMを思い浮かべた。
実は昨秋にリーダーの不破大輔さんにインタビューしたのだった。本当にほんとうに魅力的な人だと思った。こりゃ、好きになっちゃうだろう。人をまとめるのは完璧主義の人間ではなくて、意外にこうしたいい加減な(?)雰囲気を身に纏った人間なのかもしれないと思った。余白があるし、得体の知れないパワーがある。それが彼ら、渋さ知らズのパフォーマンスにも現れていると思うのだ。(フジコ)
インタビュー:http://www.owlspot.jp/topics/20.html


TPAM in Yokohama 2012 チェ・ジナ/劇団ノルタン『1洞28番地、チャスクの家』

2月14日(火)@KAAT神奈川芸術劇場http://www.kaat.jp/pf/tpam-in-yokohama-128.html

いよいよ始まるTPAM in Yokohama2012。海外からたくさんのプロデューサーがやってくることもあり、日本の各劇団もここでしのぎを削ることになる。さて、何本観に行けるか……といったところだが、やはり来日する海外勢の動向も気になるところ。
韓国の劇団ノルタンについてわたしの知識はほぼまったくない。ただこの作品はどうやら舞台上に家を建ててしまうらしい。おいおいほんとか、と思うけどもダイジェスト動画を見たらそんなことになっていた……。
海外の若手作家たちが日本に紹介されていくのは、まだまだこれからなのだろうと、昨年のF/T公募プログラムでも思った。わたしが海外勢に期待したいのは、日本の舞台芸術とは異なる文脈を持ち込んでほしいということ。おそらく今後、アジアはもっともっと身近な存在になっていくだろう。というか、日本はアジアに溶けていくかもしれない。さてどんな作品がそこから生まれていくのか。まずは、異文化との接触を楽しみたいと思う。(フジコ)