マンスリー・ブリコメンド(2011年12月後半)

さて7月から始まったマンスリー・ブリコメンド(コンセプトはこちら)も半年間、どうにか運転してきました。2011年のラストとなります。残念ながら徳永さんはお休み! カトリさんはもしかして余力があれば追加参戦してくださるそうです。あ、チェルフィッチュ『三月の5日間』は、前回の熊本公演に引き続きの紹介となります。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評サイト「ワンダーランド」や音楽雑誌「ele-king」に執筆。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
■ブルーノプロデュース『ワールド・イズ・ネバーランド
■中野成樹+フランケンズ『ゆめみたい(2LP)』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
■中野成樹+フランケンズ『ゆめみたい(2LP)』
■快快『ゆく年くる年 "SHIBA⇔トン" ♡歳末大感謝祭♡』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
チェルフィッチュ『三月の5日間』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】



徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)http://www.next-choice.com/data/?cat=10





チェルフィッチュ『三月の5日間』

12月16日(金)〜23日(金・祝)@KAAT神奈川芸術劇場日本大通り元町・中華街
http://chelfitsch.net/

『三月の5日間』が画期的だったのは、その新しい形態ゆえではない。
そこの辺の誤解から、だらだらと観客に伝聞調のように語りかけていたかと思えば、主体として語ったり、そのように語る「主体」が別の誰かに移っていったりという、その雰囲気だけを模倣した作品がどれだけ生み出され、どれだけツライ観劇体験を人々に課してしまったことか!
ようやくすべての裁判が終わったオウム真理教事件に少なからぬ端緒があると思うんだが、絶対的な価値観に寄りそえなくなってしまった後の世界の演劇ってどうなのよ、という行き詰まり感の中で、よく、様々な公演でドラマトゥルクをしている野村政之が海を割った聖人の話にたとえるように、その先に語りうる道ゆきを示してくれた作品なのである。
この作品の中では「イラク戦争開戦」が語られるが、どちらかの正義などという従来型の物語ではなく、宙ぶらりんで揺らぎつづけ、つかみどころがなく閉じることがない、それはまさに生成されつづける物語である。そこでは、わたしたちのコチコチな感覚は混乱させられ、目眩の末に自己と他者の垣根がぼやけてしまっての帰途となるはずだ。
そこから見える風景のなんと豊かなことか! 相変わらず固まってしまっているこんな時代にこそ、観られるべき作品に違いない。(励滋)




ブルーノプロデュース『ワールド・イズ・ネバーランド

12月23日(金)〜25日(日)@王子小劇場(王子)http://brunoproduce.net/

前作の『カシオ』再演に、彼らは大きな手応えを感じたのではないか。真っ白な壁面と床にすべてを囲まれた白銀の世界の中で、淡い記憶が、明瞭な形をとりきらないまま現れて消えていく。大作と呼べるスケールではないし派手さもないのだが、だけれども静かに進行していく世界はとても愛おしかった。主宰の橋本清が演出部に所属する東京デスロックをはじめ、チェルフィッチュ、ままごとなど、先行世代へのオマージュを示しながらも、独自のイノセント・ワールドを展開していた。(アフタートークの模様はこちらhttp://brunoproduce.net/html/casio_site/taidan/casio_fujiwarasan.html
さてしかし「ドキュメンタリー・ポップ・ザウルス」をキャッチコピーにする今回は、もしかしたら雰囲気もがらりと変わるのかもしれない? キャストはみな80年代後半から90年代生まれ(!)と圧倒的に若い彼らが祝福するクリスマスの饗宴。音楽家・涌井智仁とのコンビも見所です。(フジコ)



中野成樹+フランケンズ『ゆめみたい(2LP)』

12月23日(金)〜27日(火)@川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(新百合ヶ丘http://www.frankens.net/

中野成樹+フランケンズの演劇は(実はどの劇団だってそうだけど)デフォルメされている。つまり、様々なものが削ぎ落とされてフィクションを構成するわけだが、ただしそれは決して矮小化とかではなくて、特に彼らが「死」を扱う時の手つきには、倫理的なものを感じるのです。いうなればそれは何か不条理なものを目の前にした時、畏敬の念をもってその場に立ち尽くすようなこと。やろうと思えば無作法になんでもできてしまう演劇にとって、それは一片の良心とも呼べるものかもしれない。
さて今回は『ハムレット』の誤意訳。「誤意訳」とは古典を現代演劇として翻訳上演する際に用いる方法(誤訳+意訳。中野の造語)だが、単に舞台を現代に置き換えてみました〜、とか、適当にでっちあげてみました〜、とゆうことでは全然なくて、そこには常に中野なりの真摯な解釈(と、そこから生まれる飛躍)がある。劇団として抱える素晴らしい俳優陣に加えて、翻訳に長島確、ドラマトゥルクに熊谷保宏を迎える新体制のナカフラによる2011年最後の公演。(フジコ)

2年前の12月、今回の作・演出の中野成樹と翻訳の長島確(そのときはドラマトゥルクを担当)による『忠臣蔵(と)のこと』が、おなじ川崎市アートセンターで行われている。それは1年後の『忠臣蔵』上演にむけての公開勉強会のような感じだったが、江戸時代の話をあえて現代の感覚で捉えなおすために、刀を包丁に置き換えて役者を立たせてみたり、重なりあう、オウム真理教の幹部が刺殺された事件や豊田商事永野会長刺殺事件の映像を流すなど、その段階での彼らの試行錯誤が提示されていた。
そして、そのときのひとつの結論は「『忠臣蔵』は日本人にとってのソウル・サーガだ、ワーグーナーの『ニーベルンクの指輪』だ、4夜連続上演だ!」だったのだが、なんと1年後、昨年12月に実際に上演されたのは、現代演劇としてだけでなく、無声映画・古典芸能・講演会・コンテストなどの多彩なプログラムでおくる『忠臣蔵フェア』! なかでも、中野成樹が四十七士の討入りをひとりで演じた誤意訳『討入り』は、秋葉原連続殺傷事件などを思わせる殺人事件の加害者と自らや観客を『忠臣蔵』に同化させる鬼気迫る内容で、1年間の蓄積の重みを十二分に感じとれる凄い作品になっていたのである。
だから、そのふたりがふたたび1年間の準備期間をとって仕掛ける、シェークスピアの『ハムレット』を元にした今作にも大きな期待をしてしまうのは当然のことだろう。今回のタイトルは『ゆめみたい』だが、そういえば中野成樹作品はどこか、『討入り』でも『寝台特急”君のいるところ号”』でも『44マクベス』でも、登場人物があたかも夢遊病者であるかのように、現実感を失ってさまようシーンが印象的だったりするよなあ、なんてことも思い出しながら。あるいは、主人公ハムレットの台詞のじつに1/4が疑問符で語られているという“問い掛けの戯曲"が、どのように現代に接続してくるかの興味もはげしく掻きたてられながら。
ちなみに副題の(2LP)とは、LP2枚分という意味だとか。通常なら3〜4時間の上演時間になってしまう『ハムレット』を、その味わいを“おおよそ"残しつつも、たとえば亡霊絡みはホラー、オフィーリア関連は悲恋物、母との確執は家族劇、最後は隣国が攻めてくる政治劇と曲調を変えて、長大な物語を約90分という長さの2枚のアルバムに収めてしまおうという企みのようだ。(日夏)



快快『ゆく年くる年 "SHIBA⇔トン" ♡歳末大感謝祭♡』

12月27日(火)〜28日(水)@M  EVENT SPACE & BAR(代官山・中目黒・恵比寿)http://faifai.tv/faifai-web/2011/12/-shiba.html

12月7日、チェルフィッチュの『三月の5日間』プレイベントとして行われた「若手作家の座談会」のなかで、快快のリーダー・よんちゃん(北川陽子)は、11月に亡くなった立川談志について触れていた。曰く、家元が語った「落語は人間の業の肯定」を自分たちが演劇で継承していくことを考えたい、と。正直、痺れた。そしてまた、いまの小劇場界に意外に多い、人間の欲望を垂れながすだけの作品ではなく、やはり人間の業としっかり向きあい、肯定にまで至るものが観たいよな、とも思ったのだ。
そして今回、宣伝文句には「日本を揺るがすハチャメチャ大忘年会!?」なんて煽りもあるけれど、じつはけっこうガチに、東京・大阪だけでなくベルリン・ブダペストでも好評を博した代表作『SHIBAHAMA』のイベント&新生パートを高速マッシュアップして行うという。もちろん原案は、夫婦の人情噺であり、談志がライフワーク的に師走に高座にかけつづけてもいた『芝浜』である。はたしてどこまで、快快の“生きとし生けるもの、全員LOVE!!”な精神が、「談志の『芝浜』を聞かないと年を越せない」といわれるほどの風物詩に迫れるのか。なんて過大な期待も抱きつつ、どうなっても最後は酒を飲んで、今年の凶事をふくめてみんな「夢にしちゃえばいいや」なんてお気楽な姿勢で臨みたい。しわーっす!!(日夏)