マンスリー・ブリコメンド(2012年4月後半)

マンスリー・ブリコメンド、4月後半です(コンセプトはこちら)。なおわたし個人については今回も「こりっち舞台芸術まつり!2012春」にノミネートされている作品についてはブリコメンドから外しています。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評等も書く。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■岡崎藝術座『アンティゴネ/寝取られ宗介』
チェルフィッチュ『現在地』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
NODA・MAP『THE BEE Japanese Version』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=6778






岡崎藝術座『アンティゴネ/寝取られ宗介』

横浜公演:4月19日(木)〜24日(火)@STスポット(横浜)
熊本公演:4月27日(金)〜29日(日)@早川倉庫(熊本)

http://okazaki.nobody.jp/

大いに物議を醸した昨秋の『レッドと黒の膨張する半球体』(F/T11参加作品)以来となる、岡崎藝術座待望の新作。なぜこの2本立てなのか、と訝しく思うところだが、公式ウェブサイトに掲載された作家・横田創との対談を読む限りではそこに過度な意味付けはほとんどないらしい。とにかく、文脈やら解釈とかはさておいて、どかんと一発、快作を飛ばしていただきたい感じ。
岡崎藝術座の最大の魅力は「不可解なもの(異物)が突貫的にやってくる」ところにあると思う。それを成立させてしまう強さとユーモアが作家/演出家の神里雄大にはある。その時、いろんな存在が、善悪や美醜だとかいった価値の序列とはひとまず無関係に肯定されうるのだった。
文字通りの意味でユニーク極まりない岡崎藝術座を、安直にカテゴライズしたり、ありきたりの知性で捉えることは不可能だ。わたし自身、鰰(hatahata)名義での神里雄大については書いたことはあるけども(http://www.wonderlands.jp/archives/12652/)、岡崎藝術座についてはちょいちょい各所で言及する程度しかできていないので、いつかちゃんときっちり書かなければ……と宿題を抱えているような気持ち。未体験という人もこの機会にぜひご覧いただきたい。当日券も毎回出るらしい。しかも高校生以下はなんと無料。悩める10代諸君、横浜へゆけ!(あるいは熊本へ!)冗談抜きに人生変わるかも。(フジコ)



チェルフィッチュ『現在地』

【横浜公演】4月20日(金)〜30日(月)@KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ(元町・中華街
【福岡公演】5月6日(日)〜7日(月)@イムズホール(福岡)

http://chelfitsch.net/

「若者のダラダラ喋り」と見なされてきたようなチェルフィッチュの身体と発話における方法論(超口語演劇)は、今ではすっかりスタンダードと言っていいくらいに後進の若手たちに浸透し、模倣もされまくった。しかし実際どの程度までその試みがちゃんと理解されているのかと疑問に思うこともある。わたし自身も十全に理解しているとは言い難いのだけど、ただ、チェルフィッチュの舞台を観る時、やはり化学反応があって、身体が昂揚し、思考が開拓される。そして彼ら自身も変化を続けている。その後ろ髪をつかまえた!と思ったらするするとまた先へ行ってしまう。ここ数年、チェルフィッチュ岡田利規の足跡を追いながら、演劇とダンスについて考えてきたような気もする。
昨年末に何度目かの再演を迎えた『三月の5日間』では、浮かび上がったのは「若者のリアルな日常」とかではなくてむしろ「極めて異常なテンション」であって、ひとことで言えば「不穏な快楽」がそこには胚胎していた。ミッフィーちゃんを演じた青柳いづみも素晴らしく面白かったが、彼女も含め、今回は女優たちがたくさん出る。というか、女優しか出ない(もしかするとチェルフィッチュ始まって以来初めてのことでは?)。しかも過去のチェルフィッチュと時間を共有してきた精鋭揃いなのだ。
さらには下記のインタビュー(by徳永京子)によると、これまでの方法論とは別の形で「フィクション」を目指すらしい。……そんなわけで、とにかくよほどアクロバティックで素っ頓狂な言い訳でも思い付かないかぎり、「観ない」という選択肢は考えられない。ここ数年、演劇のフロンティアを開拓し続けてきた岡田利規の、新たな到達点(=現在地)を見逃す手はないのです。(フジコ)

http://www.pia.co.jp/konohito/okadatoshiki/index.php



NODA・MAP『THE BEE Japanese Version』

【東京公演】4月25日(水)〜5月20日(日)@水天宮ピット 大スタジオ(水天宮前)
【大阪公演】5月25日(金)〜6月3日(日)@大阪ビジネスパーク円形ホール大阪ビジネスパーク・京橋)
【北九州公演】6月7日(木)〜10日(日)@北九州芸術劇場 中劇場(西小倉・小倉)
【長野公演】6月15日(金)〜17日(日)@まつもと市民芸術館 実験劇場(松本)
【静岡公演】6月22日(金)〜24日(日)@静岡芸術劇場(東静岡・長沼)

http://www.nodamap.com/productions/thebee/index.html

07年の初演時は、客席数200席強のシアタートラム。NODA・MAP/野田地図の公演としては、シアターコクーンの740席や東京芸術劇場・中ホールの840席(改装前)にくらべ、一回あたりの客席数が非常に小規模な公演だった。けれど、あえて小さな空間を指向した効果はテキメンで、圧倒的な制圧感が生まれることになり、それが第7回朝日舞台芸術賞、第15回読売演劇大賞、第42回紀伊國屋演劇賞など数々の07年の演劇賞を総なめにする結果につながったようにも思える。
そして、今回の日本ツアーでもっとも長期公演となる水天宮ピットは、大スタジオという名前とはいえ、やはり客席数は初演時に近い250席程度。この小空間で野田秀樹の評価の高い、密度の濃い再演を観られるのは、ほんとに幸福なことだと思う(もともとは劇場ではないために値段相応の客席の快適さはないにしても、だ)。
一方、北九州や静岡は比較的大箱だが、だからといって作品の魅力が大きく減じるわけではないだろう。たとえば、宮沢りえの存在。08年『人形の家』のノラ役でシアターコクーンをひとりで完全に制圧してしまったように、彼女の纏う華は、観客が多いほど映える可能性は高い。なんといっても、初出演した『透明人間の蒸気』以来、『ロープ』、『パイパー』と継続的に野田作品に呼ばれつづけている事実がその実力の証。単なる知名度の高さや美しさではなく、役者としての魅力の豊かさに、はじめて生で遭遇したひとは驚かされるのではないだろうか。
そんな意味でも、この作品は演劇初心者(小劇場の舞台しか観ていないひとも含め)に強くオススメしてみたい。(日夏)