マンスリー・ブリコメンド(2012年6月後半)

マンスリー・ブリコメンド、6月後半です(コンセプトはこちら)。わたしは「CoRich舞台芸術まつり!2012春」の審査が終わったので平常モードに戻ります。その準グランプリを獲った子供鉅人に、今回はブリコメンドが集中しました。Q


藤原ちから/プルサーマル・フジコ

1977年生まれ。編集者、フリーランサー。BricolaQ主宰。高知市に生まれる。12歳で単身上京し、東京で一人暮らしを始める。立教大学法学部政治学科卒業。以後転々とし、出版社勤務の後、フリーに。雑誌「エクス・ポ」、フリーペーパー「路字」、武蔵野美術大学広報誌「mau leaf」などの編集を担当。プルサーマル・フジコ名義で劇評等も書く。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)。たまにトークイベント「スナックちから」(@清澄白河SNAC)もやってます。「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員。twitter:@pulfujiko

【今回のブリコメンド】
青年団若手自主企画 vol.54 大池企画『いないかもしれない 動ver.』
■ブルーノプロデュース『サモン』
■マームとジプシー『ドコカ遠クノ、ソレヨリ向コウ 或いは、泡ニナル、風景』
■子供鉅人『バーニングスキン』
■ままごと『朝がある』


日夏ユタカ(ひなつ・ゆたか)

東京都出身。日大芸術学部卒。日本で唯一の競馬予想職人を名乗るも、一般的にはフリーライター。80年代小劇場ブームを観客&劇団制作として体感。21世紀になってからふたたび演劇の魅力を再発見した、出戻り組。10月25日に『サラブレッド穴ゴリズム』 (競馬ベスト新書)を刊行。http://amzn.to/qOBCmC twitter:@hinatsugurashi

【今回のブリコメンド】
■子供鉅人『バーニングスキン』


鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。twitter:@suzurejio

【今回のブリコメンド】
康本雅子『絶交わる子、ポンッ』
■子供鉅人『バーニングスキン』


カトリヒデトシ

1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。カトリ企画UR主宰。「演劇サイトPULL」編集メンバー。個人HPは「カトリヒデトシ.comtwitter:@hide_KATORI

【今回のブリコメンド】


徳永京子(とくなが・きょうこ)

1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く足を運び、朝日新聞劇評のほか、「シアターガイド」「花椿」「Choice!」などの雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および企画選考委員。twitter:@k_tokunaga

【今回のブリコメンド】
★ステージ・チョイス!(徳永京子オススメステージ情報)
http://www.next-choice.com/data/?p=7844










青年団若手自主企画 vol.54 大池企画『いないかもしれない 動ver.』

6月16日(土)〜6月24日(日)@アトリエ春風舎(小竹向原http://www.seinendan.org/jpn/info/wakate/2012/06/ooike_kikaku/

うさぎストライプの大池容子による『いないかもしれない』の「動ver.」。ある町に集まった、かつての友人たちの記憶の〈穴〉を、現代口語演劇として描いた「静ver.」(3月末に上演)は、荒削りな部分があったとはいえ、劇作・演出の双方において今後の可能性を大いに感じさせるものがあった(←クリシェっぽい言い回しですみません)。というか、かなりホラーテイストだったので驚いた。
今度の「動ver.」は彼女たちが得意とする「うさぎストライプ仕様」とのことなので、可愛さやポップさが前面に押し出されてくるのかな、とは思うけれども、さてさてどうなりますか。過去のうさぎストライプも、ある意味「記憶の不確かさ」が隠れテーマではあったと思うので、今回登場するであろう「記憶の〈穴〉に落ちてしまったものたち」を、どうやって舞台上にリアライズするのかに注目したい。何かひとつ、「怖いもの」があるといいなと思っています。ホラー、という意味ではなくて。(フジコ)


ブルーノプロデュース『サモン』

6月20日(水)〜6月25日(月)@SUBTERRANEAN(大山、板橋区役所前)http://brunoproduce.net/

「ドキュメンタリー・ポップ・宣言」を標榜するブルーノプロデュースによる、俳優たちの記憶を再構成していくドキュメンタリー・シリーズの第3弾。今回は「病気」の記憶をもとに創作するらしい。病気、と聞くとなんだか景気が悪いねなんて思ってしまったりもするけども、単なる思いつきではなく、主宰の橋本清は前回公演のアフタートークで「次は病気を扱いたいんです」と発言していたので、何かしらそこに執着する気持ちがあるのだろう。考えてみれば、人間は病気から逃れることはできないし、誰でも一度は、自分、もしくはその周辺に、大きな病気のあった記憶を持っているのではないか。もともと橋本清にあったのであろうイノセントな感性、そしてポップな手法に加え、「他者への関心」を抱くことでグングン力を付けつつあるブルーノプロデュース。どんな記憶を掘り起こし、それをどのように演劇にするのでしょう、か? 若い俳優たちや、音楽担当の涌井智仁にも注目!(フジコ)


マームとジプシー『ドコカ遠クノ、ソレヨリ向コウ 或いは、泡ニナル、風景』

6月22日(金)〜24日(日)@桜美林大学PRUNUS HALL(淵野辺http://mum-gypsy.com/next/6.php

マームとジプシーについて語ることは、もはや、それ自体が何か別の世界の出来事なのではないかと最近思えつつある。というのは、つい先日、彼らは飴屋法水たちと共に、清澄白河のギャラリー空間を、異次元に変えてしまったのではなかったか? 
『ドコカ遠クノ〜』は2008年の作品であり、わたしは観ていない。ただ、再演というよりも、それはある意味では全く別の作品に生まれ変わってしまうのだろうと思う。あるいは、その間隔の中にある、時間的な厚みとか。いやしかし、厚み、という言葉は彼らにふさわしいのだろうか? そのあいだにあったはずの、速度を計測しないことには……。あるいは、距離、方角。東京、横浜、伊達、いわき、京都……。そして数年間を過ごした桜美林大学に再び還るのである。でもそこはもう帰れる場所ではない。彼らがどこから来てどこに向かうのかということに今、興味がある。同じ時代に生き合わせてしまった者として。(フジコ)



康本雅子『絶交わる子、ポンッ』

6月28日(木)〜7月1日(日)@シアタートラム(三軒茶屋http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/06/post_284.html

わたし実は秋葉原には近づかないようにしてまして、なにせ風体が風体ですので、あまりに溶け込んでしまうことを恐れているのです。ゲームやアニメとはほとんど縁がなく、アキバ系なものの良さがよく判らない「一般人」なので居心地がかなりよくないのです。「多様性への寛容」と「自意識」とのせめぎ合いです。
この作品をお薦めしようかと思ったときに、アキバに足を踏み入れるくらいの気分になりました。康本さんは端正な「美しい」ダンサーで、「追っかけ」もたくさんいます。でも、わたしのストライクではない、断じて違う! いや、「美しい」ものを追っかけることは否定しません、良いことなんでしょう、でも、わたしは違うんだ!! いやいや、なんと言おうが必ずや誤解されるんでしょうが、遠田誠さんがダンサーとして出るんです。主宰するまことクラヴではなかなかガチ踊りが拝めませんが、あぁ観たいんですでもきっと、会場の人たちは康本さん目当てだと誤解するんでしょうね。勘ぐればいいさ、ゲスどもめ! いやむしろ、わた しは菊澤将憲さんの追っかけなんです。彼が主宰をしていた空間再生事業 劇団GIGAは福岡を中心に活動する記憶しておくべき劇団でして、黒田育世さんが本格的にテキストを用いはじめた『矢印と鎖』では、演劇に通じている彼がいることが大きな助けとなったはずですし、それに続くBATIK『花は流れて時は固まる』でも重要な役を果たしていました。野田地図の常連となりつつある菊澤さんが観たいのですよ、ほんとなんですよ。どうか後生ですから、おじさんたちにも普通に観させてください、どうか。(励滋)



子供鉅人『バーニングスキン』

6月29日(金)〜7月2日(月)@VACANT(明治神宮前、原宿)http://www.kodomokyojin.com/

とても迂闊な言い方をすれば、大阪の演劇はどこかガラパゴス化しているようにも思えるのだけれど(東京に漂着したものを観るかぎり)、おそらく子供鉅人は突然変異で生まれてきた鳥。
そんな異形・異端な鳥は、海を越えられる翼で、べつに演劇の生態系じゃなくてもいい、たとえば映画でも音楽でもダンスでも生きられそうな生命力を漲らせながら、それでもなお新たな演劇の地平を目指して飛んでいるのではないか。どこかに、80年代の小劇場ブームと呼ばれた頃、演劇が“トップカルチャー”だった匂いすら纏いながら。
ここにも、まだ見たことのない、震るえるような未来がありそうだ。(ひなつ)

昨今の凶悪事件に対して、棚の上から犯人たちを「異常者」と罵り断罪する雰囲気には、なんともいたたまれない。自らの正常さや潔白を証明して安心を得たいという動機が透けて見える心持になるからだ。鋭敏な表現者たちはそれに抗って作品を世に送ってきた。森達也が『A』を、青山真治が『EUREKA』を、是枝裕和が『誰も知らない』を、というように。
そして本作も「凶悪犯罪」に満ち溢れている。なのに全編を覆うのはサーカスのような奇天烈さと滑稽さ。(なにせ彼らは「プレイ小屋」っていう“興行”もやっちゃう人々だ)けれども、上方お笑いテイストまぶして露悪やってるんだな、なんて高を括ってると度肝を抜かれることとなるだろう。
わたしの中ではこの作品は、上述の映画作品にも引けをとらないどころか、もっとわれわれの深層を揺さぶりうるとすら思っている。原宿での初演からシーンを増やした大阪公演を経て、ブリュッセルでも拍手喝采を浴びて、We dance 京都2012のプログラムディレクターも見事に勤め上げたきたまり(ダンスカンパニーKIKIKIKIKIKI)と、なんと益山家の隠し球・四男有司も参戦しての賑やかな凱旋公演。さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい〜(励滋)

昨年の夏、突如関西に行くという鈴木励滋に便乗して、青春18切符でゆらゆらと西に進み、大阪・芸術創造館にたどりついた。子供鉅人の『バーニングスキン』という作品を観るというのである。すでに原宿VACANTでも上演された作品で、噂になっていたのを、見逃していたからだ。励滋氏がわざわざ関西に観に行くほどにプッシュするのはめずらしいので、物見遊山気分もあり、半信半疑で観に行ったのだが、もう本当に大正解だった。複数のレイヤーが縦横に交錯していく中を、キャラクターたちがメタモルフォーゼしていく、そのイメージの連鎖ぶり、しかも、ある種の野蛮さを持っている。「そうだ、こういう演劇が観たかったのだ!」と思ったのだった。
今年、わたしも審査に参加した「CoRich舞台芸術まつり!2012春」に彼らの『キッチンドライブ』がノミネートされ、準グランプリの座を射止めたことは、驚きの声をもって迎えられたと思うけれども、子供鉅人をすでに知る人たちは、当然そうだ、それくらいの実力はあるのだ!、と思ったはずである。いや、むしろ、グランプリじゃないなんておかしい!、と怒り出す人がいないかとひやひやしているくらい……(事実、彼らはグランプリにかぎりなく、本当にかぎりなく肉薄した。今頃、主宰の益山兄は押し入れの中でリベンジ計画を練っているのではないかと想像します……)。
さて今回は『バーニングスキン』が再び東京に上陸。とにかくこの作品を見逃すのはもったいないので、ぜひ時間とお金に都合をつけてVACANTまで駆けつけてくださいますよう。(フジコ)



ままごと『朝がある』

6月29日(金)〜7月8日(日)@三鷹市芸術文化センター星のホール(三鷹http://www.mamagoto.org/

数ヶ月前に上演され、(優れた作品が常にそうであるように)賛否両論あった柴幸男の『テトラポット』だけれども、わたしは北九州の海の近くで彼がのびのびと創作に没頭したのだというその記憶のようなものが感じられて、とても好きな作品だなと思った。そこで主演していた大石将弘が一人芝居に挑戦するのが、この太宰治の「女生徒」をモチーフにした『朝がある』。柴幸男の作品に出会って会社に辞表を提出したという、実は熱い想いを秘めた人です。
まるで余談のような話だが、わたしは、ある芸術が発展・更新されて優れた作家が生み出されるためには、やはり一定期間、ある密度を持った環境の中で錬磨されることが必要だと思う。けれどもやっぱりそれは気詰まりな空間でもあって、作家が持ちうる想像力を羽ばたかせるためには、そうした空間は時としてむしろ足枷になるのかもしれない。つまりわたしは東京の小劇場演劇について語っているのだが、それはすでに新しいフェーズを迎えつつあるように思える。未来はどんなふうになっているだろうか? この作品が、そこに向けた長い道のりのひとつでありますように。
新しく発行された「ままごとの新聞」は、とっても素敵な壁新聞テイスト! こまばアゴラ劇場で配布されているほか、ウェブサイトからダウンロードもできます。(フジコ)
http://www.mamagoto.org/paper.html