マンスリー・ブリコメンド(2013年5月)

5月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。

こんにちは。
五月のお出かけ日和に似合う公演をご紹介したいと思います。
随時追加しますので、よろしくおねがいします◎(落)


★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1



今月のブリコメンド

藤原 ちから/プルサーマル・フジコ twitter:@pulfujiko

鈴木 励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

■ハイバイ『て』

カトリ ヒデトシ twitter:@hide_KATORI

徳永 京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=12825


西尾 孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi

古賀 菜々絵(こが・ななえ)





ハイバイ『て』

5月21日(火)〜 6月2日(日)@東京芸術劇場 シアターイースト(池袋)
6月5日(水)〜 6月6日(木)@AI・HALL(兵庫 伊丹)
6月8日(土)〜 6月9日(日)@三重県文化会館(津)
6月11日(火)〜 13日(木)@北九州芸術劇場(福岡 小倉・西小倉)
6月15日(土)〜 16日(日)@四国学院大学(香川 善通寺
6月22日(土)〜 6月23日(日)@コンカリーニョ(北海道 琴似)

http://hi-bye.net/


もう、こういうこと言うのほんとに最後にします。岩井さんの岸田國士戯曲賞受賞のお祝いスピーチで平田オリザさんが「『て』を推薦したにも関わらず最終候補にも残らなかったのはどういうことだったか検証してくれ」と、あの場所で苦言を呈されたことで、溜飲は下がりました、はい、おしまい!
わたしがこの前書いた『ヒッキー・ソトニデテミターノ』評で少しでも心が震えたら観てもらいたいし、重すぎるよ重すぎてたまらないよぉという方にも観てもらいたいし、なんだかよく判らなくて読み進められなかったとしたらぜひともこの作品こそ観てほしい。
あなたが父親嫌いな青年だったらば観るべきだと思うし、今まさに家族のいがみ合いで煩悶しているなら観てごらんなさい。親の介護をきょうだいに任せっきりの後ろめたさを覚えているなら観たほうがよいかもしれないが、あの時なんであんなことを言ってしまったんだろうと思っているなら観なくてはなるまい。井上陽水が好きならば観ればよいけど、さらに川沿いに住んでいるのならばそれはもう運命だ。
観ることで、それまでと他人の見え方が変わってしまうような、こんな作品じつはそうそうありはしない。
あ、あと、いつか死んでしまう人には、どうかどうか観ていただきたい。
(励滋)

ハイバイ10周年のツアー作品。岸田國士戯曲賞受賞後初のハイバイ本公演です。初演は2008年で、2009年に再演。2011年には『その族の名は家族』という別タイトルで作り直されたこともあります。この作品がだめならもうハイバイ見なくてもいいです、と岩井さんは宣伝動画で言っている。そんなふうに言いきれる作品を生み出せる作家は、極めて少ない。そして作家にとっても、そういう作品って一生に一本、あるかどうかの話じゃないだろうか。

『て』のことを思うと、“家族”を書くということについて考えてしまう。これは岩井さんが、自分の家族にまつわる実話を描いた戯曲だ。だから、私の(あなたの)家族の話ではありません。人の家族のことなんて、正直「そうなの、大変ね」の一言で済ませたって別にいいのだ。「大変ね」と言うしかない場合だってあるだろう。でも、そういう他人事の感覚をぐっと乗り越えて掴みかかってくるような瞬間が、この作品にはある。単に自分の経験を客観視しているとか、そういう生易しい話ではなくて、葛藤を作品として脱ぎ捨てようと“試みる”瞬間に生まれるエネルギーを感じる。陰惨な状況なのに卑屈さがないのは、家族を観察し、必死に自分から引きはがそうとした戦いの痕が見えるからだ。劇作家・演出家・俳優の岩井秀人が今いる場所に来るために通った道を、この舞台を見ることで辿ることが、きっとできると思う。(落)



ままごと『朝がある 弾き語りTOUR』

【札幌公演】3月2日(土) 〜3日(日) @よりどこオノベカ(中島公園)※終了
【仙台公演】3月20日(水・祝) @せんだいメディアテーク勾当台公園)※終了
【小豆島公演】3月28日(木)@ei 2F(旧JA・坂手港)※終了
【大阪公演】4月23日(火)〜25日(木) @FOLK old book store(北浜)※終了
【三重公演】4月28日(日)〜29日(月・祝) @津あけぼの座スクエア (江戸橋)※終了
【神奈川公演】5月10日(金)〜12日(日)@桜美林大学プルヌスホール(淵野辺

http://www.mamagoto.org/


昨年7月に初演された作品が弾き語りになって、3月から2か月かけて全国を回り、終着点である神奈川県にやってきます。作・演出・音楽は主宰の柴幸男、出演は大石将弘ただひとり。そして編曲に蓮沼執太を迎えてのツアーファイナルです。これまでに、札幌、仙台、小豆島、三重、大阪公演がありましたがいずれも昨年の三鷹市芸術文化センターに比べて、かなり小さいスペース。行く先々で公演を重ねてきた柴と大石は、さながらギター1本背負って旅してきたアコースティックデュオのよう。身体ひとつで、通学途中にくしゃみをした女の子の背景に広がる大きな世界を観客に想像させる彼らの試みは、しなやかさを増して、今回はもっとダイレクトに震えて伝わるかも。
演劇の上演時間は、必ず始まりと終わりがあるけれど、柴幸男の描こうとしているのはそれらの“時間”を成す“瞬間”のひとこま。あの瞬間、世界はくしゃみをした彼女だけで成り立っていたのではない、ということに目を向けて、でもその一瞬の美しさを歌うために振り返ったとき、歌うべき瞬間はもう過ぎ去っている。そういう取り返しのつかなさも引き受けて、歌える歌を彼らは見つけたのだと思う。
(落)




青山円劇カウンシル♯6 〜breath〜『いやむしろわすれて草』

5月16日(木)〜26日(日)@青山円形劇場(渋谷)
http://www.nelke.co.jp/stage/iyamushirowasuretegusa/


前田司郎の戯曲や小説の中で、最高だと思うものを挙げるとしたら、この『いやむしろわすれて草』を選ぶ。どうしても魅入られてしまって、二日連続で観に行った芝居は、私にはこの一本しかない。四姉妹が主人公の『若草物語』をモチーフとした本作、初演は2004年で、2007年に一度再演されているが、今回は主演に満島ひかりを迎えてキャストを一新。青山円形劇場プロデュースの作品として生まれ変わった。脇を固める男性キャストの黒田大輔志賀廣太郎は初演から続投する模様。
前田司郎といえば、ほとんど意味も無いような会話から生まれる脱力した笑いの作風をイメージする人も多いかもしれないけれど、くすくす笑ってしまうような些細な会話の奥に、ぱっくり口をあけた寂寞を出現させてしまう手腕は随一じゃないだろうか。観てきた日の夜には、ふと胸が震えて思い出してしまうかもしれない。何が悲しいのか分からないまま大泣きして、そのことにまた悲しくなって泣き止むことができなくなってしまった子どもの頃のこと。四姉妹は生きる宝石だと、とある小説家が言っていたのを思い出す。姉妹たちが互いを思い合うゆえの切なさ、重さは観る人の心に沈み、美しく寂しく、輝き続ける。(落)





ピンク地底人『ココロに花を』

【福岡公演】5月5日(日)@西鉄ホール(福岡天神)※終了
【東京公演】5月31日(金) 〜6月2日(日)@王子小劇場(王子)

http://www.geocities.jp/pinkundergrounder/


ピンク地底人の作品を初めて見たのは、昨年八月の『明日を落としても』で、関西を拠点にしている彼らが東京に初進出したときの公演だった。役者がスタンドマイクを用いて、効果音を全て口で発音するスタイルが幻惑的だったのを覚えている。ピンク地底人たちの本名は分からない。演出をしているのは、ピンク地底人3号さんという。看板女優のピンク地底人2号さんから、一番新しい6号さんまでが在籍中。そのアノニマスな感じ、番号制の入替え可能な存在である感じが、『明日を落としても』の中で行われていた群唱による効果音や、“時間軸”の入替えが“可能性”の入替えになって未来どころか過去すらも可変になる、実態の見えない感覚とつながる。秘められたその昏さには妙な吸引力があって、つい、目を凝らしたくなってしまう。
東京での公演日程が、5/31〜6/2でかなりぎりぎりのおすすめで恐縮なのですが、6/2は11:00公演があったりもするので、今からでもどうかチェックを。(落)