1/4 市原佐都子卒業研究『虫虫Q』

 
▼『虫』あらすじ
田中よし子(吉田聡子)は、不味い弁当屋でバイトをしている。そこには笹中と岡崎が働いてる。 笹中はデパートが好きな女子大生、岡崎は弁当屋と自宅の往復生活しか知らない女だ。ある日、田中よし子の自宅マンションに「虫」が侵入して来る。田中は毎晩虫を待つようになる。「虫」がいつでも入って来られるようベランダの窓を開けうつ伏せで寝たまま……。その様子を向かいのアパートに住む景子が毎晩見ている……。


― 2人は桜美林大学の同期生ですね。1年の時から知り合いですか?
 
市原 最初、なんだっけ?
吉田 たぶんさとちゃんがOPAP(桜美林大学の舞台公演システム)に出演してて、授業で一緒になった時に「同じ名前だね、予約ちょうだい」って言われて。「あー」みたいに感じた思い出があります(笑)。

― 最初に一緒に何かをしたのって、役者同士としての共演?

吉田 範宙遊泳の『少年少女』(2009年8月)です。
市原 でもその前から仲良かったよね。なんで?
吉田 さとちゃんは学校の企画で主に活動してて、私は範宙遊泳とかマームとジプシーとかに出てて。だから別のところでやりながら、すごいなー、みたいなのはお互い感じてた。
 
― リスペクトし合ってたと。
 
市原 そうそうそう(笑)。
吉田 軽くね(笑)。
 
― その時は市原さんはもう戯曲を書いてたの?
 
市原 全然。(役者として)出るだけです。
 
― そして卒業公演で『虫虫Q』を一緒にやることになったわけですね。あの公演、いきなり舘巴絵さん(2人の後輩)からツイッター経由で「もう絶対見てください損はさせません!」みたいな熱烈メッセージが来て、半信半疑で観に行ったらすごく面白くて。あの舘さんの情熱はいったい……?

吉田 あのままのノリだと思います(笑)。
市原 泣いてたね。舘は映像オペレーションやってたけど、泣いてるから間違える(笑)。でも遠くまで観に来てくださってありがとうございます。

― あれが初めて書いた戯曲ですよね。
 
市原 そうです。卒業研究として、初めて書きました。でもあんなにストーリーを書いてセリフ喋るとは思ってなかった。最初の稽古の頃とか、もっと踊るのかな、とイメージしてて。そうでもなくなったけど。
 
― 特に竹中香子さんとかかなり踊ってた印象が。
 
市原 あれは……あんなに踊るとは思ってなかった(笑)。

― 竹中さんにダンスの感想求められて何か言った記憶があります(笑)。  

市原 香子ちゃん、すぐダメ出しされるんです。  
吉田 たぶん愛されてるから。
 
― あれから単身フランス留学に行っちゃったという、すごく勇気ある人ですよね。それはさておき『虫虫Q』は強く印象に残りました。というのも、あの頃はわりと「多幸感」によって世界を肯定していく演劇が多い気がしてたのね。だからなおさら、なんでこの人たちはこんな暗い世界を描いてるんだろう?と興味も抱いたし、セリフとか動きとかも独特で面白くて、直感的にビビッときたというか……。しかし暗かったですよね(笑)。けっして悪いことではないと思うけど。
 
市原 あんまりいいことがあると思ってなかったのかも。大学を卒業するとか、卒業したとか、そういう時期だったじゃないですか。なんか普通になるっていうか。どんどんこれからどうでもよくなっていくのかな、と思って。特別感はなくなると思って。  
 
― 演じる吉田聡子としては、ある日、それまで共演仲間だったり友達だったりした市原佐都子が急に台本書いてきて、それを渡されたわけですけど、どう思った?
 
吉田 それはお互い様っていうか。同期だから。大森美里ちゃんだけ後輩だったんですけど、あとはみんながみんな同級生で初めてのことばっかだし。
市原 あんまり同期でやってる人(劇団主宰)がいなかったかも。  
吉田 うん。それであの頃はみんな混乱しててどうしていいか分からない感じで。突然台本渡されたけどよく分かんなくて。お互いすごく気を遣ってる感じでしたね。  
市原 友達だ、っていうのが強かったから「嫌われたくない」ってみんなあったけど、「ちゃんとやりたい」という気持ちもあって、そしたら「嫌われたくない」のが邪魔な時もあって。……という感じでやってました。  
 
― 吉田聡子演じる田中よし子がひどいことをするのに、それによって相手に感謝の念が生まれるシーンがありますよね。すごく気持ち悪いけど、何か響くものも感じました。あの倒錯した感情を描こうというイメージは台本書く前からあった?  
 
市原 ない。
 
― …………(笑)。そうですか。ちなみに、いつも散りばめられる固有名詞がユニークですけど、この作品で嵐のニノがフォーカスされてたのは、好きだから?  
 
市原 いや、私は好きじゃないんですけど、あの岡崎役の子がすごい好きで。
吉田 ニノが好きなんですよ。
市原 岡崎が出るたんびに嵐の曲が流れたらいいよね、という程度で、もっと軽くニノが出てくると思ってたら、意外に大事な要素になっちゃいました。
 
― なるほど、結構手探りだったと……。ともあれ無事公演が終わって、後でタイトルを『虫』に変えたのはどうしてですか。
 
市原 なんかかっこつけたのかな(笑)。  
― そもそもQというカンパニー名はどこからの発想?
 
市原 なんでも良かったんですけど『虫虫Q』から採りました。あれは虫が出るってことは決めてて、「虫なんとか」ってタイトルをずっと考えてたけど思い付かなくて。「虫」って「Q」っぽいじゃないですか、字の形が。あんまり意味とかじゃなくて、形、として見えるようにと。
 
― なるほど。しかし「虫」を2つ重ねたのはなぜ?
 
市原 分かりません。
 
― 虫が好きとか?
 
市原 うーん、好きじゃない……かな。いきなり虫が飛んできて刺されるとかって結構「はあ?」って感じじゃないですか。そういうのが描きたいなと思って。なんか強烈なことが起きるっていう。


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