マンスリー・ブリコメンド(2014年2月)

2月のマンスリー・ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。


★メンバーのプロフィールはこちら。http://d.hatena.ne.jp/bricolaq/20120930/p1


今月のブリコメンド

藤原ちから/プルサーマル・フジコ twitter:@pulfujiko

日夏ユタカ twitter:@hinatsugurashi

鈴木励滋(すずき・れいじ) twitter:@suzurejio

■ 範宙遊泳『幼女X』

カトリヒデトシ twitter:@hide_KATORI

■板橋駿谷一人芝居『俺の歴史』

徳永京子(とくなが・きょうこ) twitter:@k_tokunaga

落雅季子(おち・まきこ) twitter:@maki_co


西尾孔志(にしお・ひろし) twitter:@nishiohiroshi

古賀菜々絵(こが・ななえ)




 

■範宙遊泳『幼女X』


2月12日(水)〜13日(木)
@KAAT神奈川芸術劇場中スタジオ(日本大通り

http://hanchuyuei.com/



なにがなんでも観つづけよう、そう心に決めている劇団が、わずかながら、ある。
わたしの場合それは、趣味が合うとかセンスが好みだとかいうものとは異なった次元の、これはもはや、作り手を強く信頼できるか否かというものなのだと思う。だから、単に好きなものを作る人たちというのはそれとは別に、折々にたくさんいたりもする。けれど、この信頼というものは、そんなブームのように浅薄なものではない。
昨年2月、わたしは新宿眼科画廊で『範宙遊泳展-幼女Xの人生で一番楽しい数時間-』という作品を観て、山本卓卓という人の作るものを観つづけようと胸に刻んだ。彼が率いる範宙遊泳の舞台はかなり初期から観つつも、そこまで響くことが一度もなかったのは自分の先見の明の無さゆえだが、少なからぬ人からも同様に「山本は『幼女X』で化けた」という話を耳にした。
わたしは「化けた」というより「腹を括った」というような受け止め方をしている。他者の、もしくは社会の問題を、深く問い詰めた上で「決してわかることは不可能」であると断ずるのも一つの真摯な道である。けれど、山本は『幼女X』で、どうしたってわかることなんてありえないのかもしれないことたちを、それでも自らの問題として引き受ける覚悟をしたように見えたのだ。
つづく『さよなら日本−瞑想のまま眠りたい−』でも、そのスタンスは揺るがなかった。そして今回、TPAM(国際舞台芸術ミーティングin横浜)の中で、野村政之によるディレクションとして本作は上演される。客席の数がおよそ5倍、だいぶ舞台のサイズが大きくなるという不安もあるものの、そこはドラマトゥルクとして「岸田請負人」の異名を持つ野村が、「僕から言うことは特にない仕上がりです」と言っているのだから、いやがうえにも期待は高まる。
棚の上から、つまり安全地帯に自らを保ちながら、評価をなせるような作品ではない。応答せざるを得ないほどの強度を持った表現がそこにはあり、観た者は例外なく問われるはずだ。もはや、応じるか誤魔化すかしか道は残されない。これは舞台に生身の人間が存在する「演劇」という方法ゆえの作品だ。そんな信頼に足るような作品にはめったにお目にかかれないのだけれど。
だから、人生に波風を立てたくない方には、この作品、決してお薦めはしない。(励滋)




板橋駿谷一人芝居『俺の歴史』

2月8日(土)〜16日(日)@浮間ベース(浮間舟渡)


ブリコメンダーの末席を汚しつつ、最近沈黙していたのは、カトリ企画などというプロデュースを始めてしまったからであった。
信頼にたる役者や演出家に協力してもらっているが、そうだからといってそれをお薦めするのは、身贔屓の誹りは免れないとも思っていた。営業のようになってしまったらなおさら具合が悪い。そんな思いからであった。
さらには今回見てしまった舞台のおすすめでややルール違反でもある。

しかし、今回はなにを置いてもおすすめしたい。

板橋駿谷一人芝居「俺の歴史」
板橋は小劇場一暑苦しい男で、ロロという劇団に最後に加入した割には一番ブイブイいわせている、面倒くさい男である。筋肉自慢で鍛え上げた体を見せるのが好きで、ことあるごとに裸になる。
苦手な人にはそばによりたくない要素満載である。

しかし、その繊細な内面とチキンハートな実態を知ると、主宰三浦が私に言った至言「乙女のハートを筋肉で覆い隠そうとしている」という実体が詳らかになる。人に篤く、人に優しい彼の周りには人が集まる。そういう「ひとたらし」な魅力あふるる人間なのである。
私は大好きな役者であると同時にその実力も買っているのだ。

その彼が「俺の歴史」という一人芝居をしている。80分という尺を聞いて、老婆心にあれこれ心配しつつ、見に行ってきた。
作品は感動的であった。

スピリットには甘いところがあるものの、ソウルは熱い。

舞台作品に取って役者の人間性は如何に重要であるのか、ないのか、などと思弁してしまうような作品でもあった。

ネタバレを恐れずいえば、彼の亡母への感謝と鎮魂、慰撫を舞台にしたとてもリリカルな作品だった。ストレートで暑苦しい題材を演出の快快野上が実に手際よく過剰を配して、板橋の魅力を引き出した。
得意のラップや、筋肉自慢を折込みつつ、きちんと自分史を描く。
人生30年間に出会った人々への感謝を綴っていく。
そこには個人史に留まらない「生への感謝」という志の高く、かつライブパフォーマンスでこそ見せる意味のある「実演」があった。

なかなか行きづらい場所でもあるが、是非にと、おすすめしたい。(カトリ)