マンスリー・ブリコメンド(2011年8月後半)

8月後半のブリコメンドです(コンセプトはこちら)。今回は書き原稿で、公演日程ごと(初日順)にまとめました。なお、徳永京子さんは少し遅れての参戦となる予定です。(8/19追記。ごめんなさい、徳永さんは今回はお休みとなります。次回お楽しみにー)


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年高知市生まれ。12歳から東京で一人暮らし。肩書きは編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』がある。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■範宙遊泳『範宙遊泳の宇宙冒険記3D』
■マームとジプシー『塩ふる世界。』
吾妻橋ダンスクロッシング
少年王者舘『超コンデンス』
■キラリ☆劇場ツアー型パフォーマンス公演『モガっ!〜記憶はだいたい憶測。〜』
■地点上演実験Vol.4『トラディシオン/トライゾン』
■ロロ『夏も』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
■マームとジプシー『塩ふる世界。』
■キラリ☆劇場ツアー型パフォーマンス公演『モガっ!〜記憶はだいたい憶測。〜』
■ロロ『夏も』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■子供鉅人『バーニングスキン』
■「DANCE kakeru Music vol.1」


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】
■真夏の極東フェスティバル 
■Mrs.fictions  『サヨナラ サイキック オーケストラ』


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga








範宙遊泳『範宙遊泳の宇宙冒険記3D』

8月13日(土)〜17日(水)@新宿眼科画廊
http://www.hanchu-yuei.com/

範宙遊泳を観るにあたっては、「これは演劇としてアリなのか?」みたいな先入観を一旦捨てて、まずはコメディの系譜として捉えたほうがよいのかなと思い始めた。作・演出の山本卓卓がどこまで本気なのか今ひとつ図りかねる(?)のも、コメディアンとしての資質があるせいかもしれない。ともあれまだ不安定でどこへ行くのか良くも悪くも未知数の劇団。でもたまにグッと心に突き刺さるのは事実なので、しばらく観つづけると思います。今回はタイトルに「宇宙冒険記」とあり、例によってのハチャメチャ感も匂わせているが、単なる子供の悪ふざけでは終わらない何かを彼らは持っている、はず……。新宿眼科画廊地下の柿落とし公演。(フジコ)


マームとジプシー『塩ふる世界。』

8月17日(水)〜22日(月)@横浜STスポット
http://ameblo.jp/mum-gypsy/

たとえば飛行機で喩えると、いま、マームとジプシーは離陸してどんどん高度あげている最中であるように、思える。もちろん、その後に安定飛行に移ったり、あるいは反対に、滑走路から飛び立つ瞬間を好む人もいるのだろうが、個人的にはもっとも誰かに薦めやすい状態だ。もしかしたらそのまま月にむかってしまうんじゃないか、飛行機ではなくロケットなのかもしれない、という勢いもふくめて。ましてや今回は彼らのホームともいえる横浜STスポット。これは鉄板! と考えていたら、すでに前売は完売…。当日券しかない公演を推すのは心苦しいけれど、それでも、お薦めする。(日夏)

直感的に言えば、夏の3部作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』の完結を迎える今回、マームとジプシーはまたひとつ大きな峠を越えることになりそうだ。4月の『あ、ストレンジャー』以降の彼らは、どこか遠くのディストピアに取り残された人々みたいに、その町や、丘や、団地や、海辺に、立ち尽くしてきた。彼らは途方に暮れて何かを見ていて、それはもう純粋な過去ではなく、たぶん未来でさえなく、絶望も希望もおそらくはるかに超えてしまった、海、であり、山、であり、川、であり、湖、であり、町、である。そこに人が生きている。太陽がそれらをあまねく照らす。何かが聴こえてくる。
今はそれ以上何も言うことはないです。前売りは完売。当日券情報はツイッター @hayashikana (制作・林さん)をチェック。(フジコ)


吾妻橋ダンスクロッシング

8月19日(金)〜21日(日)@アサヒ・アートスクエア
http://azumabashi-dx.net/

今年もやってきた吾妻橋DX。桜井圭介のオーガナイズにより、遠藤一郎、悪魔のしるし、core of bells、地点、ボクデス、三浦康嗣(□□□)、康本雅子、Line京急大谷能生×吉田アミ+ucnv、毛利悠子、Sachiko M、といった豪華なパフォーマーが出演する(回によって出演者が異なるので注意)。こうしてあらためて書いてみるといわゆるダンスなのは康本雅子だけで、むしろ音楽や現代美術の領域とクロスオーヴァーしているのが興味深い。個人的には初出場のcore of bellsに特に注目!(フジコ)



少年王者舘『超コンデンス』

名古屋公演は終了
8月19日(金)〜21日(日)@京都芸術センター
8月25日(木)〜30日(火)@下北沢ザ・スズナリ
http://www.oujakan.jp/

少年王者舘はこれで第35回公演となるベテラン劇団だけれども、わたしは昨年の『ガラパゴス』でようやく初観劇を果たし、変幻自在のマジカルな世界に圧倒された。失礼を承知で言えばアングラ版AKB48。圧が凄い。超かっこいい……! 名古屋出身の柴幸男(ままごと)がかつて憧れの劇団だと公言していたのも頷ける。ウェブサイトから飛べる『ガラパゴス』のダイジェスト映像を観るとあらためてゾワリと来るけれども、やっぱりこれはライブで体験したい。(フジコ)


真夏の極東フェスティバル 真夏の會『エダニク』

8月25日(木)〜28日(日)@王子小劇場
https://sites.google.com/site/manakyoku/home

大阪からやってくる二つの団体が合同で公演を行う。まずは表題の「エダニク」。作横山拓也はこの作品で09年第15回日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞した。登場人物3人のきっちりしたセリフ劇なのだが、舞台が食肉工場というきわどさのある社会派である。陰影のある人物造形は見事で、必然性がありハラハラさせるストーリー展開と相まって、全く文句なく楽しめ、同時に重たいものも心に残る。
3人の役者のすばらしさに興奮した。夏、原真、緒方晋は中堅からベテランに差し掛かるぐらいのキャリアであろうが、こちらの深いところを掴んで揺さぶることのできる魅力的な役者たちだ。大阪という土地でゆっくり熟成した錬られた役者力を持っている。長く新劇に関わったベテラン以外でこれだけの「うまさ」を感じさせる人は、小劇場にそんなにはいないのではないだろうか。(カトリ)

真夏の極東フェスティバル 極東退屈道場『サブウェイ 』

次は「サブウェイ」だが、ほんとに見て驚いた。ゼロ年代に活躍し多くの演劇人に影響を与え、今や伝説のように語られる団体の最良の後継といえるような作品である。見て良かったと心底思える作品だった。
CMや歌謡曲をネタとして、パロディやパスティーシュを作るが、ちょっと悪意を交えて取り上げていくセンスのよさ。さらにそれが大きな流れの中で適切な場所へと落とし込まれていく構成力。ネタの解読が行われると全く別の地平が現れてくる驚き。ストーリーとネタとその奥に流れる批評性という三層のレイヤーの切り方とその隠し方のうまさ。鮮やかなてつきである。作り手が苦しみの上で掘り当てたものが、こちらの長年の経験触れる僥倖。こういうのってホントたのしい。長く見てきてて良かった、と思える瞬間である。(カトリ)



Mrs.fictions  『サヨナラ サイキック オーケストラ』

8月25日(木)〜29日(月)@上野ストアハウス
http://www.mrsfictions.com/nextstage.html

Mrs.fictionsは、ここ4年ほど「15 minutes Made」という15分の作品で6団体を紹介するというオムニバスをプロデュースしてきた。その試みは孤立しがちな小劇場団体を出会わせ、競演することでお互いに相互評価や正しいライバル心を育ててきた。高く評価している。この公演で私も出会えた団体が多く、たくさん勉強させてもらった。
自嘲的に「15分の帝王」と名乗る有様になっていた団体だが、メンバーは男7人。5人が脚本が書け、4人が役者もするというユニークで力のある団体がfictionsである。3年ぶりの単独公演は長編だけに作演出は中嶋康太、出演に今村圭佑、岡野康弘、夏見隆太と豪華である。私は中島くんの本、セリフのことばのセンスが派手さはないが丁寧な世界を創るので気に入っている。楽しみだ。(カトリ)



キラリ☆劇場ツアー型パフォーマンス公演『モガっ!〜記憶はだいたい憶測。〜』

8月26日(金) 〜27日(土) @富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ
http://d.hatena.ne.jp/momonga_complex/20110709/1310190028

夏の恒例行事になりつつあった劇場バックステージツアー『わくわく☆探検記』が、劇場ツアー型パフォーマンスとして生まれ変わるようだ。構成・振付・演出にはモモンガ・コンプレックスの白神ももこ、作が田上パルの田上豊という布陣。つまり、どちらもキラリ☆ふじみの専属カンパニー(08年より)の主宰であり、3年間の活動で知り尽くした自分たちの拠点劇場を使ってどう魅せてくれるかが大きな楽しみ。ホール内だけでなく、屋上や外の水場など館内すべてを舞台&客席にした「記憶と妄想の脳内旅行」だとか。
なお、2日間4公演は昼・夕方・夜といずれも違う時間に行われ、どの回に来場するかによって明かり・温度・音の感じ方が全然ちがったものになることから2回券、3回券、全回通し券も発売している。(日夏)

モモンガ・コンプレックスは「はぐれ者一派」的な怪しげな雰囲気を身にまとっているが、実際に何を考えているのかよく分からない、あんま考えてないのかもしれない、そして華やかで愛嬌にあふれ、だけど「すごい」とは決して思わせないエラい(いや、エラくはない)人たちである。今回はそんなモモコンメンバーを中心に一癖も二癖もある俳優陣が勢揃いしての劇場ツアー。キラリ☆ふじみは会場でドラ焼きを売ってたりする地域密着型の素敵な劇場。思ったほど遠くないですよ。(フジコ)



子供鉅人『バーニングスキン』

http://kodomokyojin.com/next/
8月26日(金)〜31日(水)@芸術創造館(大阪)

5月の原宿VACANTでの公演が、まことに素晴らしかったこの作品。観る前に、「関西の快快」みたいな譬えを耳にしたが、どちらに対しても失礼で間が抜けた話だ。劇場ではない場所での公演や、アートやダンスとの越境などがその“原因”だろうが、その手の貧しい類型化から見えてくることなど何もない。
ダンスも美術も照明も、個性的ではあるが単に奇をてらってはいない。いたずらに自己主張せず、作品へと収斂する方向に発揮されていて、今作に関していえば(毎回作風がかなり変わるらしいが)、中野成樹+フランケンズの「誤意訳」と対決させてみたいほどの独特な世界観を醸しだしている。あたかも強烈な白昼夢、しかも限りなく悪夢に近いのに、祈りにも似た肌ざわりを残す。彼らの本拠地大阪で観ると、いったいどんな心持ちになるのだろうか。 (励滋)


『DANCE kakeru Music vol.1』

8月27日(土)@落合SOUP
http://www.baby-q.org/schedule/

東野祥子のダンスを観ると、息苦しさを覚える。彼女の動きそのものの窮屈さ、抑圧されるかのごとき身体を目の当たりにしていると、自らの内にある生きることにまつわる苦しさが揺り起こされる感じだ。カンパニーBABY-Qとしてはここのところずんずんとコンセプチュアルまっしぐらで、目指しているのが彼女の踊りの資質と重なっているとは思うものの、たまには存分に踊る東野祥子を期待している。
こんな世界では、際限なく解放してくれそうな踊りが求められるかもしれないのだけれど、ひき臼でゆっくりゆっくり磨り潰されるような日々の中で、それでも生きていく力となるのは、あの苦しさの中で踊りつづけるほとんど唯一の道を示してくれる東野祥子なのではないかと思っている。 (励滋)


地点上演実験Vol.4 『トラディシオン/トライゾン』

8月31日(水)〜9月4日(日)@シアタートラム
http://chiten.org/next/

京都を拠点に活動する劇団・地点。実は今までタイミングが合わなくてこの安部聡子×山田せつ子のシリーズは観れてないけれども、演出の三浦基によるステイトメント()を読むとやはり楽しみになる。独自のやり方で粛々と活動してきた彼らは、おそらくこれからもそのスタンスは崩さないだろう。地点の存在は「演劇」の持ちうる幅(ポテンシャル)を大きく拡げてくれている。彼らは実験的・前衛的・辺境的存在であり、と同時に、次世代演劇の中心的・王道的存在であるようにも思う。(フジコ)



ロロ『夏も』

8月31日(水)〜9月4日(日)@SNAC ほか京都公演
http://llo88oll.com/next.html

今年の3月からロロが繰り広げている、Super Deluxe での『夏で!』、15 MINUTE MADE SPECIAL Tourでの『夏に』、芸劇eyes番外編/20年安泰。での 『夏が!』につづく夏シリーズの第4弾。前3作はいずれも複数団体による合同公演で持ち時間も短めだったため、それぞれ懐中電灯・かき氷機・ブルーシートといったチープなガジェットが劇的に変容して夏物語を立ち上げる方向に一点集中で力が注がれていた感じだったが、今回はより台詞を重視した内容になるようだ。もともと、主宰の三浦直之は09年に王子小劇場「筆に覚えあり戯曲賞」の受賞でロロを旗揚げすることになったという経歴の持ち主。ひさしぶりの単独公演で、ロロならではの“夏言葉”の炸裂に期待したい。(日夏)

8月31日から9月のはじめといえば、終わらない夏休みの宿題を駆け込みでやっていた。こうやって夏が終わるのか……。そんな悔恨と、ほんの少しの期待と、甘さと、ほろ苦さが同居する季節。ロロはここでどう飛躍するのか。足早に去っていこうとする夏を(恋を)つかまえることができるだろうか? 久しぶりのフルスケールでの作品だし、SNACでやるのも楽しみ。稽古では福永信の小説を読んだりもしていたみたい。(フジコ)