2.『石のような水』(松田正隆×松本雄吉)

――ここにいるみんなが共通して観ているのは『石のような水』ですね。わたしたちの年齢で松田さんの新作戯曲を見る機会はこれまでなかったと思いますが(一同「そうですね」「初めてでした」)いかがでしたか?

宮坂 美術が美しかったのと、「なんか凄いんだろうな」という印象がありました。それぞれのシーンの繋がりは理解できても、全部がくっついてこなかったですね。

中村 私もストーリーは頭の中でひとつにまとまらないんですけど、身体の使い方が統合されていると感じました。ゆっくり動くのも綺麗にまとまりがあって……大好きでした。

福井 物語の、ばらばらなものが繋がる構成を面白く感じながら観ていました。パソコンのデータのように無機質でシンプルなものが、統合されて複雑になっている構造が気になりましたね。

――話に入り込むというより、ちょっと距離がある感じですか?

福井 そうですね。その距離感が心地良かったです。

――台詞の読み方がふつうの喋り方と違うからかな。

宮坂 棒読みでしたよね。「洗濯バサミ、洗濯バサミ……」

福井 「すいませんコーヒー頼んでいいですか、すいません紅茶ください!」(一同笑)

杉本 笑いがない舞台かなと思ったら、結構笑い多かったですよね。

福井 あと、舞台美術が好みでした。

森 映画のようにぶつぶつ切れたシーン同士の関係が、装置の位置関係で現されているような印象があった。

福井 あの広さで、舞台全体を使う場面が一回もなかったですよね。カーテンコールで照明が全部ついた瞬間はっとしました。

杉本 「それでも私は私から逃れられない」、主人公はゾーンの案内人であることはやめられない、つまり自分自身のドラマ・物語から逃げられないというセリフがありましたよね。私は『石のような水』を見て、松本さんのように抽象的な……たとえばセリフの読み方や人の動き方が具体的な意味連関に繋がらないような最小単位の表現に向かう演出家でも、ドラマ的な要素は持ってしまうんだという感想をもちました。もし松田さんが演出もしていたら、ドラマと抽象表現のせめぎ合いは感じなかったかもしれません。

――さっき中村さんも言及していた俳優の身体については、やっぱり松本さんの演出ならではなんでしょうか。絵画を思わせるくらいきれいな場面がいくつもあったよね。

杉本 でも動きで戯曲を制御していなかったし、戯曲も演出家に従属していませんでした。

――お互いに従い合う感じはなかったですね。その拮抗が何かを生みだしていた気がします。

杉本 ゾーンの水を飲むシーンで、劇の持つ力を見たように感じました。映画では不可能な、劇にしかできない表現のような気がして面白かったですね。

中村 もう一回観たいと思いました。(一同、頷き)



1.全体について(学生パス・運営など)
2.『石のような水』(松田正隆×松本雄吉)
3.『光のない。(プロローグ?)』(宮沢章夫)(NEXT)
4.『光のない。(プロローグ?)』(小沢剛)
5.『100%トーキョー』
6.『ガネーシャvs第三帝国』
7.字幕問題
8.「これから」について