マンスリー・ブリコメンド(2011年9月前半)

9月前半のブリコメンドです(コンセプトはこちら)。今回も公演日程ごと(初日順)に並んでいます。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年高知市生まれ。12歳から東京で一人暮らし。肩書きは編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』がある。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■sons wo:『仏門オペラ』
ポツドール『おしまいのとき』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
鉄割アルバトロスケット『鉄割あっ!』
■岩渕貞太 with 大谷能生『雑木林』
■豊島区在住アトレウス家


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
ミクニヤナイハラプロジェクト『前向き!タイモン』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】
■江戸糸あやつり人形座『アルトー24時』
■あひるなんちゃら『準決勝』
■第七劇場『かもめ』
■高木尋士主催 見沢知廉七回忌追悼公演 『天皇ごっこ 〜蒼白の馬上 1978326〜』


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
劇団☆新感線『髑髏城の七人』
ポツドール『おしまいのとき』









ミクニヤナイハラプロジェクト『前向き!タイモン』

9月1日(木)〜4日(日)@こまばアゴラ劇場
http://nibroll.com

技術のせいで聞こえないというのは、もちろん批判されるべきで、つまり発声の技量が拙い俳優とか、劇場空間を把握し損ねた演出家や音響担当のせいで、聞かせるべく準備されたものが届かないのはザンネンとしか言いようがないのだけれど、なんでもかんでも「聞き取れないじゃないか!」って怒っちゃうのは短絡よ。
ミクニヤナイハラ プロジェクトは振付家矢内原美邦の「演劇制作」の場。ここでも高速で発される台詞はなかなか聞き取れない。同時多発発話によって全てを聞き取れないのと似てて、言葉の断片からのイメージが、気づけば自分の中にしんしんと堆積していく。高速話法と戯画的動きで、ダンスとも演劇とも呼べる作風。物語を追うのではなく、「不幸などん底にいる後ろ向きな男が前向きに人生を見つめなおす」という本作の、前向きっぽさを、全身で体感すればいいじゃないか。(励滋)



鉄割アルバトロスケット『鉄割あっ!』

9月1日(木)〜4日(日)@下北沢ザ・スズナリ
http://www.tetsuwari.com/schedule/index

今回もきっと、ときに不条理で、ときに4コマ漫画のような芝居や歌や踊りが、ぐだぐたと、だけどすごい勢いで駆けぬけていく超短編連作集なのでしょう(笑)。観ていない人に説明はしにくいけれど、楽しむのにまるで説明などいらないパフォーマンスなんですよね。たとえるなら、落語や歌舞伎が誕生し定着しつつある瞬間を体験できるというか、そんなことはまったくないというか。江戸の粋を伝統芸能じゃない、同時代に生まれたものとして体感できる、かも、しれなくもないかも? 要するになにも断定できないわけですが、ただ、「こうしかできない」という初期衝動と、「観客に伝えたい」というおもてなし心の融和が心地よいのは確実です。(日夏)



江戸糸あやつり人形座『アルトー24時』

9月1日(木)〜5日(月)@赤坂レッドシアター
http://acephale.jp/news/news.html

ポール・ギルロイのいう「ルーツではなくルートを探る旅」として自分の演劇体験を考えると、まず人形劇につきあたる。
幼年期は「トッポ・ジージョ」。以来人形劇団ひとみ座の「ひょっこりひょうたん島」や辻村ジュサブロー(現寿三郎)の「新・八犬伝」などパペットという手遣い人形に棒使いを複合させた人形劇で育ち、またスーパーマリオネーションといわれるジェリー・アンダーソンの「サンダーバード」などが私の原初的な体験にある。30年以上継続して活動する人形劇団が多いのも特長だが、中でもマリオネットという「糸あやつり人形」の伝統を寛永12年(1635年)以来維持しつづける無形文化財の「江戸糸あやつり人形座結城座」、そこから独立した結城一糸による05年設立の江戸糸あやつり座など、一度は見てほしい人形劇は数多くある。一糸にとって今回のアルトーを上演するのは独立以来の夢であったらしいし、伝説の「全共闘vs三島由紀夫」に参加し、劇団駒場で初期のアングラ演劇をリードしていた芥正彦を演出に迎えることいい、興味が尽きない。(カトリ)



sons wo:『仏門オペラ』

9月2日(金)〜4日(日)@神楽坂die pratze
http://sonswo.web.fc2.com/

「ワンダーランド」のクロスレビュー挑戦編で当時まったくその存在を知らなかったsons wo:の『めいしゃ』に出くわした時、わたしは愉快でたまらない気持ちになった。豪快に(強引に?)展開していく夢想的なテクストはいい意味で世の中をナメている(迎合してない)感じがしたし、とはいえ繊細で独特な情緒(ペーソスのようなもの)を感じさせてくれた。何より、きっと彼らはこの公演をやるしかないんだろうな……、と思わせる切実さがあってよかったのです。今回はそれ以来となる待望の本公演。おそらくまた毀誉褒貶を呼ぶのではないかと思うけども、冒険枠として強く推したい。(フジコ)



あひるなんちゃら『準決勝』

9月2日(金)〜6日(火)@下北沢駅前劇場
http://www.ahirunanchara.com/next.html

おもしろけりゃいい。
とはなかなか断言できない。いろいろな思惑もあるし、断言することは諸刃の剣で自らを深く傷つけることもある。
でもあひるなんちゃらは「面白くっても大丈夫」((c)南伸坊
ほぼ70分というコンパクトさとぐだぐだ感。自ら「駄弁芝居」と呼ぶその「見終わってなにも残らない快感」。お約束を裏切り続けるとかっこ良くいってもいいし、見終わって「で?」と真面目に憤ってもいいだろう。そこにはエンタテインメントと、大上段に構えない、娯楽としてのお芝居の楽しさに満ち満ちた時間空間がある。「わが星」のお母さんも心に残る、黒岩三佳。MUや風琴工房での客演もよい根津茂尚など団員たちも優れた役者が揃う。(カトリ)



劇団☆新感線『髑髏城の七人』

2011年9月5日(月)〜 10月10日(月)@青山劇場
http://www.dokuro2011.com/

街の菓子屋さんが「おいしいものを手頃な値段で」と工夫を凝らしてつくるケーキも確かにおいしくて愛おしいけど、たまに贅を凝らした材料でつくられた高級店のケーキを食べてみることも絶対に必要だ。それまで刺激されたことのなかった味覚が目覚めたり、大型スーパーに対抗するヒントが浮かんだり、ケーキに対するボキャブラリーが増えたりすることがあるから。
チケット代、S席12500円、A席10,500円。確かに高額だけど、その値段に見合う大きなエンターテインメントを新感線はいつも視座に置く。その証拠に、しなくてもいいこんなことだってしているのだ。http://dokuro2011.exblog.jp/
今回の演目で言えば、小栗旬を色悪にキャスティングした見識がさすが。森山未來早乙女太一を観て「舞台で美しく動くってこういうこと」を知ってほしい。当日券、出ますよ。(徳永)



第七劇場『かもめ』

9月8日(木)〜11日(日)@シアタートラム
http://dainanagekijo.org/

ヨーロッパの円形、石造り劇場の伝統とは違い、日本では歌舞伎の歴史から天井の低い横長の舞台が採用され、そこに役者たちが並び名乗りをあげるような、私が言うところの「並列展示型」の舞台が構成されてきた。その伝統の中でいかに空間性を勝ち取るかが、近代以降の日本の演劇的課題だと私は思っている。第七劇場は09年3月以来の東京公演。地域や独仏での公演や野外でその特質を発揮してきたが、空間性の豊かさとパースペクティブのあるレイヤーの構築に優れた作品を作る。今回はシアタートラムということで奥が深い、客席から見下ろす感じになる劇場での作品づくりである。舞台面が見え、奥行きが把握しやすいという空間をどう使いこなしていくか期待は2割増しである。また初めてでもリピーターでも1.000円という信じがたい料金設定になっている(すべて自己申告でよいらしい)。(カトリ)



ポツドール『おしまいのとき』

9月8日(木)〜25日(日)@下北沢ザ・スズナリ
http://www.potudo-ru.com/

三浦大輔としての演出作品は何作かあったものの、ポツドールとしては本当にひさしぶりの、なんと新作としては3年半ぶりの公演。わたしは実はポツドールセミドキュメンタリー時代)で確か初めて小劇場演劇を体験したように記憶してますが、通過儀礼にしてはちょっと強烈すぎてもう二度と観るもんかーとか思うこともありながらそれでもまた観に行っていたわけです。「シアターガイド」10月号掲載のインタビューによると、三浦大輔はその代名詞であったとも言える「リアルさ」から別のものへと関心を移行させつつあるようで、実はそれって小劇場のモードがまたひとつ変化しようとしていることの象徴ではないかとも思える。ともあれ「リアル」のギブスをはずした新生ポツドール。何を見せてくれるのだろうか?(フジコ)

三浦大輔3年ぶりの新作、というだけでも期待値は上昇するが、その間に三浦が経験したこと──ポツドールの海外公演と、翻訳劇の演出──の大きさを考えると、時間的なこと以上に意味ある新作になるのは間違いない。
単純に予想できる変化はふたつ。まず、海外での高評価は彼らに大きな自信をもたらしたはず。何しろ当初はドイツ公演だけの予定が、熱狂的な要望を得て、ベルギー、ウィーン、カナダの演劇祭に続けて招へいされた。自作の完成度に対して極めて神経質だった三浦だが、この評価をどう消化したのか。もうひとつの翻訳劇演出は、主演の向井理の大ブレークと相まって、演劇ファンにまで充分にチケットが回らなかったが、ほぼ同世代の海外の劇作家が、自身と同じように美醜の問題や地方都市の若者の鬱屈を描いていることに大いに励まされたと予想できる。いわば、視野を広げた三浦の変化に注目したい。(徳永)



岩渕貞太 with 大谷能生『雑木林』

9月9日(金)〜10日(土)@アサヒ・アートスクエア
http://teita-iwabuchi.com/jp/copse.html

昨秋、劇評サイト「ワンダーランド」の鼎談で鈴木励滋さんがお薦めしてくれていたのが、今回と同様な岩渕貞太と大谷能生によるコラボ『UNTITLED』。身体と音楽、さらには光との並列感、あるいはせめぎあいと融和と反転に衝撃を受けました。そして、なんだか自分が新しく生まれ変わったような感覚すら。
前回は親密な空間である横浜STスポットでしたが、どーんとしたアサヒ・アートスクエアに舞台が移り、照明家も変わることで、一体、今度はどんな風景、世界が待っているのでしょうか。ビルのなかに出現したその『雑木林』にはきっと、正しく風が吹き、生物が蠢き、地下ふかくの水の流れが感じられるような気がします。(日夏)


高木尋士主催 見沢知廉七回忌追悼公演『天皇ごっこ 〜蒼白の馬上 1978326〜』

9月9日(金)〜11日(日)@APOCシアター
http://engeki.ne.jp/saisei/archive/20110909/home/index.html

未見であるし、演劇として面白いのかどうなのかは全く未知数なのだが高木尋士という人に興味を持っている。
日本人論が大好きな日本人と揶揄されながら、ナデシコだのと間歇的に愛国風なものがいつの時代も噴き出してくる。今回も頑張れ東北が、いつのまにか頑張れニッポンにすり替わったりもした。首相が被災地に訪れても罵詈雑言が投げかけられるだけのに、あの方たちが平服で跪くと感動し涙を流す感性はいまだ健在である。北一輝から三島由紀夫野村秋介見沢知廉という流れを考えなければならないとずっと思っている。「天皇ごっこ」を劇化するという高木の試みは、右だとか左だとかラベリングしただけで安心しがちな「世間」に対する一矢になり、「国家」を考えるための補助線に現在だからこそなるやもしれない。明解な主張の込められた舞台を見てみたいと思う。(カトリ)



豊島区在住アトレウス家

9月13日(火)〜18日(日)@千登世橋教育文化センター アートステーション「Z」
http://thoa.gr/

前作の『墨田区在住アトレウス家Part2』では、向島の古い民家を舞台に、ギリシャ劇の一家の“日本風なお正月”が描かれていました。それは、同時多発的巡回演劇のロールプレイグゲーム的な楽しさを導線に、劇中で日本のお節料理を作っているかと思ったら正統なギリシャ料理だったというような驚きを交え、最後は遠い過去の戦争の爪跡と足音が現代に重なってくるような作品(誰一人おなじものは観られないので、ちがう感想もあると思いますが)。今回は、向こうの島から豊かな島へ移住してきたあの一家が、どんな生活をしているのか、ちょいと覗いて、ではなくご挨拶にうかがってきます。 (日夏)