マンスリー・ブリコメンド(12月前半)

早いもので師走ですね。12月前半のブリコメンドです(コンセプトはこちら)。徳永京子さんは遅れての参戦となる予定です!


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■ままごと『あゆみ』
■リクウズルーム『ノマ』
■カトリ企画『溶けるカフカ
乞局乞局(こつぼね)』
チェルフィッチュ『三月の5日間』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
ゴキブリコンビナート『おから大好き』
■こゆび侍『うつくしい世界』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
山の手事情社『傾城反魂香』『道成寺
■ままごと『あゆみ』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】
■渡辺源四郎商店『エクソシストたち』
ゴキブリコンビナート『おから大好き』


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)http://www.next-choice.com/data/?cat=10







山の手事情社『傾城反魂香』

12月1日(木)〜4日(日)@アサヒ・アートスクエア(浅草)

道成寺

12月7日(水)〜11日(日)@アサヒ・アートスクエア(浅草)http://yamanote-j.org/

山の手事情社には「四畳半」と呼ばれる型がある。主宰の安田雅弘いわく、「重心をずらして、安定的に不安定なポーズを維持する」「イメージ上のせまい通路を動く」「相手の目と目の間に針穴の様なものがあり、そこに通すように喋る」とのこと。わたしたちの意志というか欲動と、それを阻むもの(安田は「運命」という言葉をよく用いる)との間で煩悶し葛藤する身体を描くために、能や歌舞伎のそれにも抗しうる、現代のための型を志向して十数年。
ギリシア悲劇圓朝の『牡丹燈籠』など、いたずらに翻案などで「現代化」するのではなく、そこに描かれている「運命」に翻弄される人々から、現代に生きるわたしたちへと連綿と通底する業のようなものを炙り出す。そして圧倒的なカタルシスへと連れ去ってくれる。
わたしがいつもお薦めするものは、「形式美」や「カタルシス」とは相容れないものがほとんどだと思う。だが、どうせやるならばこのくらいまでやってほしい、と常々念頭にあるのが山の手事情社なのだ。
今回はルーマニアのシビウ国際演劇祭で大絶賛された近松の『傾城反魂香』と、かつてBeSeTo演劇祭で日本代表作品として大隈記念講堂で上演された『道成寺』の二本。『道成寺』では、劇団を離れ留学している倉品淳子がなぜか出演。彼女の演ずる、情念や怨念の具現化したかのような女は必見。 (励滋)



ままごと『あゆみ』

12月 1日(木)〜 4日(日)@森下スタジオ Cスタジオ(森下)12月 7日(水)〜 9日(金)@横浜赤レンガ倉庫1号館(馬車道日本大通り
http://www.mamagoto.org/ayumi-2011.html

すでにプレビュー公演(@森下スタジオ)を拝見してこれを書いています。過去に観たいくつかのバージョンとは異なる、まるで新しい『あゆみ』が誕生しようとしていた。
わたしが思うにですが、かつて柴幸男のおそらく唯一の弱点であり課題だったのは「人間をどう描くか?」ではなかったか。もちろんこの問いには(近代文学的な感性を前提とする)罠が含まれているわけで、とはいえ実際問題その作風からしても、不幸や孤独といったネガティブな暗黒面を描くのは難しかったと思う。どちらかとゆうとわたしは暗い文学作品に身を寄せることでかろうじて鬱屈した青春をやり過ごしてきた日陰の人間ではあるので、文字どおり神のごとく輝いていた『わが星』初演はあまりにも眩しすぎて、(傑出した作品であるとは感じたものの)身の置き所を見出すことが少々難しかった。とゆうかむしろなんだか、そこに居るのが申し訳ないような気がした。ただ鈴木励滋も↓で書いているように、これが『わが星』再演時には一転、大きな感動を呼び起こされたのでした。それは柴くんが歳をとり人生経験を得てヒューマニズムを深化させたから……といったことのみならず、何より創作方法の進化こそが、柴幸男(とその仲間たち)の作品世界に、良い意味での複雑さをもたらしつつあるのではないかとも思う。複雑であれば死角もできる、つまり、陰ができる……。
なんだか暗い話で失礼しました。さて、今回の『あゆみ』において、柴幸男は「人間をどう描くか?」の問いの罠を軽やかに飛び越えようとしている。それも、近代文学的な感性とはまったく別の運動性によって。今はそれについて書かないけれども、これこそがたぶん彼の真骨頂なのであり、作家として放つ世界への挑戦状なのだと思う。方法(how)を決して小手先のものではなく、みずからの血肉にすべく磨いてきた作家・演出家の洗練された技を見せつけられて、プレビューでありながら、わたしはつい客席で前のめりになり、背筋から何か未知の感動がのぼってくるのを感じたのでした。(フジコ)

シアタートラムのネクスト・ジェネレーションで『四色の色鉛筆があれば』を観て、柴幸男という才能にほとほと舌を巻いた。4本の短編を異なる、しかも発明といっていいほどの手法で描き、そのすべてを逸品と名づけてもかまわないレベルで揃えてきた技量に。ただ、やはり天才はいるものだと思ったものの、わたしが愛してやまない愚直な人々と比して、そこまで揺さぶられたかというと、それほどでもなかったように記憶している。
あまりに巧くて、そこに描かれる人々を駒のように捌く神のように見えたのかもしれない。
岸田賞を受けた『わが星』でもそのような思い込みは払拭されなかったのだが、再演を観て“度量”とも呼ぶべき厚みを感じた。
それは老いに関わっている気がする。生きることにまつわるさまざまな理不尽にまみれることで、誰かの人生としてではなく、柴自身の生と共鳴するかのごとき説得力が備わったのではないか。ENBUゼミなどでの講師として数多の他者と関わった影響もあるに違いない。
実はこの『あゆみ』、劇作家協会東海支部の「劇王」というイベントで、2007年に『反復かつ連続』で四代目劇王となった柴が、翌年防衛戦のために上演し、王座から陥落したいわくつきの作品。
その後長編にもなり、あちこちでいろんな人によって演じられ、『四色の〜』の一編でもあった。いくつものヴァージョンで磨かれゆく様を観てきて、今のところ多田淳之介が埼玉の高校生と作った『あゆみ』がわたしの中のベストなので、きっとさらに度量を増しているであろう本家柴幸男の『あゆみ』の現在が楽しみで仕方がない。(励滋)



渡辺源四郎商店『エクソシストたち』

12月2日(金)〜12月4日(日)@こまばアゴラ劇場駒場東大前)(*青森公演はすでに終了)
http://www.nabegen.com/

畑澤が顧問をつとめる青森中央高校演劇部は「自分たちのできることは演劇だ」と部員全員一致で決議し、夏の演劇部シーズン終了後、被災地である八戸、青森、気仙沼、大船渡、釜石、久慈を「もしイタ〜もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら」を持って巡業した。どこでもできるように照明も音響も使わない舞台を作ったというが、現地での補助をもらわず。とにかく行くという素晴らしい行動力だった。
平行して劇団の方ではこの「エクソシストたち」を作って青森公演を成功させ、東京公演に臨む。畑澤聖悟は、本当に「みちのくの巨人」である。今作は題名の通りフリードキンの映画へのオマージュだというが、10月の民藝の「カミサマの恋」といい、民話や民俗を巧みに設定やストーリーの骨格に組み込んでくる畑澤世界はこのところ心霊的な題材に興味があるようだ。しかし一筋縄ではないだろう。虐待が絡むようだし。
セリフ芝居で感動し、セリフの力というものを知りたい方にはぜひ、なべげんを。である。(カトリ)


ゴキブリコンビナート『おから大好き』

12月2日(金)〜4日(日)@木場公園 多目的広場内特設会場(清澄白河、木場)http://www.geocities.jp/goki_con/frameset.html

以前、主宰のDr.エクアドルさんに話を聞いたことがある。(http://www.tinyalice.net/)その中で「日本で最低の劇団」ですよね、と私が言うと、「そう言って頂けると(笑)」と彼は薄く笑った。また、「デートで決して見に行ってはいけない劇団」とも私はよく言う。実際、終演後の帰り道で喧嘩を始めるカップルを見たことが2回ほどある。
ひたすらの下降主義(笑)、下品ということばでは足りない下劣さは不快感が横溢する。観客はいつなんどき何が飛んでくるか、衣服や精神を汚されるか予断を許さない状況下におかれる。しかし彼らは、字義通りの、(社会や日本や)周りこそが間違っているんだと信じる完全なる「確信犯」である。
今回も「重機が所狭しと走り回り、縦横無尽に野生化した出演者が駆け回る中、様々な危険を回避しながら観覧するミュージカルの味わいはまた一味違います。」と告知にある。演劇観の更新のためには不快感などものともしないという方には強くお勧めしたい。まずは、PVでお試しを。いや、でも、これってまずいよなぁ。(カトリ)


ゴキブリコンビナートのことを書こうとしたら、昔、新宿で路上生活をはじめたばかりだった友人の言葉がふと甦ってきた。
「ホームレスってさ、家はないんだけど、アットホームなんだよ、みんな」
そんなことを思い出したのは、おそらく、「キツイ」「キタナイ」「キケン」の3K演劇とも称されるゴキブリコンビナートを観ているときに感じる、暖かさや多幸感が原因だろう。そう、そこは、風評によって築かれた高い観劇ハードルをくぐり抜けて辿り着いたものたちの楽園。もちろん、ときには間違って迷いこんでしまう人もいるが、それは途中退場によってその場所の空気はつねに浄化・除洗されているのだ。
ちなみに今回は、12月の冬の野外とさらに敷居があがる。前回公演のときは完全に密閉されたテント内での公演でユンボ(ショベルカー)が舞台を壊していくのを恐々と見守るぐらい(?)だったが、前々回は、松明をもった半裸の土人たちが木場公園を吠えながら走り、檻のなかに閉じ込められた観客は悲鳴をあげ逃げまわっていた(そして警察に通報されて公演は中断ということも)。はたして、今回は…。
しかし、そんな風に楽しげ(?)に書いてしまうと興味をもつ方も少なくはないだろうが、あえてこうも記しておきたい。主宰のDr.エクアドルは世間一般が「ゴキコン」と劇団名をやわらげて呼ぶことを激しく嫌い、「ゴキブリ」と呼んでくれと言いつづけていることを。さらに、路上生活をしていた友人はホームレスの人間関係に耐えきれず、北海道に逃げだしてもいることを、だ。 (日夏)



リクウズルーム『ノマ』

12月2日(金)〜12月6日(火)@アトリエ春風舎(小竹向原http://reqoo-zoo-room.jp/

未見の劇団ですが、佐々木透の戯曲については、以前、スミイ企画に提供されていた『日常茶飯事』で触れたことがある。そして今回わたしはアフタートークに出るので(3日夜の回です。ちなみに4日夜は批評家・佐々木敦がゲスト)事前に戯曲を送っていただいたのですが、パッと見た瞬間、こ、これは……。ひと目見て、異常。何が異常かについてはトークでお話ししたいと思っていますが、たぶん、かなりの変人ではないかと想像している。
アトリエ春風舎はかなり実験的なことをやっている良い小屋だとわたしは思っていて、過去にここでは幾つかの衝撃的な作品に触れることができた。今回も、いい意味で危険な匂いがしているのです。(フジコ)



カトリ企画『溶けるカフカ

12月8日(木)〜10日(土)@日本基督教団巣鴨教会礼拝堂(大塚、新大塚http://ksh21cz.blog108.fc2.com/blog-entry-314.html

カトリ企画の本公演第2弾。カトリヒデトシプロデューサーが決して伊達や酔狂で公演を打っているわけではなく、完全に本気であることがいよいよ伝わってきたわけです。リトルマガジン『BOLLARD』でのインタビューにもあったように、演劇界にこれまであった慣例とは別のやり方で座組を集めようとしているこの企画。今回も魅力的な役者が揃っている上に、テクストはカフカ。とても好きな作家なので辛口に観ちゃうかもですが、これを鳴海康平(第七劇場)がどう演出・構成してくるのか? しかも会場が教会……。とかとか、もう、全然予測できない!(フジコ)



乞局乞局(こつぼね)』

12月8日(木)〜12月13日(火)@王子小劇場(王子)
http://kotubone.com/

乞局(こつぼね)の第零回公演の再々演だが、わたしはこの作品を観ていない。だけれどもここ最近の乞局の数作を観てとても楽しみにしている。とゆうのも、下西啓正がいつも描いている暗く渇いた地底のようなこの世界観の中に、落ちぶれた人間への愛のようなものがほのかに感じられるからだった。前作の短編オムニバス『標本』にしても、過去作品の集大成のように作られた『果実の門』にしても、堕ちた人間が辿りついたどんづまりの果ての場末感漂う世界に、それでも生きずにはいらんない人間の、みっともない愛しさ、のようなものを感じてしまうのだ。今回の再々演が、もっと露悪的なるものへの原点回帰になるのか、それともさらなる(場末の)人間賛歌を見せてくれるのか。いずれにしても楽しみです。(フジコ)


チェルフィッチュ『三月の5日間』

12月9日(金)〜11日(日)@早川倉庫(熊本)
12月16日(金)〜23日(金・祝)@KAAT神奈川芸術劇場日本大通り元町・中華街

http://chelfitsch.net/

いわずと知れたチェルフィッチュの代表作であり、おそらく2000年〜2010年の演劇作品の中で最大の衝撃をもって迎えられた作品だと思う。……のだが、実はわたしは実際の舞台は観ていない。今回は首都圏で舞台が観られるまたとないチャンスであり、しかも熊本では00回記念公演&パーティもあり、さらにさらにこんなことでもなかったら絶対に一堂に会することはないだろう夢の組み合わせによるプレビュートークまである。……といったわけでなんだかちょっとお祭り感のある今回ですが、何より作品を、『三月の5日間』を、観たいと思う。そして今、この作品を観ることには、もしかするとまたかつてとは別の感慨も生じてしまうのかもしれない。変わったものは、なんなのか。その感覚も確かめたい。(フジコ)



こゆび侍『うつくしい世界』

12月14日(水)〜25日(日) @サンモールスタジオ(新宿御苑前
http://blog.livedoor.jp/koyubichips/archives/525495.html

こゆび侍の主宰・成島秀和の書く戯曲はうつくしい。台詞も、世界観も。とくに、うつくしい言葉の響きのなかに毒を忍ばせる手腕は一級品だろう。ただし。そこには「美しい」ではなくあくまで「うつくしい」であるという繊細さも伴っていて、ときとして舞台から観客に届いていないように思えることもあった。うつくしさの源が壊れもののような儚さゆえに、強くは伝わりにくいから。けれど今回は、ヒロイン役となる浅野千鶴(味わい堂々)がタイトルどおりの『うつくしい世界』を届けてくれるだろう。かつて2度、番外公演と本公演での彼女は、まるで、大地に根が張った蜃気楼とでもいうような、成島戯曲のミューズだったのだ。もちろん、ハイバイの『「ヒッキー・カンクーントルネード」の旅/初めて組』で秀逸な妹役などを演じたりもしている役者だから、それは表現力の高さでもあるのだろうが、それよりも、ワインと料理の相性が味覚を加速度的に爆発させるマリアージュなのだと考えたい。もちろん、劇団の看板女優の佐藤みゆきも、阿佐ヶ谷スパイダースなどの多数の舞台や、映画、大河ドラマ『江』の出演を経てますます充実しており、客演陣も猪股和磨、永山智啓、笹野鈴々音、浅川千絵などなど魅力的な曲者揃い。1年3ヶ月ぶりにして記念すべき10回目の本公演となる今回、いよいよ、戯曲のうつくしさが舞台に充満しそうな気配が漂っている。 (日夏)