マンスリー・ブリコメンド(2013年8月)

8月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。

今回は夏休みスペシャル?ということで
東京以外の場所で上演される公演をおすすめしてみます!(落)

★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1


今月のブリコメンド

鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

■テスト・サンプル:03

カトリヒデトシ twitter:@hide_KATORI

徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi


落雅季子(おち・まきこ) twitter:@maki_co

■ままごと『日本の大人』


古賀菜々絵(こが・ななえ)


テスト・サンプル:03『遠足の練習』

8月10日(土)@まつだい「農舞台」ピロティ(十日町
http://www.echigo-tsumari.jp/calendar/event_20130810_01


今年は「越後妻有アートトリエンナーレ」の年ではないものの、さまざまなイベントでにぎわう「大地の芸術祭の里」。昨年に続いての参加となるサンプルは、秋に公演する作品のプレ上演をおこなうという。しかも初の野外劇だというではないか。
しばしば前衛的と評され、しかも題材が人間の陰の部分で、良くも悪くも「変態」呼ばわりされている松井周が、地域での人々とのつながりを築くような滞在型創作というのは、もしかしたら結びつかない人が多いのかもしれない。だがわたしは、そんな松井に勝手に大きな期待を寄せている。
松井の人間へのまなざしは、ほんわか温かい人間劇を描く人たちよりも、わたしたちの情けないところへと注がれる。けれども、ワイドショウ的な他者への下衆な関心とは似て非なるものだ。自分とは断じて交わらない珍奇なものを嘲笑うのではなく、わたしの中の情けないところを愛でる営みである。
強い個性を持った俳優やスタッフを見事にまとめ上げる手腕も、混沌よりも雑然に寄った世界を愛しいものとして立ち上がらせる美的感覚も、松井の他者へのまなざしと必然的に通底している。
夏の小旅行をかねて、サンプルが描くそんな世界に身を置きに、足を伸ばすのはいかがだろうか。松井たちの滞在の痕跡は、かならずや一見の旅人も歓待してくれるはずだ。(励滋)


ままごと『日本の大人』

【名古屋公演】8月10日(土)〜15日(木)@愛知県芸術劇場 小ホール(栄)
豊橋公演】8月17日(土)〜18日(日)@穂の国とよはし芸術劇場 PLAT アートスペース(豊橋
【新潟公演】8月22日(木)〜23日(金)@りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 スタジオB(新潟・白山)
【小豆島公演】8月25日(日)〜27日(火)@遊児老館(旧坂手幼稚園)
【伊丹光線】8月30日(金)〜31日(土) AI・HALL(伊丹・阪急伊丹)

http://www.mamagoto.org/


これは、子どものためだけの演劇ではなく「みらいのおとな、とむかしのこども、が、いっしょにみるえんげき。」とHPに書いてある。子どもだったあなたが大人になるため歩いてきた時間の長さも包んでくれるような、温かさを持つフレーズではないだろうか。子どもたちの目の前と、大人たちの背中の後ろに伸びて広がる時間について、何だか想像をめぐらせてしまう力がある。
ここ半年ほど、ままごとメンバーは小豆島でのおさんぽ演劇や、『朝がある』の弾き語りver.再演、横浜の象の鼻テラスでワークショップの成果発表などを行ってきた。その様子は、街中でふと誰かとすれ違うように、観客たちがおのおの“演劇と出会う”場面を作ろうとしているものだった。今のままごとは、そうした出会いのきっかけをできるだけたくさん、そしてできるだけ良い出会いになるような作り方をしているように思える。彼らがたくらむ、“すれ違うように”出会う効能は、すぐに表れるとは限らない。もしかしたらすれ違ったことにも気づかないとか、何年も心の底にしまわれて思い出される日を待つだけになるかもしれない、けれど。この作品を観る子どもたちにはどんな経験になるのかな。どんなものが彼/彼女の中に残るのかな。そんなことを思いながら、一年ぶりの新作戯曲をとても楽しみにしています。
ちなみに、本州からちょっと離れた小豆島公演は、瀬戸内国際芸術祭の夏会期の一環で、神戸港からジャンボフェリー(http://www.ferry.co.jp/)で坂手港まで行くのが便利です。神戸港には、新神戸からタクシーで向かうのがよいですね。(落)




東葛スポーツ『ゴッド☆スピード♯ユー!』

8月28日(水)〜9月1日(日)@アーツ千代田3331 B104室(末広町、湯島、秋葉原http://www.tokatsusports.com/

東葛スポーツが帰ってきた。
と、深い意味もなく、別に3月の吾妻橋ダンスクロッシング以来だからそこまでのご無沙汰感でもないのに、しかも「!」マークとかも付けずに淡々とそう言ってみたくなる東葛スポーツは、サンプリングやラップを得意としている。……といえば、ただちに何人かの演出家の名前が思い当たるわけだけど、(構成・演出の)金山寿甲の場合、ヒップホップの「毒気」の部分をどうやら良く受け継いでいるらしい。そしてその毒気で容赦なく、人気演出家や、特に人気が出るわけでもなく人の恨みばかり買いがちな批評家たちをばったばったと舞台上で痛烈にディスりまくるものだから、きっと良識ある有閑マダムたちの眉をひそめさせ、順調に着々と敵対心を煽ってきたことだろう。おそらくは味方を増やすスピードよりも、敵を増やすスピードのほうが勝っている。由々しき事態である。そろそろ干されるかもしれない。だけど考えてみてほしい。呑み屋に隠れてコソコソ悪口ゆってるような、そこそこ自分頭いいぜとか勘違いしてるカチンとくるチキン野郎よりも、こうしたアイロニーの持ち主こそ、隘路にはまりこんだ日本のトンチンカンなチカン野郎どもに引導を渡してインドの山奥に連れてゆき、雪に埋もれる現代の倦怠期の夫婦のあいだでフーフー息を吐きながら揺れる幽霊と化した哀れなスクールガール18歳の魂を救うかもしれないのだ。……韻を踏もうとして失敗してただの駄洒落になってしまった。無惨だわ。慣れないことはするもんじゃないですね。まあとにかく、こうした悪童的存在をこそ、絶滅危惧種として認めて保護してもよいのではないか?、と言いたかったし、実際にこういう一見ふざけた遊び心を持った存在こそが人を救うこともある、って考えているのは事実なのだ。

聞くところによると、最近、台湾から中国に密輸されようとした亀が2600匹も見つかったらしい。中国では亀が乱獲された結果、数が減り、価格が高騰しており、そのために密輸業者たちの格好の餌食となっている。なんということだ。可哀想な亀たちよ。2600匹もの亀を救った台湾の英雄が誰さんなのか知らないが、ひとまずの感謝は捧げておこう。九死に一生を得た亀たちのために。ともあれ、東葛スポーツの悪童ぶりはもしかするとこの2600匹の亀か、もしくはそれを助けた英雄にも匹敵するような希少な価値を持っているかもしれない。あるいは、持ってないかもしれない。いったい誰にそんな比較計量をする資格があるというのか! それよりも想像してみよう。2600匹の亀を見つけた時の英雄氏の驚きを。……さっきから何も実のある話をしてないことはわかっている。誰か助けてほしい。とりあえず亀は縁起がいいかなと思って持ち出してみたのだ。浅はかな猿知恵だ。では猿は縁起はいいのだろうか? 猿と亀はどうにも釣り合わないと思ったが、ちょっと調べてみただけでも、インドネシアの民話にも、今昔物語にも、まんが日本昔ばなしにも、両者の対決は描かれているらしい。意外とライバルじゃん。いったいわたしは何を話しているのかしら。まったく、今回の公演で何をするのか全然知らないから、こんな無駄話を垂れ流してしまうのだ(しかしこうした密輸、英雄、猿亀対決といったイメージを引き出しているのは、明らかに東葛スポーツが持っているある種の資質であると思う)。

ちゃんとやろう。こういうことを書いているとすぐに鬼の首を獲ったように「印象批評」とかいわれる(実際は印象批評ですらない)。やればできるはずだ。一念発起して、WEBサイトに載っているタイトルとあらすじを調べてみたのだが……

【あらすじ】
 平壌へ、葛飾区へ、ヒップホップがホップし、鳥が翔び、あたしたちは海を目指す。
 聴こえるのは、柴又の、東京の、土曜日のサウンドトラック。

なんじゃこりゃ。読んでもさっぱりなんのことだかわからないし、金正男と寅さんと古川日出男を想像しただけに終わってしまった。というより、そもそもわたしの認識では、こういう文章をふつう「あらすじ」とは呼ばないのである。そういえば出演する(もはや主力とも言える常連の)佐々木幸子は、つい数日前までチェルフィッチュの一人芝居『女優の魂』で7都市をツアーして各地の人々を魅了していたはずだが、なんという強行日程か。特に別府の元ストリップ小屋での公演は観に行きたかったな……。あそこの温泉街は素晴らしいのだ。と、話がまた逸れてしまうのだが、とにかく今回も東葛スポーツはきっとかましてくれるでしょう。まあこれだけ(無駄話でごめんなさい)書いたのだから、公演があるのをすっかり忘れていました、とは言わせない。観に行こうじゃないか。そして遊び心を取り戻そう。ああ、夏が終わってしまう。(フジコ)