3.『光のない。(プロローグ?)』(宮沢章夫)

杉本 ハンガーにかかった服が泣けるんですよ。あれどう思われました?

中村 もう死んでるんだなと思いました。でも4着しかないから、あと1人はなんなんだろう、どこにいるのかな、と。

宮坂 まだよくわからないです。

中村 私もそうだけど、あの服で全体が掴めた。作品の意味はわからなくても、結論の糸口が見えたような感じです。

――舞台の構造が能舞台と同じですよね。橋懸りが下手側に延びていて、横と正面に客席がある。

宮坂 能の構造なのはわかったんですけど……。

杉本 能の席は3種に分かれていて、正面と脇と脇正面が別々に売られてるんです。脇正面席は目の前に柱があるから、舞台がはっきり見えない。でも、それも全部含めて能舞台なんです。

清水 『光のない。』は、脇の席で見た。

宮坂 私も脇の方でした。

森 私は正面。

杉本 脇と正面です、2回観たので。

清水 正面からもう一回見直したいと思った。もっと真横や、ななめもいいかも。

杉本 脇と正面では感覚が全然違いましたね。脇からは、安藤朋子さんがフッと突然現れるように見えたり、削れた舞台の土で汚れている足が見えたり…。身体の生々しさと、その身体をもつ俳優が死者のような口ぶりをしていることのギャップを強く感じました。正面は、声がよく聴こえますね。

――声ですか。

杉本 正面で見たときは、俳優が後ろや前に行ったりしても、全員の声が他の声を邪魔することなく聴こえてきました。能の声が階層的で、演者の声と笛や唄いの音、全部がはっきりと且ついっぺんに聴こえるのと似ていましたね。『光のない。』では安藤朋子さんが「ついにー!」と叫ぶところで、階層からパッと飛び出てきた声に感動して泣きました(笑)。正面席では舞台全体の動きが見えて、自分が見る立場に限定されていたのもよかったです。

――宮坂さんは、どの演目が印象に残りましたか?

宮坂 一番腑に落ちたのは宮沢さんの『光のない。』、F/T観たな感は『ガネーシャvs.第三帝国』(バック・トゥ・バック・シアター)で、「ん?」と思ったのが『100%トーキョー』(リミニ・プロトコル)でした。

杉本 あ、わからなくもない(笑)。

宮坂 小沢剛さんの『光のない。』でテキストを読んだときの感覚と、宮沢さんの『光のない。』で女優さんの声が重なるのとでは、頭が文字で洪水のようになる感覚が似てるなと思いました。ただわからないだけじゃなくて、イェリネクのテキストを読んだ時の頭の反応に近いものがあったので、確かに『光のない。』の舞台だなと腑に落ちた感じです。

森 間違えまくる人と吃る人の2人が異物で、間違えまくる人が一人だけ生きてるのかなと思いながら観てました。死んだ人たちはとにかく伝えたいけど生きている人が伝えられない、「表象の欺瞞」なのかなと。吃る人の「私はペンも紙もなかったので、頭で記憶して伝えるしかなかった」が印象的でした。何もない状況でも伝えなきゃという、死者のとてつもないエネルギーが感じられた。あのセリフはイェリネクの原作テキストにあるのかと思ったら、違うんですね。

清水 え! 違うんだ! あんなに何回も言うのに……(笑)。

森 あまりにも強烈に残っちゃう台詞を足すことが「演出」なのか「脚色」なのか、わからなくなってしまいました。

宮坂 ちゃんと読もう、イェリネク。

杉本 口に出すといいですよ。

森 口に出さないとパンクしそう。

――イェリネクは去年から何回も取り上げられているよね。F/T12では公募含めて4演目、今年はオープニング(いとうせいこう×宮沢章夫)、小沢さん、宮沢さんとオブジェ『KEINE STIMME.――声のない。』(椿昇)ですね。

福井 オブジェって芸術劇場にあった、金色の羊ですか?

清水 あれ、どうなってるの?(笑)

――たしか風船で、欠けてる方の足から下の音声を集めて別の音にしてるんだよね。それもイェリネク、なのかな?

宮坂 難しいなあ……。



1.全体について(学生パス・運営など)
2.『石のような水』(松田正隆×松本雄吉)
3.『光のない。(プロローグ?)』(宮沢章夫)
4.『光のない。(プロローグ?)』(小沢剛)(NEXT)
5.『100%トーキョー』
6.『ガネーシャvs第三帝国』
7.字幕問題
8.「これから」について