マンスリー・ブリコメンド(2012年8月後半)

マンスリー・ブリコメンド、8月後半です(コンセプトはこちら)。今回はわたしがワークショップなどを行っていることもあり、かなり、観に行けません。だけど面白そうな公演が幾つかあるので、冒険枠的に紹介しますね。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評等も書く。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
チェルフィッチュ『女優の魂』
■『横浜借景 Borrowed Landscape ‒Yokohama #2』
■flep funce!『こんなトコロニ』
■鳥公園『ながい宴、の始まり』
東京国立近代美術館「14の夕べ / 14 EVENINGS」
■中立地帯『サマータイム


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
東京国立近代美術館「14の夕べ / 14 EVENINGS」
■三宅島在住アトレウス家


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=8936








チェルフィッチュ『女優の魂』

8月17日(金)〜19日(日)@STスポット(横浜)
8月20日(月)@晴れたら空に豆まいて(代官山)

http://chelfitsch.net/next_performance/

岡田利規の小説「女優の魂」(「美術手帖」2012年2月号に掲載)が、ひとり芝居として舞台化される(出演:佐々木幸子)。小説は俳優論・演劇論・女優論にもなっている。ただし、あくまで登場人物の女優のよる独白という体をなしているので、それがどこまで岡田自身の理論と合致するのかは分からない。しかし一種の俳優入門の書であることは確かなので、これから俳優・演出を志そうとする人には是非熟読していただきたい(そしたらつまらない舞台の数が減るような気もする)。
ところで小説版の後半の、思わず笑ってしまうユーモアと痛烈な日本への皮肉とは、果たしてひとり芝居の今回、どうなるんだろう……?
8月20日には、代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」にて、mmm(ミーマイモー)とのコラボレーション公演もあります(こちらの前売りは完売)。(フジコ)




『横浜借景 Borrowed Landscape ‒Yokohama #2』

8月22日(水)〜26日(日)@M/Mグランドセントラルテラス(みなとみらい、横浜、桜木町
http://borrowed-landscape.jp/2012/

ベルギーと日本のアーティストによる国際共同制作ダンスコラボレーションプロジェクト。25分間、「M/Mグランドセントラルテラス」をめぐる。今回は柴幸男(ままごと)がオリジナルテキストを提供。横浜の商業モールとその言葉とが、どのように溶け合うのか。あるいはひずみをもたらすのか。「借景」は実はけっこう難しい方法なのではないかと個人的には思っている。それは単なる風景ではなくて、実際にリアルタイムで日常が進行している空間だから。例えばかつて寺山修司の演劇実験室・天井桟敷が試みたような野外劇の野蛮さは、その日常を侵犯し揺るがすようなものだった(らしい)。それとはどう違うのだろう……? とかとか。
参加費は無料。ただし別途ヘッドホン貸料として1000円かかるので、実質1000円ということですね。(フジコ)




flep funce!『こんなトコロニ』

8月24日(金)〜26日(日)@STスポット(横浜)http://flepfunce.blog6.fc2.com/

東京デスロックでお馴染みの間野律子(マノリツコ)が、いづみれいなと組んでいるパフォーマンスユニット。こちらのユニットでの活動はまだ観たことがないのだけれども、先日の木ノ下歌舞伎での間野ちゃんのパフォーマンスがあまりに素晴らしかったので、思わず、冒険枠的にブリコメンドをしてしまいます。彼女がどんなふうに舞台を構成・演出するのか見てみたい。YouTubeのコマーシャル映像もあるよ。(フジコ)



鳥公園『ながい宴、の始まり』(中間発表リーディング)@マムシュカ東京

8月26日(日)@アサヒアートスクエア(浅草)http://hummingbir.exblog.jp/

えだみつ演劇フェスティバル2012参加作品『ながい宴』(12月)に至る、そのファーストステップ。『ながい宴』の会場となる北九州市八幡東区の日本家屋・横尾邸に、実際に数日間滞在し、その経験をおそらく何かしらのテクストにしたものを、西尾佳織がリーディングする。マムシュカ東京というパフォーマンスイベントへの参加です。
鳥公園は今年春の『すがれる』でも、いくつかのステップを設けて段階的に創作してきた。きっと今回もまた別の形で、本公演に向けた創作作業を重ねていくのだと思います。
演劇をとりまく時間の流れが、ちょっと変わりつつあるのを感じる。(フジコ)





東京国立近代美術館「14の夕べ / 14 EVENINGS」

8月26日(日)〜9月8日(土)@東京国立近代美術館 企画展ギャラリー(竹橋)http://www.momat.go.jp/Honkan/14_evenings/index.html

2週間のあいだ、毎夜、別のアーティストたちによって繰り広げられる一夜かぎり×14日間の公演。リンク先を見ていただければただちに分かるように、どうしてこんな豪勢なメンバーが揃ったのか?!……と思うくらいの豪華な顔ぶれだが、興味深いのはその企画趣旨のところに、「スコア(台本や楽譜)」と「インプロヴィゼーション(即興)」の関係性に注目していると書かれていること。確かに両者のあいだの緊張感は、舞台をスリリングなものにしていくし、ここに参加するのはそれを可能にするアーティストたちだと思う。つまりそれは、「約束」と「裏切り」、と言い換えることもできるのではないかという……。
しかもなんと、全て無料!(むしろなぜ無料?)(フジコ)

会場となる東京国立近代美術館は、日本で最初に誕生した国立美術館(1952年開設)である。そして、そんな古い歴史をもつゆえにあまりそういう認識はなかったのだけれど、じつは、「同時代の美術を常設展示する場所」としてもともとは開設されている。だから、今回の14日間にわたって繰りひろげられる美術、ダンス、音楽、演劇、朗読など多彩なジャンルの出演者が、いずれも先鋭的だったり実験的だったりしつつ、なによりもこの瞬間この刹那を感じさせてくれそうな顔ぶれとなったのは、けっして偶然ではないのだろう。もしかしたら、“この時代の展示”として語られつつづける伝説になりうる予兆さえもがそこには、ある。
そんななか、個人的に最大の注目は、このイベントのオープニング・アクトを担う
東京デスロックの『Rehabilitation リハビリテーション』。09年1月の公演を最後に東京公演を休止し、その後の4年間、地方を巡りながら新たな観客との幸福な出会いを繰りかえしながら「地域密着、拠点日本」を掲げていた同団体が、今回の1日限りの公演を、来年13年1月の『東京ノート』(会場:こまばアゴラ劇場)での東京公演再開への重要な一歩と位置づけているだけに、ファンとしては見逃すわけにはいかない。
ちなみに、タイトルの『リハビリテーション』には、一般によく知られる「社会復帰」だけでなく、「再び適した状態になること」「本来あるべき状態への回復」といった意味も。つまりは、東京の象徴のひとつでもある皇居の横にあるこの会場で、いま、日本の最大の“地域”となった東京の再生をも願い求めるようなステージとなるのではないだろうか。(ひなつ)




三宅島在住アトレウス家

《山手篇》8月27日(月)〜30日(木)@旧平櫛田中邸(鴬谷)
《三宅島篇》 9月6日(木)〜9日(日)@カフェ“691”

http://thoa.gr/

ギリシャ悲劇の家族の物語を借りながら、家やまち、住まいや暮らしについて考えるプロジェクトであり、途中、震災の影響も受けて都内を転々としていたアトレウス家が、今度はなんと、火山と共生する三宅島(東京都三宅村)に移住することに! 
都心にいながら島を想像する《山手篇》と、実際に島を訪れ未来を思う《三宅島篇》の二部構成になっていて、しかも告知によれば「両方ご覧になっていただくのが望ましい」とのこと。前回の『豊島区在住アトレウス家』も、観客にわかりやすくなにかを一方的に与えるのではなく、あくまでも“気づき”を求める、ある種ハードルの高い内容だったが、今回は都内から航路で6時間以上という場所での上演だけにその難易度はさらに高まっている…。
逆にいえば、そこまでしなければ見つけられないものがあるとの作り手側の確信的な思いもあるのだろう。なので、誰にでもというわけにはいかないが、いまに飽きたらない、好奇心旺盛なひとたちにだけ、強くお薦めしたい。(ひなつ)




中立地帯『サマータイム

8月31日(金)〜9月2日(日)@d-倉庫(日暮里)http://neutralzone2012.com/summertime/

今作が旗揚げ公演になるので、まったくどういったパフォーマンスになるのか未知数なのだが、わたしが編集を担当している武蔵野美術大学の広報誌「mau leaf」で主宰の武本拓也(構成/演出)にインタビューを試みて話を聞いた。いい意味で野心のある人だと思う。スタッフの技術を信じているのだということが、その口ぶりからも伝わってくるし、彼らの目論見は、いわゆる「演劇」という枠組みそのものを飛び越えていってくれるかもしれない。ただし、それはきっと理論ほどには簡単ではないし、やってみないと分からないことも多々あると思う。演劇はめんどくさい人間たちによる集団芸術であり、その手綱をうまく握り、狙ったところに、あるいは全然狙いもしかなったような予想外の地平に到達するのは、並大抵のことではないはず。今回はどこまでチャレンジできるか。とりあえずチラシもかっこいいし好きにやってください、みたいな……(言われなくてもやるでしょうけど)。
そうそう、知る人ぞ知るプチ情報。武本拓也氏は、悪魔のしるしの『桜の園』で、「サクセス!」と叫んでいたあの青年です。(フジコ)