マンスリー・ブリコメンド(2011年11月前半)

11月前半ブリコメンドです(コンセプトはこちら)。わたしは粛々とF/T公募プログラム後半戦を観る感じ。今回のブリコメンドは全体に数も少なくてやや寂しいのですが、おそらく追加で出していくと思います。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
★F/T公募プログラム各作品
Chiice!特集http://www.next-choice.com/data/?tag=ftsp
■柿喰う客『検察官』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
川島潤哉の一人で演劇  コテン『魔』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
■ヨコラボ'11c『ワカクマズシクムメイ ナルモノノ スベテ』
■空間再生事業 劇団GIGA「W.B.イェイツ三部作」『窓ガラスに刻まれた言葉』『煉獄』『骨の夢』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】
■柿喰う客『いまさらキスシーン』
■スクエア『帰ってきた ザ・バックストリート・シャイニングス』


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)http://www.next-choice.com/data/?cat=10
■魁文舎『砂の駅』
NYLON100℃『ノーアート・ノーライフ』
近藤良平と障害者によるダンス公演『適当にやっていこうと思ったの』








ヨコラボ'11c『ワカクマズシクムメイ ナルモノノ スベテ』

11月1日(火)〜2日(水)@新・港村ホール(新港ピア内)http://stspot.jp/news/yokowaka.html

「ヨコラボ」とは、STスポットの仕掛ける「若手身体表現者のトライアルの場」としてのプロジェクト。昨年は手塚夏子をオブザーバーに迎えて、これから身体表現を探ろうとする人たちが、じっくりと創作する場であったが、今年はがらりと様相を変えた。桜美林系ダンスの若手が集結した感じ。それも、いちど散り散りになった人たちが、それぞれ異なる場所で研鑽を重ねて、ふたたび集まってきた! っ て、なんか少年マンガみたいなシチュエーション。「輝く未来」で伊藤キムイズムを注入された井上大輔。まことクラヴの団結堅い中に溶け込めるのかという心配も打ち砕き、忙しくて欠席多い中森下真樹菜の穴を埋めるほど、今や立派な部員となっている入手杏奈。そしてモモンガ・コンプレックスに欠かせない北川結は、モモンガの先輩・高須賀千江子やデラシネラの藤田桃子にも匹敵する、おバカとクールを併せ持つ期待のダンシングヒロインだぜ! 奴らは再集結してここからのろしを上げる。目を離してはいけない。(励滋)



魁文舎『砂の駅』

11月03日(木)〜2011年11月06日(日)@世田谷パブリックシアターhttp://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/11/npo.html

太田省吾がいない以上、私達がこれから触れる太田作品は「太田の魂を受け継いだ演出」か「太田戯曲を大胆にアレンジした演出」でしかあり得ない。韓国の女性演出家キム・アラによる『砂の駅』は、間違いなく前者で、しかも安易なコピーではなく、かなり真摯で緻密なものだと予想する。なぜなら、長く転形劇場にいて太田と数々の作品をつくった品川徹、大杉蓮、鈴木理江子が揃って出演するから。
太田演出を見られたはずの時間を大事にしなかった、それを後悔している私にとっては、これはかなりありがたいチャンスだ。また同時に、キャストの半数以上を韓国人俳優が構成することから、新しいものにしようとする意志、どうしたって新しいものになる予感も感じる。
稽古の抜粋がYOU TUBEに上がっているので、参考までに。(徳永)
http://www.youtube.com/watch?v=-hLn_cbADjY


柿喰う客『いまさらキスシーン』

11月5日(土)〜6日(日)@学習院女子大学やわらぎホールhttp://www.kangeki-ichiba.org/

「感劇市場2011」の1本。感劇市場とは05年から続く学生主体で運営する、BeSeTo演劇祭から派生したフェスティバルである。ここ4年はコンドルズが常連となっているが、過去には青年団(’09)や東京オレンジ(’07〜09)なども参加している。そこに先日、10周年ということで全国7都市でサーキットされた「INDEPENDENT」でも再演された柿喰う客「いまさらキスシーン」がくる。(大阪のIN→DEPENDENT theatreが開館の翌年である01年から続けてきた一人芝居フェスティバルである「INDEPENDENT」は、東京ではこまばアゴラ劇場で8/4〜7に上演された。関西小劇場発のフェスティバルが国際演劇祭と協調するという展開は今後に期待が膨らむ。)
今ではひっぱりだこの玉置玲央によるこの一人芝居は08年初演。そのクオリティ、完成度の高さは、長く、何度も再演を繰り返してほしいと言い続けているものだ。「柿テイスト」あふれる最良の一本である。作品としてすばらしいこの作品が再々演されることは作品のためにうれしい。(カトリ)


NYLON100℃『ノーアート・ノーライフ』

11月5日(土)〜27日(水)@下北沢 本多劇場 (ほか、北九州、名古屋、大阪、広島公演もあり)http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/nylon37th.html

劇団健康の頃、ケラリーノ・サンドロヴィッチが生み出す笑いは、かなりの割合で露悪的で、同じ学年である私の目に、それは子供っぽく映った。ナイロン100℃になってからも私は特にいい観客ではなく、KERAの劇作力と演出力の認識を全面的に刷新するのは、04年の『男性の好きなスポーツ』からである。01年の『ノーアート・ノーライフ』初演も、実はそれほど強い印象を持たなかった。
ところが今回の再演にあたって必要が生じ、初演のDVDや戯曲を見直してみたら、実によくできた作品で驚いた。DVDは、劇場で観た時の何倍も笑った。つまり、子供だ子供だと思っていたKERA君はいつの間にか、演劇人として成長し、成熟し、私なんかよりずっと先を行っていたのである。KERA君、否、KERAさん、ごめんなさい。思わず心の中で謝った成熟度がどれくらいかと言えば──。初演も観たし、それをDVDで見直したし、戯曲も読んだし、稽古も少し観た。でも再演の本番を観ることが楽しみ。それぐらい味わい深い成熟度だ。(徳永)



スクエア『帰ってきた ザ・バックストリート・シャイニングス』

11月10日(木)〜13日(日)@シアターグリーン BOX in BOX THEATERhttp://square.serio.jp/

大阪で96年に結成されたスクエアは01年にF/Tの前身、東京国際芸術フェスティバルにあった「リージョナルシアター・シリーズ」に参加し、東京デビューした歴史ある団体だ。今はなきシアターアプルで行われた「東京劇団FES’08」での「ひかげの軍団」はよく覚えている。現在は年に1、2度東京公演をしてくれる。私はいつも楽しみに待っている。
すっかり全国区になった、「大阪風のコテコテ」というのではなく、憎めないがピントのずれた人たちが織りなす「暖かい笑い」がそこにはある。三谷幸喜ニール・サイモンのような都会的オシャレ感とはほど遠いが、のんびりしたハートウォーミングはかえって現在の世知辛さの中では輝いている。(カトリ)



川島潤哉の一人で演劇  コテン『魔』

11月10日(木)〜14日(月) @APOCシアターhttp://kotenten.exblog.jp/i5

ホームページには、「コテンとは、要するに面白い一人芝居のようなものです」と書かれている。これまでは「孤天」という名前で過去3回の公演が行われてきたが、4回目の今回から「コテン」に改名。川島潤哉が今年のはじめにコマツ企画を退団したことも影響しているのだろうか。心機一転、新たな挑戦へのひっそりとした決意もうかがえる。
それでも、おそらく変わらないだろうと思われるのがそのスタイル。あえて「一人芝居のようなもの」と書いているように、「孤天」はいわゆる一人芝居ではなかった。極論すれば、「個展」芝居という新しいジャンルなのだ。ひとりの役者による力試し、腕自慢的なものにもなりがちな一人芝居とは異なり、ひとりで全部を背負ったほうが統一感のある世界が作れてしまうはず、という確信が伝わってくる舞台なのである。
まさに、ひとりでしかできない、ひとりだからこそできる演劇。今回も、空間すべてが川島潤哉一色に染め抜かれることだろう。(日夏)



空間再生事業 劇団GIGA「W.B.イェイツ三部作」『窓ガラスに刻まれた言葉』『煉獄』『骨の夢』

11月11日(金)〜13日(日)@atelier SENTIO - アトリエ センティオhttp://spacegiga.com/

2006年に静岡で観た、サム・シェパードピューリッツァー賞受賞作『埋められた子供』の山田恵理子による演出は、その少し前に観たチェルフィッチュの『三月の5日間』と遜色がないほど強い印象を残した。
すでに崩壊して久しいのに、表面上は家父長の威厳によって取り繕われている家族が、果たして暗部が抑えようもなく噴出していく三幕物を、幕ごとに俳優の役を入れ換えてみせた。「主体の入れ換え」というとまさに岡田利規を想起するが、山田のそれはいささか荒業だった。ベタな衣装と隈取並みの化粧といういでたちの人々を、小道具などのわずかな変化や演技によって強引に入れ換え、言うまでもなく舞台上は卓袱台をひっくり返したような混沌。もともと闇の奥底は語りきらずに観る者に投げかけてくる原作だが、不倫や近親相姦や嬰児殺し、さまざまな罪業が人々の混じりあう中で渦のようになり、加害/被害は峻別できるものではなくなり、自らも断罪できる場所にはもういなくなっていた。
福岡を拠点とする劇団で東よりも西へ、アジア諸国へ活動の範囲を広げているため、東京ではなかなかお目にかかれない彼/女たち。ハロウィンにあわせて地元で公演したW.B.イェイツの「死者にまつわる物語」のお裾分けが楽しみで待ち遠しい。 (励滋)



近藤良平と障害者によるダンス公演『適当にやっていこうと思ったの』

11月12日(土)〜13日(日)@彩の国さいたま芸術劇場 小ホールhttp://www.saitama-artfes.com/dance.html

時折り、ものすごく鼻が利く。一昨年、コンドルズの近藤良平が埼玉県から依頼を受け、埼玉県内の障害者とダンス作品をつくった『突然の、何が起こるかわからない』のチラシを見て、よくある社会事業めいたイベントとは違う何かを感じて観に行ったら、これが予想を遥かに超える、とんでもない代物だった。
たとえば、きれいな女性ダンサーが歩く後を、車椅子に乗った、おそらく脳性マヒの青年達がうっとりした表情でついていく。女性がつけられている気配を感じて振り向くと、絶妙な間と鮮やかな車輪さばきで彼らは止まり、そしらぬ顔で違う方向を見る──を延々とやってしまうアナーキーさ! 遠慮なんて早々に消えて、大いに笑ったり唸ったりした。そしてカーテンコールで観たあるダウン症の少年の完璧な笑顔に、自己肯定の価値を教えてもらったのだった。隣の席では、近藤さんから誘われたという長塚圭史さんが感動で震えていた。
その第2弾がこれ。与野本町まで行く価値、大いにあり。(徳永)



柿喰う客『検察官』

11月12日(土)〜28日(月)@こまばアゴラ劇場
http://kaki-kuu-kyaku.com/

柿喰う客はここしばらく観てないので、彼らの最先端がどこにリーチをかけているのかわたしには分からない。だけど上映のUSTは何度かこっそり覗いているし、やっぱり気になる存在なのです。今回は〈日韓演劇交流プロジェクト2011〉の一環として、柿喰う客の中心メンバーたちが韓国の若手劇団「連劇美」の俳優たちと組む。澤田慎司(FUKAIPRODUCE羽衣)の参加も楽しみなメンバー構成。
ところで余談ですが昨夏のBeSeTo演劇祭で、柿喰う客のカタコト英語劇『Wannabe』を観ました。わざわざ感想を英文でも書いたくらいなので、わたしは相当感動したのでしょうね。で、客席にいたかなりエラい感じのお爺さん2人組が、「英語で何でもできると思っているんでしょうかねえ」「アメリカ帝国主義とか知らないのかね」とお話しされていたのですが、しかしわたしが思うにですね、実際に韓国や中国の俳優たちと一緒に、つまりは誰ひとりとしてネイティブでないブロークンな英語を用いて、それでも体当たりで「具体的な他者」とコミュニケーションしていこう、(そうすれば新しい世界が見えてくるはずだ)、とゆう「実用的な希望」の提示がなされていたし、意外にこうした一歩一歩の積み重ねが天下国家を論じる以上にあとあと生きてくるのではないか。たしかに素朴なやり方だけど、素朴であるがゆえに大きな力を持つかもしれない。今回はゴーゴリの諷刺喜劇『検察官』にチャレンジするそうです。物語の設定自体は明快だけれども、構成・演出の中屋敷法仁はこれをどう料理するのかしら。(フジコ)