マンスリー・ブリコメンド(3月前半)

マンスリー・ブリコメンド、3月前半です(コンセプトはこちら)。なおわたし個人については今回「こりっち舞台芸術まつり!2012春」にノミネートされている作品についてはブリコメンドから外しているので、今回で言えば、ひょっとこ乱舞『うれしい悲鳴』と、FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』、DULL-COLORED POP『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』は選択肢に入れていません。あしからずー。(3/3〜インフルエンザにより、うさぎストライプの公演が中止となった模様です。ご注意ください)


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評等も書く。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■東京デスロック+のこされ劇場≡北九州合同公演『再/生』
■うさぎストライプ『おかえりなさい?』(3/3〜公演中止)
■ヨコラボ'11b民俗芸能調査クラブ 春の実験まつり-本当にひとごとなのか?
■北九州演劇フェスティバル2012 ちょっと舞台(まち)まで 鳥公園『すがれる』ほか


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
■東京デスロック+のこされ劇場≡北九州合同公演『再/生』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=6313





東京デスロック+のこされ劇場≡北九州合同公演『再/生』

3月1日(木)〜4日(日)@枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市・枝光)http://otegarugekijou.org/irontheater/cn9/pg83.html

東京デスロックの『再/生』はまぎれもなく2011年の傑作のひとつだった。この作品は韓国や日本各地をツアーで回っているけども、特に今回は異色のものになりそう。北九州市にある「枝光本町商店街アイアンシアター」とそこを拠点とする「のこされ劇場≡」(こちらは劇団名)は、この作品に何をもたらすだろう?
今年1月にわたしはアイアンシアターを訪れて、近隣の人々と劇場との関係に驚いたのです。モナカ屋のおばちゃんがアイアンシアターで上演される芝居を全て観ていて、演出家に意見を言っている。蕎麦屋のおじちゃんが、観た芝居について「私はこう解釈した」と熱く語っている。劇場が人々の見る眼を開拓し、観る人たちがフィードバックして劇場を育てる、という幸福な関係がこの町には生まれつつあった。演劇は一方的に「観せる」だけでなく、「与え合う」ものにもなりうる。旧・八幡製鉄所が完成してから100年以上の歳月が過ぎて、そのお膝元にある町で、新しい歴史が刻まれようとしている……。
東京デスロック主宰の多田淳之介は、枝光北市民センターの長期滞在プログラム(足かけ3年)で地域の人たちとワークショップ作品をつくるなど、この地域とは浅からぬ縁を築いてきた。各地を飛び回るフットワークを持ちながらも、ある土地に根を残す、という彼の行動スタイルは、これからの時代のアーティストの在り方を示唆していると思う。
なお3/13にはアイアンシアターで地元の小学生劇団「アイアン・スマイル・キッズ」による公演があり、さらには市原幹也(のこされ劇場≡)、松田正隆(マレビトの会)、岸井大輔(PLAYWORKS)による町と演劇についてのトークなど盛りだくさんの一日。わたしもこの日は行きます。トークはUST中継もあるみたいです。(フジコ)

東京デスロックの『再/生』は昨年の横浜公演を観ていて、あと数週間も待てば埼玉の富士見公演があるというのに、なんでわざわざ東京から九州まで、けっして時間的にも金銭的にも裕福なわけでもないのに観にいくのだろう、なんてことを思った人には関係のない話をします。
東京デスロックの主宰であり、演出の多田淳之介さんがツイッターで、こんなことをつぶやいていたんですよね。
「小学生のこの街で好きな場所、に劇場で選ばれてるのは日本全国でアイアンシアターだけなんじゃないかな。普通に答えるんだよ、あそこの公園とアイアンシアターって。」 
たしかに、そんな場所をちょっと思い浮かばすことができずにいたら、今度は照明を担当する岩城保さんがやはりツイッターでつぶやいていました。
「アイアンシアターの来場者の三割は子供だそうです。アイアンシアターは普段から子供が遊びにくる場所になってるそうです。公演時は子供達は主に土日にご来場とのこと。どんな観客席になるのでしょうか。」
つい、土曜日に観にいくことを決めてしまいました。東京デスロックの『再/生』ではなく、そんな「枝光本町商店街アイアンシアター」をレジデントカンパニーとして育てあげた「のこされ劇場≡」との合同公演を観たいがために。
これは、ファンであるとか、そこでしか観られないものを観にいく、ということではじつはなくて、『再/生』という作品が放つであろう(すでに自分の観たものとはちがっているはずなので推測と信頼です)、その場にいる観客と共鳴して生まれる“柔らかな強度”に吸い寄せられて観にいく、ということなんですよね。
だからいま願うのは、いい作品を観たい、ではなくて、いい観客として混じれればいいなあ、ということだったりしますが、うーん、こんな説明でなにかは伝わっているのでしょうか。枝光のひと、北九州のひとの興味を少しでも惹ければいいのですが…。(日夏)



うさぎストライプ『おかえりなさい?』

3月2日(金)〜5日(月)@アトリエ春風舎(小竹向原http://www.usagistripe.com/

(3/3〜公演中止となりました。ご注意ください。)「かわいい」は近年の日本文化を表す最たる特徴と言ってもいいはずで、例えば四方田犬彦『「かわいい」論』という本も出版されたし、昨年武蔵野美術大学の美術館リニューアルにあたって行われた展覧会「WA:現代日本のデザインと調和の精神 世界が見た日本のプロダクト」においても日本製品の6つのキーワードの1番目に挙げられていた。しかしこの「かわいい」という価値をめぐる議論にはカタも付いてないし、なにしろ現在進行形のものとして、相変わらずオトナたちの眉をひそめさせることだろう。
うさぎストライプは、わたしの知るかぎりでは(そして前回公演しかまだ観ていないのでここまで言い切るのは早計かもしれないが)小劇場で最もこの「かわいい」を体現しようとしている存在だと思う。「かわいい」を身に纏うその在り方は一種の媚態かもしれないし、一歩間違えればあざといブランディングになってしまうという、その際どいところに立って、彼らは絶対に動きもしないはずの強固な壁に立ち向かっていく……。
表向きの雰囲気は180度真逆に見えるけれども、ある種、バナナ学園純情乙女組にも通底するようなこの「身に纏う」戦略については好みや判断が分かれるところだろうし、だからこそ前回公演『おやすみなさい?』に関するwonderlandのクロスレビューでも評価が割れたと思うのだけれども、まだまだ未知数で、これからどこに伸びていくのやら、楽しみなカンパニー。前回の『マクベス』に続いて、またもや「うろ覚え」で今回は『星の王子さま』をやるらしいです。(フジコ)


 

ヨコラボ'11b民俗芸能調査クラブ 春の実験まつり-本当にひとごとなのか?

3月3日(土)〜4日(日)@STスポット(横浜)http://stspot.jp/schedule/yokolab11b-springfes.html

ダンサー・手塚夏子は、実験の人である。実験を通して、身体のありようや、他者との関係の持ち方、そして世界の《脈》や《水面下》を探究しようとしている。今回は、彼女の呼びかけに集まったメンバーによる、民俗芸能調査を土台にしたプレゼンテーションとなる。
実はこの前段階として、今年1月に「実験して、接近する」という中間報告があった。これはアジアの様々な《近代化》以前の民俗芸能を調査し、《individual=個人》化される以前の、共同体における芸能の《脈》に触れ、そこで得たものを各メンバーが発表するものだった。祭りを土地の人たちと一緒に体験することで、その共同体に息づいているグルーヴや贈与・交換のシステムを体感し、自分たちのパフォーマンスに取り入れていく……。ダンスや演劇はもちろん、民俗学文化人類学社会学などに関心を持つ人にとっても刺激的な試みだったと思う。
今回はそこからさらに発展し、《世界に対しての反応》をさらに探究していくことになりそう。おそらく手塚たちが目指すのは、《メディア》としてのアーティストである。それは様々な種子や技能を伝播し、またその行為によって人々を結びつけていくような存在になるだろう……。わたしは日程的に観に行くのが困難なのですが、彼女たちの活動が少しでも周知されればと思い、ブリコメンドします。ちなみに《 》の言葉は全て手塚夏子自身の用いている言葉です。これらにピンと来たら、ぜひ。(フジコ)



北九州演劇フェスティバル2012 ちょっと舞台(まち)まで 鳥公園『すがれる』ほか

3月6日(火)〜18日(日)@北九州芸術劇場×京町銀天街(小倉)http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2011/engekifestival2012.html

北九州芸術劇場による、いわゆるアウトリーチの一環として開催されるフェスティバル。北九州市・小倉の商店街を舞台に、様々なアーティストがパフォーマンスやワークショップを展開する。
東京から滞在制作に赴く鳥公園は、大阪・芸術創造館で優秀賞を受賞した『すがれる』の第2工程に入る(第3工程は5月に東京で上演予定)。京町銀天街にある喫茶ファンファンの2Fでの上演となり、いわゆる劇場とは全く異なる小さな空間で、北九州の人たちとどのような関わりを結べるかが鍵。
北九州の地理や歴史について、東京在住のわたしの認識は薄かったけれども、元々、廃藩置県では小倉県と福岡県が置かれるなど、北九州(小倉)と福岡(博多)は全く別の町である。小倉は製鉄所や炭坑の労働者の町として、また九州の玄関口として栄えたが、今は(日本の多くの町がそうであるように)かつての繁栄ぶりには及ぶべくもない、と現地の人たちが口々に言っていた。それでも実際行ってみた感じからすると、まだ市場も残っているし、店も多く(「角打ち」と呼ばれる、呑み助にはたまらないスタイルの安酒場もある)、また工場と海といったロケーションなど、かなり独特な景色と匂いのある町であり、わたしはそこに魅力を感じた。上で紹介した枝光も、小倉から電車でわずか10分程度。北九州芸術劇場も立派な大劇場であり、さらには別府や熊本など九州各地に移住するアーティストも増える中、今後、九州と本州を繋ぐポイントにある北九州という土地は、ますます重要なパフォーミングアーツの拠点(ハブ)になるのではないか。
それからこのフェスティバルは、北九州芸術劇場の若い制作者たちが積極的に企画を進めている。公共ホールといっても、結局のところ何かを動かすのは「人」なのだと思う。
(フジコ)



FUKAIPRODUCE羽衣『耳のトンネル』

3月9日(水)〜19日(月)@こまばアゴラ劇場駒場東大前)
http://www.fukaiproduce-hagoromo.net/

羽衣のことを考えていたらふと、十年くらい前に関西から東京へ進出してきて、一時のブームをやり過ごし根を張った感のあるラーメン屋「神座(かむくら)」のことを思い出しました。初めて食べるときには“不思議感”があるだろうと言っちゃうラーメン屋。その心はどうやら、今までに無かったラーメンだからなんと評していいかすぐには判断がつかないだろうってことなんですけど、三回食べれば病みつきになるとも言うのです。ラーメンというものを根底から覆しつつも、けっして奇をてらうだけでなく、自分たちが考える「おいしい」ということを突き詰めた自負が伺えます。
神座好きが羽衣好きだろう、ってわけでもなんでもないんですが、演劇ってものをただ壊すんじゃなくて、今までに無かった表現を不器用に模索している羽衣を三回は観て、中毒になる人が続出したら、愉快な世の中になると思うんだよなぁ。
チラシの絵やコピーから『愛死に』の続編みたいな印象もあってすごく期待してます。(以前書かせてもらった『愛死に』評も、よろしかったら〜 http://bit.ly/9vBs1f(励滋)