マンスリー・ブリコメンド(2012年11月前半)

マンスリー・ブリコメンド、11月前半です(コンセプトはこちら)。

なお、公演名の色について。関東ローカルなものは「青」、関西ローカルなものは「ピンク」、それ以外の地域を含むものは「紫」で表記しています。Q



★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1



今回のブリコメンド

藤原ちから/プルサーマル・フジコ twitter:@pulfujiko

■岡崎藝術座『隣人ジミーの不在』
北九州芸術劇場プロデュース『LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望』



日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか) twitter:@hinatsugurashi


鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

■岡崎藝術座『隣人ジミーの不在』



カトリヒデトシ twitter:@hide_KATORI


徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=9990




西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi

BABY-Q『惑星大接近、しかし衝突せず』



落雅季子(おち・まきこ) twitter:@maki_co

■DULL-COLORED-POP『完全版・人間失格
■柿喰う客『傷は浅いぞ』



古賀菜々絵(こが・ななえ)

■ゴブ・スクワッド&CAMPO『Before Your Very Eyes』
■万能グローブ ガラパゴスダイナモス『この中に裏切り者がいますよ』












万能グローブ ガラパゴスダイナモス『この中に裏切り者がいますよ』

【福岡】10月31日(金)〜11月11日(日)@ぽんプラザホール福岡市営地下鉄祇園駅
【大阪】11月16日(金)〜18日(日)@in→dependent theatre 2nd(大阪市堺筋線恵美須町
【宮崎】11月24日(土)〜25日(日)@メディキット県民文化センターチケットセンター(日豊本線宮崎神宮

http://www.galapagos-dynamos.com/

この劇団は昨年、東京のこまばアゴラ劇場での上演にて多くの観客の動員にも成功し、既に名前を聞いたことのある人もいるだろう。本当はそんなにオススメしなくても良いのかも…と思った。迷ったりした。多くの自己矛盾を承知でぼやいてみる。だってなんだかもう十分に色んなところでオススメされているし、初めて演劇を見る一般のお客さんにとって敷居の低いシチュエーションコメディーを精力的に作っていて着実に受け入れられいるし、活動拠点である福岡ではこの劇団以上に勢いとともに観客動員数を更新している劇団はないのだろうし。(注:もちろんここ以上に一定の観客を抱えた劇団は他にもあるが。)とにかく上昇し続けているのだから。
本作品は、初の劇団員&出演者のオーディションを福岡で開催し、それにより新しい劇団員も加わって出来上がった作品で、福岡では珍しいロングラン公演でもある。加えて作・演出の川口大樹氏は、過去4回にわたり九州戯曲賞の最終候補に上がっては「社会性に欠ける」等、様々な惜しさを謳われつつその筆に定評のある作家だ。その彼が、ついには「社会性なんかない」と開き直って書いた作品が、本作だという。原点回帰し、おそらく憎いくらいにフレッシュな作品になっているんじゃないか、きっと。オススメなんかしたくない、だって絶対に心を掴むのだろうから。オススメなんかしなくても、彼らは勝手にあまり演劇見ない人たちからオススメされるのだろうから。そんな、孤独さとは無縁のように“見える(見せる)”彼らの姿勢は、作品の節々に自分たちを楽しみにしてくれている観客に向けた笑いの仕掛けとなって顕れてくるのだと思う。オススメなんかしたくなかったのに、書いてしまった。オススメしているのにこんなだったらきっと嫌われるし、嫌な奴だと思われる。憂鬱だ。もうただの嫉妬じゃないか。いっそ皮肉に笑い飛ばしてもらいたいくらいだ。
公演期間中には多くのアフターイベントが企画されている。その中には生コメンタリーというものがあり、この回は特に推す。文字通り、劇中のあるシーンを、その場で生でコメンタリーを付けちゃおうという、この劇団が生み出した最も人気のあるコーナーだ。分かっているのに面白い、という場面がライブでどんどん飛び出し、想像するだけで既に楽しい。
今回は3都市を巡るツアーが組まれており、福岡以外の場所でも万能グローブ ガラパゴスダイナモスの作品を見て頂ける機会がある。大いに笑って楽しい時間を過ごしたい方にはオススメの一作である。(古賀)




DULL-COLORED-POP『完全版・人間失格

11月1日(木)〜11月7日(水)@青山円形劇場(渋谷)http://www.dcpop.org/index.html

DULL-COLORED-POP、通称ダルカラの新作は初の青山円形劇場。2010年にProject BUNGAKUという、複数の演出家が太宰治を短編演劇にして上演するイベントがあったのですが、その際に主宰の谷賢一が手がけた『人間失格』の完全版とのこと。谷氏のブログなど読んでいると、彼は作家として“太宰的”なる自意識と戦っている人にも見えるけれど、実はそこから洒脱に逃走できる脚力の持ち主だ。原作の自堕落なロマンティシズムはそのままに、強く儚く美しく『人間失格』を描いてみせてくれるはず。女性主演、男性主演の2バージョンで上演されるのだが、私がおすすめしたいのはコロ主演の女性バージョン。
イケメン女優と名高い彼女が、あの葉蔵役! 彼女の下から射るような眼差しや、唇の端っこで皮肉っぽく笑う姿はこれぞイケメンのイデアという感じで、あれで言い寄られたら私だって心中を断る自信は、ない。(落)



ゴブ・スクワッド&CAMPO『Before Your Very Eyes』

【山口】11月2日(金)〜11月3日(土)@山口情報芸術センター[YCAM]スタジオA(JR山口線山口駅、もしくは湯田温泉駅http://www.ycam.jp/index.html

ゴブ・スクワッドは1994年の結成以降、作品の発表を劇場やギャラリーだけにとどめず、住宅、店舗、地下鉄の駅、駐車場、ホテル、または路上等でも行い、メディアを巧みに用いたパフォーマンスを上演するなどして人々を魅了してきた。演劇と日常の境界を揺さぶるような活動を展開して国際的にも評価は高く、彼らの作品は世界各国で上演されている。最近では2010年に東京芸術見本市にて、映像インスタレーションの作品発表があった。その彼らが初めて日本に持ってくる上演作品『Before Your Very Eyes』が、山口県山口情報芸術センター(以降:YCAM)にて発表されるのだ。重ねて言うが、今回は“上演”作品で、しつこいようだが、これは日本初だ。
この作品の制作プロセスはYCAMのサイト等で丁寧に解説されているのだが、本作品に登場する子どもたちも大規模なオーディションによって選出され、作品はおおよそ3年間にわたり丁寧にクリエーションされてきたという。そして、出演者の子どもたちは作品の時間の中で「猛スピードで成長し、死を迎えるまでを演じる」そうだ。3年という長い制作期間での実際の成長と、劇空間での成長と老いは、加速度的に子どもたちの時間を進めてゆくのか? 時間がどう流れる…というかそこに在る…のか? 劇場で感じる時間はどんな質感なのだろうか。何が起こるんだろうか。とにもかくにも、行って実際に身体で感じたい。公演は英語・オランダ語上演/日本語字幕ありとのこと。この機会に、是非YCAMへ足を運んでみてはいかがだろうか。(古賀)



岡崎藝術座『隣人ジミーの不在』

11月2日(金)〜6日(火)@あうるすぽっと東池袋http://okazaki.nobody.jp/

まぁ、開幕したわけですよ、フェスティバルが。福祉業界もフェスティバルシーズンなので、なかなか舞台に赴けないのでクサクサしとります。で、トゲトゲした物言いになってしまうのを大目に見ていただきたいのですが、フェスティバルなんてものは所詮、なんだかよくわからないものが溢れる束の間の混沌なわけで、とりわけ世界規模の混沌に乗じようと思ったら、人は自分の手に負えていないものを、寸借した立派そうなあれこれで飾りつけて「それっぽい」ものに仕立て上げるなどと背伸びをしてしまいがちなんです。そんなものを観たところで、あなたの人生になんら痕跡を残そうはずもありません。
表現者気取りたちが自らの思慮の浅さをはぐらかす煙幕を焚きつづけるので、またしても言わなくてはなりませんが、「それっぽい」ものを作ろうとする輩と神里雄大を比べないでいただきたい。
モヤモヤしているイメージをそれらしくパッケージするのと、既存の方法では表現し得ないものを表現しようと挑むのは別のことなのです。
彼の作品はフェスティバルなんて枠を超えてあなたの人生に影響を及ぼします。見たこともない景色が拡がる舞台を体感することはすなわち、あなたが世界を感じる新たな方法を手に入れることだからであります。(励滋)

岡崎藝術座/神里雄大は、今まさにスケールアップしている最中なのだと感じる。この夏には台湾で公演し、未知の観客たちと遭遇した。時間は前後するけれども春にはヨーロッパの街なかでiPhoneを強奪され(笑←いや笑えない)、あちらの「移民」をめぐる政治性とアートとの関係についても骨身に染みて感じてきた模様。さらに今作では、韓国に数日間滞在しての稽古を敢行するなど(※だいぶ前から構想されていたアイディア)、まあ要するに、「日本」という内部のみの視点を越えたところで、何かを見て、感じて、クリエイションしているのだ、と思われる。名は体を表すというけれど、「神里雄大」というもともとの姓名がよく見ると凄い名前だからそれも運命かもしれないって思う。
以前、とある人が彼の作品を評して、「類い希な才能があることは一目瞭然だ、しかし、ツメが甘い」と洩らしたことがある。確かにそうかもしれない。だけれども、もしも神里がそこを器用にツメて完成度を高めようとする人間だったとしたら、それはそれでまた別の何かになっていたにせよ、きっと今のような得体の知れない形には進化しなかったのではないか。
例えば去年F/T11で観た『レッドと黒の膨張する半球体』は、わたしには、当時持っていたボキャブラリーの中でいうならば「不快感」にもっとも近い感情を与えられるもので、凄まじいダメージを受けた。それはわたしをひどく混乱させる舞台だった。確か観劇直後に友人たちと西巣鴨お好み焼きを食べたと思う。今思うとなんであのメンバーでお好み焼きを食べたのかよく分からない。そして観劇から数時間経って以後、夜になってひとりになり、じわじわと、いや急激に、眠っていた興奮が立ちあがってきたのだった。それは抑えようのない何かで、わたしの全身を食べちゃうかのようであった。その状態はしばらく続いた。いやもしかすると、あの時受け取ったsomethingは今も続いているのかもしれない。あの作品が良かったか悪かったかなんて未だに分からない。もはやその価値判断は少なくともわたしの観劇人生においては重要ではない気がするし、政治的・歴史的にナントカ問題を取り上げているからどうこう、みたいな話も正直なところわたしにはそれほど興味がない。だったら本、読むわ。ニュース、見るわ。というか、それなりに知ってるわ。そういうことではないのだ。
じゃあ、なんだ。
なんのために舞台を観に行くのか。
それを体感しにわたしは岡崎藝術座を観に行きます。
(この謎は舞台を見始めてからずっと抱えているもの……。)
そうそう、高校生以下は1000円だから、あらゆる先入観を捨てて曇り無い眼でぜひ観てほしいと思います。>高校生以下の諸君
若い人たちに期待してる(勝手だけど)。ここから先は誰も答えを知らない世界だから。(フジコ)



BABY-Q『惑星大接近、しかし衝突せず』

11月3日(土・祝)@名村造船所跡地(大阪・北加賀屋
http://www.baby-q.org/news/index.html

8月に東京のsuperdeluxeで行われた同名公演の再演のようだが、主催の東野祥子が企画者の1人に名を連ねる大阪アンダーカルチャーロックフェス「RoToR osaka 2012」の中で行われるとなると、元々は大阪の音楽シーンの中で「煙巻ヨーコ」名義で踊っていた彼女にとって、言わばホームでの公演となり、ただの再演では済まされそうにない。
ところで、この名村造船所跡地とBABY-Q東野祥子の組合せは、私にとって忘れる事の出来ない強烈な記憶に繋がる。少しお付き合い願いたい。
2011年3月13日。東日本大震災の2日後。原発爆発の翌日。すぐ後ろに海が広がるその会場で、私はBABY-Qの大阪公演『私たちは眠らない』を観た。開演前、客席の見知った顔と、知人の安否やこれからの不安について話したのをよく覚えている。そして公演は始まった。複数の墓標が立ち上がるオープニングの並々ならぬ緊迫感から、もう何かとんでもない事が始まっている気がした。神経症的な現代人の姿が次々演じられ、自らの性を強調する女子高生が現れた時、突然ステージの端から何の前触れもなく、もの凄く巨大な黒いビニール袋に空気が送り込まれ、それは静かにステージのほぼ全域を飲み込んだ。そしてステージ上の女子高生達も背後からそれに飲み込まれていった。それは石油をイメージした巨大な津波だった。もの凄い偶然に戦慄し、東野祥子の痛烈なメッセージ性と、それを陳腐にしないビジュアルイメージの強度に圧倒された。舞台は、通り魔殺人、中東のジャスミン革命、宗教紛争を想起させるイメージと、それと対照的に消費社会を享受する人々が何の説明もなく次々と描かれ、最後、息を殺してステージ上を見つめる観客の背後から、もの凄い爆音(それは本当に動物的・原始的に「恐怖」を感じる音!)を鳴らしながら、スピーカーで出来た巨大な球が、観客の頭上すれすれを通り、ステージ上に飛んで行った…!
「ああ、目の前で爆弾が落ちるというのはこういう体験なのだな。」驚きで真っ白になった頭の中で、何故か冷静にそう思った。
以上が、前作『私たちは眠らない』の私の記憶である。
それまで何となく「デビッド・リンチ的な」とか「ダークSF的な」と思っていた東野祥子のパフォーマンスは、「今、これを語らなければ」という直球のメッセージとコンセプトを、妥協のないビジュアルイメージに落とし込んでいた。
今、東野祥子は何を描くのか、何を語るのか、本当に期待している。(西尾)




柿喰う客『傷は浅いぞ』

11月9日(金)〜11月11日(日)@東京タワーフットタウン1F特設ステージ(赤羽橋、神谷町、御成門
http://kaki-kuu-kyaku.com/

本公演はリバイバル・プロジェクト2012と銘打たれていて、2007年に上演された作品の再演となる。B級アイドルがテレビ番組で勝ち抜くため、不幸やトラブルを物ともせずぶっちぎる面白さには、柿喰う客作品が持つ疾走感と昂揚感がぎっしり詰め込まれている。中屋敷さんは大人数の俳優を立ち回らせる演出もうまいけれど、こういう劇団員だけの小品でも同じだけの熱量を放つからすごい。ところで、昨年柿喰う客に新メンバーが入った、あるいは古参メンバーが脱退した、という事実は、2005年にドラえもんの声優がいっせいに変わったときの新しさと寂しさを私に思い出させた。いいか悪いかはともかく、比喩としてそれくらいのインパクトはあった。前回に引き続き主演は、鉄壁の看板女優、深谷由梨香。共演は永島敬三、大村わたる、葉丸あすかの新メンバー3人。大山のぶ代を、今のドラえもんに放り込んだらどうなるのか?!というような穿った楽しみ方もさることながら、彼らのパワーが深谷さんと共鳴して増幅していく姿こそがリバイバル公演の意義なのは間違いない。(落)




北九州芸術劇場プロデュース『LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望』

11月13日(火)〜18日(日)@北九州芸術劇場(小倉、西小倉)http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2012/1113landscape.html

万難を排してでも、北九州に駆けつける価値があるのは明らかだ。とはいえ、今の状況ではどうあってもわたしは行けないので、せめて誰かが目撃してなにかしらの言葉で伝えてほしい、と願ってこれを書いています。
作・演出の藤田貴大(マームとジプシー)にとってこの作品は重要な過渡期として位置づけられているのではないか、と感じる。過渡期、というのはつまりまだ彼は完成されていないのであって、おそらくは絶賛脱皮中なのだ。先日インタビューしたのだが(後日、あうるすぽっとのパンフレットやサイト等にて公開予定)、北九州に長期間滞在していた彼の言葉からは、北九州の街や港湾の情景、つまりはランドスケープが浮かびあがってくるのであった。
とはいえそれは淡いものではなく、力強い言葉だった。藤田は北九州・小倉の街でこの期間中、頻繁に酒場に足を運んでいたらしい。酒場、というのは、猥雑で、多様な声に満ちている場所である。小倉は歴史的にも荒くれ者たちのたむろする街だ。しかしそれがただ単に暴力的なものではないことは、実際にその場に身をさらして、皮膚感覚で感じることで初めて分かることなのだと思う。彼は今たぶんそうした経験を日々の生活=創作の中でしており、たくさんのものを吸収しているに違いない。きっと今作はもちろん、今後の作品にも活かされてくるだろう。
この作品は3月に東京のあうるすぽっとでも上演されるけれども、きっとかなり別の作品になる。今回、北九州に行くことでしか感じられないものがあるはずだ。
なお、せっかく北九州まで行くからにはあちらで行われる他の作品も観たい、という人のために。飴屋さんのプロジェクトはもう予約は締め切りだそうですけれども。(フジコ)

■けのび+dracom『《gallery》+《会して》』@えだみつ演劇フェスティバル
http://otegarugekijou.org/irontheater/edafes2012/artists/artists06a.html

■渡辺美帆子事務所『彼らは、いかにして、マスクをつけて出歩くようになったのか(仮)』 @ 大分AT HALL
http://watanabemihoko.com/athall12.html

飴屋法水によるアートツアー『いりぐちでぐち』@国東アートプロジェクト
http://kunisaki.asia/project