2/4 Ｑ第1回公演『油脂越し』
▼『油脂越し』あらすじ
仲のいい中学生・隣子と月子。しかし月子（吉田聡子）は、歳上の男となんとなく寝てしまう。隣子もまた、悪口の対象だったはずの島村さんに惹かれていく。そして隣子の父親は、娘の日記を覗き見ている……。
― 卒業研究『虫虫Ｑ』が終わった時には、今後も続けていくかどうか「まだ決めてません」みたいに言ってましたよね。と思ったらＱの旗揚げ公演『油脂越し』は2010年の7月。卒業してから意外と早かったですね。あ、やるんだ？、と思って嬉しかったですけど。
市原 最初はもうやらないつもりでした。でも『虫虫Ｑ』はあんま稽古できなかったから、相談というか話はしてたね。もっとちゃんとやりたいって。
― 吉田聡子も卒業してこれから女優としてやってくぞ、という頃だったのかなと想像しますけど。
市原 さとちゃん、女優だよっ！
吉田 ……えっと、それで、話はなんですか？
― あのう、なんといいますか……。僕は2人よりちょっと歳上の劇作・演出家の人たちにインタビューすることはあるし、話もある程度通じる気がするけど、君たちはまだほんと何考えてるのか掴めないんですよね。しかも女優となるといっそう謎っていう。
吉田 ……。
市原 さとちゃん女優だって！
吉田 んふふ
― えっと、ていうのも『油脂越し』で中学生の女の子が歳上の男と「8時だョ!全員集合」を見て、その男に対して「勝った気がした」って独白するじゃないですか。こんな感じで。
月子 コリンコリンコに内緒にしてることがある 中間試験の最終日の放課後 平日で人の少ない商店街を一人で歩いていたら男の人に話しかけられた やあって それでその人の家に行った スーパーでお惣菜を買って行って その人はおいしそうにそれをを食べた 私にもくれて 刺身とかポテトサラダとか ビールをごくごく飲んで 私が刺身あんまり好きじゃないって言ったら唐揚げとか好きなんだろって笑った 私のこと可愛いって言った ビールの香りの息・・・ 私は産まれて初めて男の人の家に行ったし一緒にこんな感じでご飯を食べたのもお酒を飲んでる感じも初めてだったけどそれを分かられないようにしていた それからパソコンで８時だよ全員集合の動画を見た その人は笑って 懐かしいと言って泣いた 私には８時だよ全員集合は全然面白くないけど少し笑ってみた そしたら微妙に面白く思えてきて 私素直みたいな それからその人は変な歌を歌って踊った ８時だよ全員集合見て育つとこうなるんだな 私は少し勝った気持ちがした その人とセックスした 大きな声で 泣き声みたいな 赤ちゃんみたいな声で「あああああああ」と叫んで布団の上に崩れ落ちた うつ伏せになって丸まっている 裸で 私は気づかれないように少しニタっと笑った 男の人は寝てしまった その人は３０代 私はなんにもわからない だけど勝った気持ちがした
『油脂越し』
吉田 それは例えば自分が高校生だった時に、すごい綺麗な人が電車にいても、高校生だっていう自分は勝ってたじゃないですか。その感覚に近いんです。だからもう私は女子高生には勝てなくて、あの勝ちはもうないんですけど。
― それは分かるんですけど、市原さんも吉田さんも、沈黙してる時に何考えてるんだろう、勝たれてるのかな、と思うとちょっと恐怖なんですよね。基本的に2人ともわりとすぐ「まあいいけど」とか「へー」っていう感じを醸し出すじゃないですか。それは他人に関心あるのかないのか。壁を感じるんですけど。
吉田 よく言われる……。
市原 普通に喋ってるんですけど、「へー」って言っとけば大丈夫かなって気持ちはあるんです。想像する、みたいな……？ うーん？？？ どうしようさとちゃん、これ、うまく話せる気がしない。
吉田 でも、たぶんモラルがないわけじゃないですよ、私たち。
市原 困ってるだけです。そんなに冷酷な人間じゃない。
― それはまあ、意外に素直なのかも、って最近思えてきたけど……。
吉田 ほんとですか。じゃあ今まで相当辛かったんですね。といってもそんな交流なかったですけど。
― そうね、交流なかったけどね（笑）。……でも少し一般化して言うと、「つくる」ってことには何かしらの作為があるものだし、そこに作者の手つきみたいなものが、意図せざることも含めて現れてくる。そこを僕は読むし、そこからコミュニケーションの始まる可能性もあると思うんですよ。でも「へー」だとそれで終わっちゃうじゃないですか。それは単に、年齢的に2人があと1、2年もすれば話が通じるようになるって話なのか、それとも単純に性格の不一致なのか、あるいはもっと根本的な世代間の違いがあるのか？ ……これは決してネガティブな差異でもない気がしてて、例えばＱの作品にはかなりスカトロやセクシャルな描写もあるけど、特に露悪的に出されてるようにも見えなくて、もっと自然に表現されてる感じがするのね。でも上の世代だと、ギラギラとした露悪的なものも、ダラダラしたものにしても、もっと故意に作為的に見せつけていく感じがどこかあったんじゃないかと思う。そこに世代的な違いがあるような気もしてて。しかも別に、女性だから生理の話とか出してます、ってことでもないじゃないですか。
市原 ないです。
― じゃあ質問を変えますけど、世の中のいろんなもの、例えばニュースとか、雑誌とかとの距離感ってどう思ってますか？
吉田 え、分かんない。どういう意味？
― つまり、世の中と自分との距離をどう感じてるか？
吉田 どうなんですかね……。ちからさんはどう思ってるんですか？
― え。うーん……。世の中にあるニュース……例えばミサイル飛んだとか地震が起きたとかってことと、自分自身の言葉とが、僕の中では繋がっていると感じてきたし、繋げようという意志もたぶん持ってます。例えば今この場でも、2人が何かしらのことを話すでしょ。それを何らかの形で世の中に接続したいとは思ってるし。
吉田 明らかに地震とかだったら私にも影響が及ぼされるじゃないですか。だからニュースとか出来事にもよると思いますけど、その距離感は考えたことないです。考えなきゃいけないことになれば考えるかもしれないけど。……あ、石川遼を初めてニュースで見た時、石川遼が通ってた杉並の高校だか中学に私の同級生も通っていたから、それで石川遼がニュースになった時は近く感じたかも。あれは自分の身に及んだ感じがした。……でも難しいね。
市原 イヤだ、って思っちゃうね。あんまりニュースとか見ないかもしれない。そう言うと印象悪いかな……。でも、へー、って感じがあって。
― その「へー」はでも、決して相手や周囲を馬鹿にしてるわけではないと思うのね。じゃなかったら今日もお互いに話そうって思わないだろうし。さっきのドリフのシーンにしても、実は男のほうもドリフに興味ない、というところがミソだと思う。
野村 別に８時だよ全員集合とか全然見たことないのに なんか調子に乗っておじさんっぽいことしてみようかなあっと思って うちテレビないんでユーチューブで８時だよ全員集合再生してみたりして
野村 (爆笑)
月子 (薄ら笑い)
野村 (泣く)
月子 ・・・・
野村 なつかしー
野村 全然懐かしくないのになんか懐かしいとか言ってみたり ビールもロング缶４本くらい飲んでて酔っぱらってたんだけど 僕別に普段飲んでも歌ったり踊ったりとかしないのに なんかその日は謎に自分で曲とか勝手につくって踊りながら歌ってた
『油脂越し』
― 年齢的にも、性別的にも、あるいはそれらにさえ関係なく生じちゃってる断絶があるけど、それをかりそめにでもドリフの「8時だョ!全員集合」が埋めている、というか繋げてると思ったら、なんか泣けるじゃないですか。
市原 ……。
― えっと、ちょっと諦めてきましたけど（笑）、まあ今のは『油脂越し』の感想ということで。ちなみに最近の若手作家・演出家で注目されている人たちってかなり小説とか映画とかマンガとかアニメとかを浴びてきてて、公言してるかどうかは別にしてもいわゆる「ルーツ」があると思うんだけど、市原佐都子にはそういうのはないのかしら？
市原 んー、稽古場でみんなで話してて「へーっ」て思ったことを書いてるから。だからあんまり「これ！」というのはないですね。
― ほらまた「へーっ」て言ってるでしょ！（笑）だから「へーっ」て言いながら実は吸収してると思うんだよね。ま、いいけど。次いってみよう。……あ、そういえばＱはよく詩みたいなのが入ってきたりするし、この『油脂越し』にもそれはあったけど、あれは何ですか？
市原 なんか、お楽しみ、です。
吉田 お楽しみコーナー（笑）。
市原 うちの座付き詩人が書いてます。すごい、才能がありすぎるんです（笑）。
吉田 あの詩、誰も触れてくれたことないからよかったです。
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