マンスリー・ブリコメンド(2014年3月)

3月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。

気づけば三月。今月も魅力的な作品が続々上演されていますが、その中でも特別のおすすめを選んでお届けします。あたたかくなって、桜が咲くのが待ち遠しいですね。(落)

★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1


今月のブリコメンド

鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio
徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

落雅季子(おち・まきこ) twitter:@maki_co

■あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』


西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi

古賀菜々絵(こが・ななえ)




春秋座サバイバーズ『レジェンド・オブ・LIVE』

3月22日(土)、23日(日)@京都芸術劇場 春秋座
http://www.k-pac.org/performance/20140322b.html


今回紹介するのは京都の杉原邦生である。演じるシニア企画2013と冠をもつ春秋座サバイバーズの『レジェンド・オブ・LIVE』。EXILE好きの杉原らしい、カッコいいタイトルだが、「演じるシニア企画」とはプレスによると「舞台経験を問わず、60歳以上の一般の方を公募し、「春秋座の舞台に立つ」を目標に2013年夏から毎月1回、プロデューサー橘市郎や照明家岩村原太、劇作家演出家で舞台芸術学科科長川村毅能楽師河村博重、ダンサー山田せつ子ら(敬称略)による全7回のワークショップをうけ公演を準備してきたものである。31人! 61歳から83歳までのシニア、平均が60代後半という面々が出演。公式サイトでもその勇姿(としかいいようがない)をみるともうかっこよくてしかたありません(出演者写真をクリックしてね)。杉原ですから紹介動画もあります。

杉原が「春秋座サバイバーズにはカッコいい人たちしかいない。僕はそう思っています。だって、60 歳を過ぎてもなお、新しいことに挑戦していこうとする人たちの集まりだから。 」というのも当然だなー。

2010年のこまばアゴラ劇場〈冬のサミット2009〉で当時サミットディレクターだった杉原が同様の60代以上を公募してワークショップ形式でダンス作品を創作、発表した『青春60デモ』の参加者が3人であったことを考えると、なんと充実したことでしょうか。10年の作品でも、踊れっこないシニアたちを京極朋彦ら気鋭のダンサーたちが補い、世代を超えた一体感で、最後には客席の観客たちまでもが舞台に上がって一緒に踊るというまさに「祝祭」をみせてもらった。期待しすぎて、京都いってしまいます。(カトリ)





サンプル『シフト』

3月14日(金)〜3月23日(日)@東京芸術劇場(池袋)
http://samplenet.org/


サンプル(作・演出=松井周)のここ数作のテーマは「境界を溶かす」だったように思うが(岸田國士戯曲賞受賞の『自慢の息子』など)、F/T13で上演された昨秋の『永い遠足』では、これまで以上に新しい価値を創造していこう(再生しよう)とする気配が濃厚に感じられた。それはきっと、彼らの言葉で言うところの「物語を着脱する」というコスプレ感覚/プレイ感覚が前景に出てきたからだろうし、それは今回再演される『シフト』(2007年初演)でもおそらく感じることになるのではないかと予想している。
チェルフィッチュ岡田利規がサンプルのウェブサイトに文章を寄せている(http://samplenet.org/2013/12/06/13_shift/ )。そこで岡田は、「現在の日本の演劇の王道はサンプルなんだ」「同時代にサンプルのような堂々たる嫡子がいてくれて、心強い」と述べ、そして「僕は僕でミュータントとして精一杯やろう」と締めくくっているのだが、確かに松井周は演劇史を引き受けようとしているように見えるものの、いやいや松井さんだってかなりヤバめのミュータントでしょう、それが一周まわって(あるいはそれらしい顔のコスプレをして)王道に見えているだけでは?、という感じもしている。……まあ、なにはともあれ、奇ッ怪な人間たちの様々な醜態や、神話にも似た物語の深層部を、「愛嬌」と共に描きつづけてきたサンプルが、様々な演劇の遺伝子を受け継いでなおかつ「変態=転生」させようとしている姿は、確かにとても心づよい。これからもなお(ますます)演劇や物語のさらなる魅力を探求してくれるだろうと思う。
『永い遠足』でも抜群の存在感を見せていた劇団員(古屋隆太、奥田洋平、野津あおい)に加え、兵藤公美(青年団)、武谷公雄、黒宮万理(少年王者舘)、市原佐都子(Q)というバラエティに富んだ(というか破壊力抜群の……)豪華客演陣も相当に魅力的。舞台美術は今回も(つい先日、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞した)杉山至が手掛ける。(フジコ)





地点×KAAT『悪霊』

3月10日(月)〜3月23日(日)@KAAT(日本大通り・元町中華街)
http://www.kaat.jp/d/akuryo#.UyHAA17nceA


その「地点語」とも呼ばれる異化効果抜群の語り口は、ほとんど音楽を奏でるかのように進化しつつある。しかもいわゆる一人一役でわかりやすい物語があって……というスタイルはほとんど採らずにテクストのコラージュによって構成していくので、まあ前衛的と見なされることになるだろうけども、一方ではまるでコミックバンドかのようなユーモラスなエンターテインメント性も放っていて、すごく可笑しい……(この点に関してはあまり他人の同意を得られたことがないが、少なくともわたしには往年のドリフのような魅力を放つ集団に思える)。

京都を拠点とする地点は、ここ何年かは横浜(KAAT)でも長期滞在してクリエイションをつづけている。あの震災の時、彼らはKAATで舞台の初日を迎えようとしていた。結果的にその公演は、たった1回だけ上演され、あとは中止となってしまったのだった。わたしは見逃してしまった。というか、とても演劇を観られるような状態ではなかった。演劇を観る、ということは当たり前のようでいて、実は、そんなに簡単ではないのではないか、と最近は思っている。その感覚は大事かもしれない。生きていなければ観ることができない。もちろん、生きている者たちは劇場に行けばいいのだ。予約して、チケット代を払って、劇場の客席に座ればいい。その作法自体はそんなに難しいことではない。

今回はタイトルの通り、ドストエフスキーの『悪霊』が原作。あの長大な小説を2時間以内の演劇にどうやって……?!、と訝しんだのだが、すでにプレビュー公演(3/10)は無事に幕を開けているらしいので、実際に出来てしまった、ということになる。2月に京都でインタビューした時(『シアターガイド』4月号掲載)、俳優たちがとにかく走ったり、雪が降ったりする(?)という話は聞いた。作家・ドストエフスキーの病的にうねるあの長ゼリフは、今や「巨匠」の風格を漂わせつつある演出家・三浦基のお気に召したらしい。好敵手だ、相手に不足はない、くらいに思っていることだろう。まるで落語のようだ、と彼は言っていたが、なるほど『悪霊』の文体は極めて冗長な快楽を放ちながら、広大な世界を舞台に想像力をほとばしらせている。

いったいどんな舞台になるのか? 安易なアクチュアリティに身を委ねること(つまりただ単に社会問題を取り上げたり、当事者性に近づけばOKとすること)を良しとしないことで知られる三浦だが、その意に反して(?)、実は、現代を生きる人間にとって極めて重大な「危機的実感」を掘り当てる嗅覚には凄まじいものがある。もしかすると、今『悪霊』を選んだのはクリティカルヒットかもしれない。土着性と西欧近代の先進性のはざまで揺れ動き、またニヒリズムや急進的な革命思想にもその風土の根本を揺るがされている19世紀ロシアが舞台だが、それはおそらく現代の日本人にも何かしらの(やんごとなき)ものを突き立ててくるのではないか。……なにはともあれ、舞台美術も凄いらしいし、今回は俳優が多いとか、見所はたくさん。演劇を愛してやまない東京人はもちろんのこと、横浜の人たちにもぜひとも観てほしい。帰りは中華街に行けばいい。(フジコ)





あやめ十八番『江戸系 諏訪御寮』

3月12日(水)〜16日(日)@小劇場楽園(下北沢)
http://ayame-no18.iftaf.jp/


あやめ十八番という、たおやかな名前を持つこの団体は、2012年に花組芝居女形、堀越涼が自身の脚本を上演するために立ち上げたユニット。昨年の旗揚げ公演である『淡仙女』は、ある町の夏祭りを背景にした、白無垢の聖なる花嫁と俗情の化身たるストリッパーの対置による幻想的なドラマだった。きれのある身体と声、台詞回しの世界観には「和のこころ」への敬意があり、そこから滲んでいた猥雑さと妖艶さは今も忘れがたい。あまりに忘れがたかったので、夏に堀越がやった独り芝居(エムキチビート『Fight Alone 3rd』)も観に行ってしまった。ねえちょっと聞いておくれよ、知っているかいこんな話。こうやって物語を紡ぎ始める堀越の話しぶりは、本当に艶っぽい。
今作は「輪廻転生」がテーマだそう。CoRich舞台芸術まつり!2014春の最終選考作品でもある。私は審査員をつとめさせていただくのだけれど、その前にひとりの観客としてとても楽しみにしているし、彼らの語りに酔って魂抜かれたってあちきが悪いわけではないわいな。(雅季子)