マンスリー・ブリコメンド(2013年10月)

10月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。

観劇の秋も本番ということで、西で東でおこなわれる様々な魅力的な作品をご紹介します。(落)

★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1


今月のブリコメンド

日夏ユタカ twitter:@hinatsugurashi


■ スガダイロー五夜公演『瞬か』


鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

カトリヒデトシ twitter:@hide_KATORI

徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi


古賀菜々絵(こが・ななえ)



■スガダイロー五夜公演『瞬か』

10月30日(水)〜11月4日(祝)@あうるすぽっと東池袋/池袋)
http://www.owlspot.jp/performance/131030.html

出演:スガダイロー
[10月30日]岩渕貞太、田中美沙子、喜多真奈美
[11月1日]飴屋法水
[11月2日]contact Gonzo
[11月3日]酒井はな 
[11月4日]近藤良平

昨年8月、荻窪のライブハウス・ベルベットサンで行われた『大谷能生:四〇歳記念7DAYSパーティー』のある夜。ゲスト出演していたスガダイローのピアノをはじめて聴いた。暴力的ともいえる超絶技巧が繰りだされ、狂気にも近い、激しく挑みかかるような空気をまといながらも、その眼差しはつねに冷静にして冷徹。プロの将棋指しのように相手の手を読んで封じるかのごとき駆け引きもあれば、すべての技を受けて立つかのようなプロレス的な気概も、そこにはあった。

帰宅後、すぐに調べてみると、まるでライフワークのように数多のミュージシャンと真剣勝負を繰りひろげてきた過去がわかる。しかも、『スガダイロー七夜連続七番勝負』と題された即興対決もかつてベルベットサンで行っていた。そのときの音源を中心にした『スガダイロー 八番勝負』というCDの存在も知り、即座に注文、届いてすぐに聴いた。
と、それは、ジャイアント馬場の「世界選手権争覇十番勝負」からはじまり、ザ・デストロイヤーの「覆面世界一決定十番勝負」、ジャンボ鶴田の「試練の十番勝負」、藤波辰巳の「飛龍十番勝負」などから連なる、闘う魂の系譜、だった。ときに対峙し、ときに溶けあい、互いが相手を認め合うことでしか生まれない、ある種ジャズの本質でもあるのだろうけれど、最良のプロレス的な音楽があったのである。

そして今回の対戦相手は、ダンス界から喜多真奈美、田中美沙子、岩渕貞太、酒井はな、近藤良平(コンドルズ)。くわえて、身体的な表現も得意とするアーティストであるcontact Gonzo飴屋法水という布陣である。 これはもしかしたら、アントニオ猪木の「異種格闘技戦」のような挑戦的な試みなのだろうか。それゆえ同様に、“世紀の凡戦”が生まれてしまう可能性もあるのだが、正直、心配は無用だろう。
なにしろ、スガダイローは、過去にバスケットボールプレイヤーとの異色の対決という実績もあるからだ。

スガダイロー + バスケットボールプレイヤー - LIVE @ SPECTACLE in the Farm .

噛みあうことどころか、おなじ土俵に立つことすら想像しにくい組み合わせにもかかわらず、最後。体育館に響きわたる音が、儚くも消えゆくさまはキセキのように美しい。

だから今回も、研ぎ澄まされた即興対決を期待したい。それはやはりパフォーマーたちが発する微かな音と絡みあうのか、はたまた視覚が聴覚に反転されるのか。絶対に再現不能な「瞬か」をぜひ、体験してほしい。
(ひなつ)




■鳥公園『カンロ』

10月25日(金)〜11月2日(日)@三鷹市文化芸術センター(三鷹
http://bird-park.info/


報われない思いに、興味がある。鳥公園の新作のチラシには「報われる気配がない」と一言、書かれている。盲目的な恋というのは、「私」が思い描いたその人の像をひたすら慕うということになりがちだけれど、たとえば現実世界に生きているその人が「私」を好きだと言ってくれたら恋は報われるのだろうか。その人が、「私」の思い描いたような人ではなかったとしても?
池袋シアターイーストで行われたショーケース「God save The Queen」で上演された『蒸発』で、男の部屋を覗いていた森すみれは、終始客席に双眼鏡を向けていた。そのときの私は、演劇の観客であると同時に、作品中で覗かれる男でもあった。西尾佳織は創作において、そのようなボーダーの融解を意図的に試みていたように思うし、先ほどの盲目的な恋のたとえ話で言えば、「彼を好きな彼女が思い描く彼」と「現実の彼」と「観客としてまったくの第三者が目にする彼」を、ひとつの軸上で等しく見なすところからスタートさせる手つきを感じる。西尾は「God save The Queen」のパンフレットに“自分の隣に、理解できない、したいとも思えない他者がいる感覚を、私は知らなかった。そのことを考えたいと思って、この作品をつくった。”と書いていた。彼女は今、「人が他者を理解できる」とはどういうことか、根底から問い直す途方もないフェーズに入っているのだと思う。そのことに費やした時間がすべて報われるとは限らないかもしれないけれど、でも彼女には、報われない小道を歩む不安にも耐えうる強さがある。そうして歩いてゆくうちに、ある日きっと甘い露が降りそそぐはずだ。
舞台美術の杉山至は、今回が初めての鳥公園参加となる。作品に、余裕ある奥行きとしての遠景を与える舞台美術は大きな見どころ。「俳優と関わる舞台美術」「誰かが象ったらその形に見えてくる舞台美術」をコンセプトに作ったと、初日のアフタートークで語っていた。三鷹市文化芸術センター、広い星のホールで11月2日まで。「God save The Queen」で鳥公園が気になったならば、ぜひ。三鷹からは徒歩15分ほどですが、バスも出ていますのでこちらのアクセスマップをどうぞ。(雅季子)




■ ままごと『港の劇場』(おさんぽ演劇『赤い灯台、赤い初恋』ほか)


〜11月4日(月)@小豆島坂手地区(坂手港)

http://www.mamagoto.org/minato.html
http://mama-goto.tumblr.com/



あの『わが星』で大ブレークし、斬新な手法によって演劇を更新してみせた柴幸男(ままごと)が、今どこで、何をしているのか? 知らない人も多いと思う。ここ数年、彼らは東京でのプレゼンスにこだわらず、むしろあえて放棄してきたかのようにも見えるのだが、実は、着実に、別の可能性や豊かさにアプローチしている。最近、彼らの発表を横浜の象の鼻テラスで何度か観て、すごく風通しが良い、と感じ、何がそれをもたらしているのか、その正体を知りたくなったので、現在彼らが滞在している小豆島を訪ねてみた。

おさんぽ演劇『赤い灯台、赤い初恋』は、案内人について島をめぐるツアー。その景色を堪能するだけでも、充分に観光的な価値があるし、島について、いくらか詳しくもなるだろう。運がよければ、何かしらの素敵な偶然に出会えるかもしれない。……だから繰り返すけども、それだけでも十二分に価値があると思う。それに、こんな偶発性を受け入れるような演劇をつくるだなんて、数年前の、どちらかというと完璧主義にも思えたあの柴幸男の姿からはちょっと想像できない。

しかし何より驚いたのは、彼の書いたテクスト。言葉の力。そしてフィクションを呼び込む力である。普遍性を追求してきた柴幸男が、現時点で到達したひとつの答えがここにはあると思った。その普遍性は、けっしてこの島に生きる人々の個別の物語を蔑ろにはしない。かといって、島の現実に媚びるわけでもない。ある小さな、ささやかな嘘が、島に眠っている無数の物語へと通じていく。海の向こうの景色が見える……。

小豆島の町長が、この演劇から得た感動をブログに綴っている(下記リンクの第1064回を参照)。少しネタバレもあるので気にする人は後で。
http://www.town.shodoshima.lg.jp/oshirase/youkame-semi.html

日々、メニューが変わるので、ウェブサイトを参照のこと。小豆島へのルートは、神戸、高松、岡山などから船で。他の島からも渡れる。いずれも本数がかぎられているので注意すること。土庄港から坂手港まではバスで40〜50分ほどかかる。坂手港ターミナル前の観光案内所に行けば、瀬戸内国際芸術祭に関するもろもろの情報が手に入る。その上にあるei cafeもオススメ。 (フジコ)




■ 枝光八幡宮に『鐵神様』を奉納する上演

10月20日(日)枝光八幡宮境内@枝光
http://info.edafes.com/


さて、数ヶ月前から楽しみにしていた公演がついにやってくる。今年の「えだみつ演劇フェスティバル」最大のイベント。かつて製鉄所によって栄えたこの町で、鉄の神様をつくって神社に奉納する、という大胆な試みが、枝光八幡宮の協力のもと、国内各地のアーティストたちが結集して行われる。「演劇」の概念を根底から問い直し、各地を渡り歩いてきたさすらいの劇作家・岸井大輔、また九州に移住し、各地の伝統芸能の「脈」を掘り起こしているダンサー・手塚夏子、そして数日前から枝光入りし、すでにこの地の酒脈・歌脈(?)につかりつつあるミュージシャン・大谷能生など。加えて、同フェスティバルに参加している脇泥と遠藤麻衣(二十二会)も参加。もちろん、枝光の地で数年間活動してきた、のこされ劇場≡も準備をしている。演出・企画はその主宰・市原幹也。さらには地元の(当時)小学生たちが自主発生的につくった自由奔放な子供劇団・アイアンスマイルキッズも参加する。

昨日、その神社まで歩いてみて、神聖な場所だなと思いつつ、いっぽうで、枝光の商店街の人たちのこの公演に対する、ある種の俗っぽい期待も感じた。芸術や芸能には、どうもこのような聖俗あわせ持ったところがあるらしい。いうまでもないことだが、演劇とか、アートとか呼ばれるものが、ある町と関係を持つにあたっては様々な形がある。そしてそれがどんな土地であっても、町の人たちすべてが歓迎するようなアートなどありはしないだろう。それでも、人間や町には、ある種の寛容さもまた必ずや存在する。異物を迎え入れる大きな力のようなもの。この町にはきっと、それがあるのだ。

今さらブリコメンドしても意味ないかとも思ったんだけども、今からでも飛んでくるだけの価値はあると思う。そしてもう、この先、このような奇蹟の現場に立ち会えるかどうかはわからない。不可能とは言わないが、少なくとも難しくはなるだろう。
ちなみに前日の19日の14時から、枝光本町商店街においてカラオケ大会が開催される。大谷能生+のこされ劇場≡も16時頃から登場するらしいですぞ。 (フジコ)





■ 快快『6畳間ソーキュート社会』

10月18日(金)〜20日(日)@東京ワンダーサイト渋谷(渋谷)
http://faifai.tv/news/faifai/2009/


やってしまった……。数日前に旅に出てしまったので、そのあいだに関東地方で起こるできごとを目撃できなくなってしまったのだ。人間を含むあらゆる物質は、同時に2箇所に存在することはできない、という存在論の基礎中の基礎を今、東京から遠く離れた西の町にある、安宿の一室で、噛みしめざるをえない……。いや、しかしこれだけテクノロジーが発達した現代なのだ。何か良い方法はないのだろうか? とりあえず、迷惑を承知で生き霊を飛ばしてみることにする。

『6畳間ソーキュート社会』は、昨年の『りんご』以来、快快(faifai)が新しく生まれ変わってからの最初の本公演作品となる。この夏に九州のひた演劇祭で誕生したばかりの新作。新生・快快の再出発を告げる作品――。とはいっても、作・演出から制作にいたるまでずらりと並んでいる錚々たる顔ぶれを見ると、頼もしい、という言葉しか浮かんでこない。
ウェブサイトには、おそらくは北川陽子によるものだと思われる文章で、こう書かれている。「日本の東京の渋谷のビルの小さな片隅で発表される新作は、どんな時も私から社会へのとっておきのプレゼンテーション」。以前、北川は別の場所で、「プレゼント」という感覚が自分にはあると語っていた。そう、彼ら快快にとって「プレゼンテーション=作品発表」とは、きっと「プレゼント=贈り物」にも等しいのだ。
今回は予約特典として、ライター橋本倫史によるインタビューが掲載されたZINEがついてくる。これも一種の贈与である。橋本くんのバイタリティにはいつもながら舌を巻くけども、今はせめてこのZINEだけでも欲しい(友だちにお願いするわ……)。 (フジコ)




■日韓共同プロジェクト『つれなくも秋の風』

10月19日(土)〜27日(日)@急な坂スタジオ(桜木町日ノ出町
http://kyunasaka.jp/archives/2338


現在、演劇の稽古場などとして使われている急な坂スタジオは、その名のとおり、坂をのぼった上にある。私もワークショップで一度だけ訪れたことがある。れんが造りのうつくしい建物だな、と思ったけれど、その昔、結婚会館だったという由来は知らなかった。果たして、何組の夫婦を送り出してきたのだろう。彼らはこの建物で結婚式を挙げた思い出を振り返ったり、するのだろうか。そんなことすっかり忘れて、横浜から遠く離れた場所で暮らしている人たちも多いのかもしれない。
今作は、観客と俳優が1:1でペアを組み、10分ごとに出発して急な坂スタジオ周辺をめぐる形式。結婚と契約と記憶の物語とのこと。演出はソ・ヒョンソク。F/T11での批評家・イン・レジデンスでの発信や、F/T公募プログラムによるF/Tアワードの審査員としても知られた人物である。
結婚は(私にとって)未知の世界だ。未知なるものはおそろしい。おそろしさに立ち向かうための祝祭が結婚式なのだ、などというのは言い過ぎだろうか。俳優と一緒に歩いているうちに、私の中に何が生まれるのだろう。おそろしく思う気持ちが消えて、何か変化が起きるのだろうか。ともかく信じて進むしかない。誰を? 一緒に歩く相手? いや、本当に信じるべきなのは、相手を信じると決めた自分だ。今のところそこまでは、分かっている。 (雅季子)


■ 『梨はにばんめ、茄子はごばんめ』

10月12日(土)〜13日(日)@くらしのアトリエひらや(中野、高円寺)
http://101213hiraya.seesaa.net/


俳優の立蔵葉子、後藤ひかりのふたりが出演して、俳人である島村和秀のテキストを使う催しもの、らしい。「みるほうもやるほうもリラックス」「朗読、小話、お悩み相談、分類しづらいパフォーマンス、あわよくばお茶会をするつもりです」とチラシに書いてあります。俳句を使ったパフォーマンスだけに「梨はにばんめ、茄子はごばんめ」という不思議な余白に満ちたタイトルは、何かの下の句なのかもしれないな、と思ってみたり。定員が各回16名という小規模なもののようですが、こういう、俳優たちだけで何かやるイベントは“演出家”的なものを離れた力の抜け具合から、奇妙なクオリティが発揮されることがあるもの。リラックスと言っても決してぐだぐだという意味ではなくて、仙人のような達人のような、自然体のさじ加減が必要だけど、彼女たちふたりならそのハードルは初めからひょいとクリアされていそう。ひとりでふらっと行くのもよいし、友達の家に何人かで遊びに行くように訪ねていっても楽しめるでしょう。劇場で役を演じている俳優と相対するのとはまた違う時間が流れると思うし、それはきっと完全に素の彼女たちというわけでもなくて、現実と虚構の狭間を渡るように“リラックス”した体験なのではないでしょうか。
予約はHPからメールにて。相談してもいい悩み事、懺悔したいことなどを書いて送ると、当日ふたりが解決してくれるかも? (雅季子)




■ 『天幕渋さ船〜龍轍MANDALA〜』“徹底版、渋さ知らズ!”

10月5日、6日@KAAT(日本大通り元町・中華街
http://www.kaat.jp/detail?id=7735


渋さ知らズの音楽性については、こちらの不破大輔インタビューを読んでください。彼らが多くの人を引きつけてやまないのは、きっと、その音楽が、消費文化的な「音楽」としてパッケージされる以前の何かを強く感じさせるからだと思う。
文字数の都合で記事では割愛したけれども、不破さんは、エミール・クストリッツァの映画『アンダーグラウンド』のラストシーンについても語ってくださった。確かに、死者たちが踊り狂うあの島の饗宴ぶりは、まさに渋さ知らズそのもの、ではないだろうか。
公演は2日間。内容が異なります。またその前に、9月28日、29日の土日には横浜で練り歩きもあり、こちらもたいへん楽しみですね。 (フジコ)