マンスリー・ブリコメンド(2013年4月)


4月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。

今回から、ここの更新を担当することになりました!
すこしだけ様変わりしたブリコメンドを、これからもよろしくお願いします。(落)


★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1



今月のブリコメンド

鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

カトリヒデトシ twitter:@hide_KATORI

徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=12668


西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi

古賀菜々絵(こが・ななえ)





ナイロン100℃ side SESSION #12『ゴドーは待たれながら

【東京公演】4月6日(土)〜14日(日)@東京芸術劇場シアターイースト(池袋)
【大阪公演】4月21日(日) 〜23日(火)@ABCホール(福島、新福島中之島
【名古屋公演】4月25日(木)@テレピアホール(栄)
【仙台公演】5月1日(水) @仙台市民会館 小ホール(勾当台公園
【盛岡公演】5月3日(祝) @盛岡劇場 メインホール(盛岡)
【水戸公演】5月4日(土)〜5日(日)@水戸芸術館ACM劇場(水戸)

http://www.sillywalk.com/nylon/


私が、いとうせいこうによって書かれたこの戯曲を知ったのは、大澤真幸の『恋愛の不可能性について』という社会学の本を読んだのがきっかけだった。「待つこと、待たれること」というタイトルで『ゴドーは待たれながら』(1992年、太田出版)の解説のために書かれた文章が収録されていたのだ。『恋愛の不可能性について』は、ごく一部をざっくり言うと、愛するという“行為”が愛される他者の“体験”に接続される際の非対称性を考える、みたいな本。(ざっくりすぎるので突っ込まないでください…)
21年の時を経て再演される本作品は、大倉孝二のひとり芝居で、演出はケラリーノ・サンドロヴィッチ。言うまでもなくベケットの有名な『ゴドーを待ちながら』をもとにした作品で、待たれているゴドーが、約束の場所に行きたいのになぜか行けない葛藤にのたうち回り、ひいては自分の存在をも懐疑する物語である。待つことは自分の気分次第で自由にできるのに、待たれることは待つ人がいないと成り立たない非対称性があって、やはりそれは愛することと愛されることに似ているように思われる。待たれている自分は待っている人にとって一体誰なのか、という問いに答えなどあるのだろうか? ちょっとベケットには一家言あるぜ、という方も、大倉孝二のファンの方も、本家『ゴドーを待ちながら』のあらすじを予習していくとより楽しめるはず。もし『ゴドーを待ちながら』の戯曲がお手元にあれば、登場人物のシーンごとの状態や、ト書きなどにも注意して読んでいくといっそういいと思う。なお、野田秀樹が声のみで出演しているので、それも見所(聞き所)です。東京公演は終わってしまったけれど、大阪、名古屋、東北を回るツアーはまだこれから。冒頭で書いた大澤真幸のあとがきは2010年に再販された戯曲にも収録されているので、興味のある方はぜひ、読んでみてほしい。(落)


Straw&Berry『マリア』

4月17日(水)〜23日(火)@王子小劇場(王子)
http://ameblo.jp/straw-and-berry-xxx/


河西裕介の書く芝居は、いつも誰かひとりの女の子のために作られたような一途さがある。本当のところはもちろん、知らない。河西がかつて主宰していた国分寺大人倶楽部(2012年2月に活動休止)を見たことがある人も多いだろう。彼はポツドール乞局に出演していたこともある俳優でもあり、人間が一瞬見せる優しさと悪意の生々しい描写がうまいのは、ポツドールの系譜上にある彼の魅力だ。そんな河西が新たに立ち上げたのが、佐賀モトキ、金丸慎太郎という二人の俳優と組んでの新プロジェクト、Straw&Berry。苺って、可愛いモチーフだけれどよく見ると外見は結構グロテスク。つぶれると気持ち悪いし。でも、つぶした苺に牛乳とお砂糖をかけるとおいしい。そういう二面性が河西の作品にはあって、それは繊細すぎる人が乱暴でもあることに似ている。
前半日程で予定されている終演後のおまけ演劇は、国分寺大人倶楽部時代にも人気があった企画ですが、本編の余韻を損なうほどのふざけっぷり(褒めてる)と思われますので、心して観るべし。(落)


Q『最新の私は最強の私』(@「flat plat fesdesu Vol.2」Cプログラム)

4月25日(木)、27日(土)、29日(月)@こまばアゴラ劇場駒場東大前)
http://qchan9696.web.fc2.com/Q/next.html

わたくしごとですが怪我をしてしまい、まだ外出さえもままならぬ状態、でありながら、ひさびさにブリコメンドしなくっちゃと思ったわけは、Qがもうすぐ公演を打つことをみなさんまさかご存知ないのでは……?、と危惧するからです。KENTARO!! 主宰のダンス企画「flat plat fesdesu Vol.2」にQが出ますよ(Cプログラム)。他団体とのラインナップの中に入ると「Q」の文字は埋もれがちだけど、実はタイトル凄くって、『最新の私は最強の私』というらしい。

何度か繰り返しここに書いてきたように、Qはきっと感覚的に(天才的な嗅覚で?)つくっているのでしょう、他に類をみない抜群のセンスがあり、世の中の常識に囚われない自由奔放さは、若さゆえの無敵感に裏打ちされている部分も少しはあるのかもしれない。だけど、Q=市原佐都子の根っこにはとても大事な思想があるのであって、ただ闇雲につくっているわけではもちろんなく、むしろかなり冷徹な目線で、あるいは嗅覚で、ちゃんと捉えてようとしている何かがある、と思う(それを感じさせるひとは少ない)。前作『いのちのちQ』では、かなりクリティカルにこの世界の断面を切りとっていた。20代前半の作り手の中ではひとつ群を抜いたのではないかと感じている。最強を名乗っても全然オッケーだと思う。

とはいえ今回は初の短編作品でもあるし、しかもQ発足以来初めて吉田聡子が出られないとゆうなかなかのピンチ(?)だけれども、『いのちのちQ』でもコンビを組んだ角梓と飯塚ゆかり(オグリとジョセフィーヌを演じていたひとたち)の二人芝居とあって、今までとはひと味違ったQを見せてくれるチャンスかも、って気がしている。

なお、狭き門を通り抜けてF/T13公募プログラムにも選出された。今年は大きくはばたきそうですね。(Q)

P.S.
ちなみに「flat plat fesdesu Vol.2」、かなり面白そう。個人的には、岩渕貞太、たかくらかずき、ピグマリオン効果らが出るBプログラムにも注目。ピグマリオン効果はまだ結成されて間もない若いパフォーマンスユニット。新しい感覚を持っているかも? 可能性は未知数。
http://www.crackersboat.com/




sons wo:『戦場のピクニック』(@戦場のピクニックフェスティバル)

4月29日 (月)〜30日(火)@日暮里d-倉庫(日暮里)
http://sonswo.web.fc2.com/
http://www.geocities.jp/azabubu/arrabal.html

もうすでに、上のQのブリコメンド書いただけで息も絶え絶え状態だけど……もうひとつだけ。同じくF/T13公募プログラムに選出されたsons wo:が、「戦場のピクニックフェスティバル」に参加する。これは、参加する全15団体がフェルナンド・アラバールの不条理劇『戦場のピクニック』をそれぞれに演出するというもの。『戦場のピクニック』を恥ずかしながらわたしはまだ現時点では読んだことがないのだけれど、何かの本を読んでいて、「息子が戦争しているところにその親がピクニックにやってくる」というとんでもない戯曲だと知って、気になっていたので、観たい。

sons wo:はこれまで、時として破壊的な面白さを秘めつつも、自分たちの手の内に閉じこもってしまうがゆえにもうひとつ突破できない、という公演が散見されたようにも思う。ただ、そろそろ何か変わり目を向かえているのかもしれない。今年に入って若手の登竜門といえる芸創CONNECT vol.6で最優秀賞を受賞する快挙。わたしはその場には居合わせることができなかったけど、審査員のやなぎみわが「可愛い」と評したとの噂を耳にして、えっ、マジか、sons wo:が「可愛い」といわれる時代がまさか来るなんて……と驚いたものです。愛されるのは大事やね。秋にはF/Tも控えているから、いやおうなく新しい観客に向けて「ひらかれていく」ことになるのかなと想像しています。

ところでsons wo:は、こうした特定の作家にフォーカスしたフェスティバルにすでに参加した経験があって、その時彼らは宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』を上演したのだが、斬新な解釈(?)でなにやら痛快なクリティカルヒットを弾き出していた。わけがわからなかったけど、あれはなんだか愉快だったなあ……。今回もアウェイの環境になると思うけども、なんとなく、面白そう。(Q)