マンスリー・ブリコメンド(2015年5月)

5月のマンスリー・ブリコメンドです。

こんにちは。マンスリー・ブリコメンドのコンセプトをこちらに書きました。今の時代に、演劇をおすすめすることについての、私の所信表明です。ぜひご一読を。(落)



今月のブリコメンド&メンバー紹介

落 雅季子(おち・まきこ)

1983年生まれ。BricolaQドラマトゥルク。劇評を書きながら各地で『演劇クエスト』製作に携わる。「こりっち舞台芸術まつり!2014春」審査員など。 twitter:@maki_co

鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。 twitter:@suzurejio
■5月の鈴木励滋&茶河鯛一出没警報・注意報


茶河鯛一(ちゃが・たいち)

東京都杉並区生まれ、八王子市在住。小劇場を観たり、近年はよくわからないながらコンテンポラリーダンスも観たりしています。名前についてはスルー推奨。(主に)観劇予定ブログ→ http://hachiojitheater.seesaa.net/ twitter:@chaghatai_khan
■5月の鈴木励滋&茶河鯛一出没警報・注意報






5月の鈴木励滋茶河鯛一出没警報・注意報

※警報は★、注意報は☆、それ以外は▼になっています。






4月29日(水)〜5月10日(日)
ぬいぐるみハンタープロデュース
「すべての犬は天国へ行く」
http://www.nuigurumihunter.com/
王子小劇場(王子)




5月1日(金)〜5日(火)
ナカゴー特別劇場「堀船の友人/牛泥棒
http://nakagoo.com/
ムーブ町屋 ハイビジョンルーム(京成町屋・都電町屋)
牛泥棒」初演で替えがきかないキーパーソンを演じた清水葉月が今回は不在。どう変えてくるのか。(茶河)




5月1日(金)〜6日(水)
「現代演劇ポスター展」
http://www.hikarie.jp/event/detail.php?id=2099
ヒカリエホール ホールA(渋谷)




5月1日(金)〜24日(日)
「幕が上がる」
http://www.parco-play.com/web/play/makugaagaru/
Zeppブルーシアター(六本木)




5月2日(土)〜6日(水)
ふじのくに⇄せかい演劇祭2015
「例えば朝9時には誰がルーム51の角を曲がってくるか知っていたとする」
http://spac.or.jp/the-corner-of-room51.html
東静岡 池田地区周辺
“様々な土地で滞在型製作を重ね、サイトスペシフィックな創作活動を続けてきた演劇ユニット「鳥公園」の西尾佳織と、建築・設計やイベント等を手がける静岡のユニークな会社「大と小とレフ」がタッグを組んで、かつてない、街そのものを舞台にした演劇作品に挑戦する。”楽しみしかない。(茶河)




5月3日(日)〜6日(水)
劇団コープス
「ひつじ」
http://www.geigeki.jp/performance/theater092/
東京芸術劇場 ロワー広場(池袋)
子供がたくさん集まれば集まるほど一緒に観る大人も幸せになる作品。(茶河)




5月3日(日)〜6日(水)
渡辺源四郎商店
「海峡の7姉妹〜青函連絡船物語〜」
http://www.nabegen.com/
ザ・スズナリ(下北沢)




5月3日(日)〜12日(火)
うさぎストライプ
「いないかもしれない」2部作
http://usagistripe.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




5月7日(木)〜10日(日)
青年団大阪大学ロボット演劇プロジェクト
アンドロイド版「変身」
http://www.seinendan.org/play/2015/03/4316
早稲田小劇場どらま館(早稲田)




5月7日(木)〜11日(月)
ドキュントメント
「となり街の知らない踊り子」
http://docuntment.com/
STスポット(横浜)
“演劇界の異才 山本卓卓(範宙遊泳)とダンス界の異彩 北尾亘(Baobab)が演劇÷ダンスでポップかつ偏執的に描く旅”
(茶河)




5月8日(金)〜10日(日)
ドドド・モリ
「しらふ獣」
http://dododomori.blog24.fc2.com/
シャトー2F(武蔵小金井




5月9日(土)〜17日(日)
月刊「根本宗子」
「もっと超越した所へ」
http://ameblo.jp/buroguha-nikkande/
ザ・スズナリ(下北沢)




5月10日(日)〜31日(日)
イキウメ
「聖地X」
http://www.ikiume.jp/
シアタートラム(三軒茶屋
2010年初演の『プランクトンの踊り場』を大幅ブラッシュアップとか。(茶河)




5月10日(日)
相模大野タウンアンサンブル
http://hall-net.or.jp/01greenhall/townensemble/
相模大野駅前〜相模女子大学グリーンホール(相模大野)
森下真樹や遠田誠が相模大野駅前で何ぞやるらしい。(茶河)




5月11日(月)〜24日(日)
夜想曲集
http://www.gingeki.jp/performance/index.php?date=201505#294
天王洲 銀河劇場(天王洲アイル




5月12日(火)〜17日(日)
ENBUゼミナール CINESTAGE vol.1
「アジェについて」
https://enbuzemi.co.jp/
新宿ゴールデン街劇場(新宿三丁目/新宿)
映画監督の今泉力哉が初めて演劇をつくる。
前田司郎との対談で演劇制作について語っている。(励滋)
http://subpokke.net/archives/4094




5月14日(木)〜17日(日)
「食用人間 1号2号4号」
http://shockyou124.com/
駅前劇場(下北沢)
本多力、川上友里、田村健太郎による三人芝居。3号はどうした。(茶河)




5月15日(金)〜17日(日)
BATIK
「レパートリーズ vol.1」
https://www.facebook.com/events/919892788032415/
森下スタジオ(森下)
「SIDE B」「6 Marimbas Counterpoint」「アウラ」の三演目。黒田は踊らない模様。(励滋)




5月15日(金)〜18日(月)
かえるP
「COLOR BABAR」
http://kaeruppp.weebly.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




5月16日(日)〜6月14日(日)
ままごと
「わが星」
http://www.mamagoto.org/
三鷹市芸術文化センター 星のホール(三鷹
ゼロ年代演劇、最後のマスターピースにしてクラシック”のコピーに偽りないはず。(茶河)



5月17日(日)
東京ドイツ文化センター 朗読とディスカッション
「フィリップ・レーレ戯曲『もの(Das Ding)』綿の一生の物語」
http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=20504844
東京ドイツ文化センター図書館 2階(青山一丁目
“日本語訳の一部を俳優がリーディング形式で紹介”らしいのだが、その俳優というのが武谷公雄、酒井和哉、稲継美保の三人! 全篇やっていただきたい。(励滋)




5月20日(水)〜24日(日)
くちびるの会
「盗賊と花嫁」
http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=20504844
http://kuchibirunokai.jp/
SPACE 雑遊(新宿三丁目/新宿)
坂口安吾の「桜の森の満開の下」をもとにしているとのこと。(励滋)




5月21日(木)〜27日(水)
KAKUTA
「ひとよ」
http://www.kakuta.tv/
ザ・スズナリ(下北沢)
2011年初演はKAKUTAの近作では一番の傑作だと思う。
(茶河)




5月21日(木)〜30日(土)
elePHANTMoon
「爛れ、至る。」
http://www.elephant-moon.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




5月21日(木)〜30日(土)
岩井秀人×快快
「再生」
http://www.kaat.jp/d/saisei
KAAT(日本大通り
上半期最大の話題作。実は現代口語演劇という多田脚本、代表作『て』で別視点から同じ流れを鮮やかに繰り返してみせた岩井演出、脱退以来久々に集まるex.快快の役者たち。(茶河)



5月21日(木)〜31日(日)
20歳の国
「花園Z」
http://20nokuni.wix.com/hanazonoz
すみだパークスタジオ倉(錦糸町
この時期に2バージョン上演って…。悩ましさが増す。(茶河)




5月22日(金)〜24日(日)
日本女子体育大学ダンス・プロデュース研究部
「ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん'15−熱き想い−」
http://asahiartsquare.org/ja/schedule/post/1319/
アサヒ アートスクエア(浅草)
伊藤キム、平原慎太郎、村本すみれが振付する3作品を上演。(茶河)




5月22日(金)〜31日(日)
ブス会*
「女のみち2012 再演」
http://busukai.com/
東京芸術劇場 シアターイースト(池袋)




5月22日(金)〜6月2日(火)
クロムモリブデン
「七人のふたり」
http://crome.jp/
赤坂RED/THEATER(赤坂見附




5月23日(土)〜24日(日)
GRINDER-MAN
「MORE MORE」
http://grinder-man.com/info/20150427/more-more
二子玉川ライズ(二子玉川
二子玉川ライズの空間に広く展開するツアー型パフォーマンス作品”とか。(茶河)




5月28日(木)〜29日(金)
ダンス・リンク・リング vol.10
http://as-factory.jp/cn27/pg271.html
せんがわ劇場(仙川)
木原浩太・鈴木ユキオ・山中冴晶による新作。(茶河)




5月29日(金)〜30日(土)
リクウズルーム
「Artistic Realization〜飛び発つ貴方にさよならが言えなくて〜」
http://reqoo-zoo-room.jp/
ラ・グロット(駒込




5月29日(金)〜31日(日)
なかないで、毒きのこちゃん
「夢みるあの子はまだおうちでロンリーガール。」
http://dokukinoko.weebly.com/
https://twitter.com/sasameeee/status/594154539747414016
https://twitter.com/sasameeee/status/594157368159514625
FIZZ(高円寺)
気になっていたけれど観られていない劇団が高円寺の古着屋(?!)で公演をするというので興味が湧いたが、ホームページには何も情報が載っていない。ので、せめて古着屋の情報を。(励滋)
http://fizz.ocnk.net/page/5




5月29日(金)〜6月2日(火)
MCR
「死んだらさすがに愛しく思え」
http://www.mc-r.com/
ザ・スズナリ(下北沢)



5月29日(金)〜6月3日(水)
日本のラジオ
「カナリヤ」
http://nihonnorazio.blog.shinobi.jp/
新宿眼科画廊 スペース地下(新宿三丁目




5月29日(金)〜6月7日(日)
城山羊の会
「仲直りするために果物を」
http://shiroyaginokai.com/
東京芸術劇場 シアターウエスト(池袋)




5月29日(金)〜6月29日(月)
日本総合悲劇協会
「不倫探偵〜最期の過ち〜」
http://otonakeikaku.jp/furin2015/
本多劇場(下北沢)

セルフ・ナラタージュ #02 大道寺梨乃(快快)

2015年2月、TPAMショーケースにて上演された大道寺梨乃のソロ公演『ソーシャルストリップ』English バージョンでのアフタートークでのことだった。客席からの「これはあなたの個人的な物語だったけれど、これからもこういうストーリーを描いていくのか?」という質問に対して、彼女はこう答えた。「この作品はわたしにとってひとつの区切りで、考えることや描くことはこれから変わっていくと思う。今年イタリアに引っ越して、結婚もするし。」と。それを聴いた時に私は、次は彼女に話を訊こうという思いを固めた。変わりゆく最中にある彼女の、これまでの道のりを刻みたいと思った。そして終演後の興奮さめやらぬまま、大道寺梨乃にインタビューのオファーをしたのだった。

(聞き手・撮影:落 雅季子 写真提供:大道寺梨乃 舞台写真:小林由美子



『ソーシャルストリップ』舞台写真より



▼イタリアへのお嫁入り

― 明日からイタリアですね。

梨乃 でもまだパッキングしてないの。後でシノダ(演出家の篠田千明。かつて快快で一緒に活動していたメンバー)が「近所まで行くから会いたい〜」って言ってて。あたしも会いたかったからいいんだけど、でもパッキングしなきゃと思ってる(笑)。

― イタリアには、結婚式の準備をしに行くんでしょう?

梨乃 まずはエウジー(梨乃のフィアンセ)が仕事でいるベルリンに行って、そのあとイタリアのチェゼーナっていう町に一緒に帰って、いろいろ準備するの。それから日本の戸籍謄本をミラノの大使館に持っていって、証明書をもらってチェゼーナの役所に出す。イタリアって、結婚するのに2週間くらいかかるらしいの。何かね「この二人が結婚するけど異議はありませんか?」って貼り出すんだって。で、異議がないと結婚できる。でも、役所の窓とかに適当に貼られるみたい。「ネズミ駆除します」みたいなのと一緒に(笑)。結婚式は7月なんだけど、快快からは誰が来るのかな……こーじ(山崎皓司)が来てくれる気がする。あと絹ちゃん(野上絹代)が行けるって言ってて、そうなるとみちゅ(野上の娘)も来て、シノダも「結婚式は行けないけど、式の前に会いに行くつもり!!」って。

― エウジーさんはどんな人?

梨乃 エウジーは、イタリアのソチエタス・ラファエロ・サンツィオ劇場っていう劇場で働いてるの。自分で4人組のDewey dellっていうダンスグループを組んでて、そのツアーでヨーロッパを回ったりもしてる。

― 相手が日本人じゃなかったっていうのも、梨乃ちゃんには自然なことなのかな?

梨乃 すごいちっちゃい頃から、外国にいつか住む事になるだろうなって思ってた。お父さんが映画が好きで、よく観てたの。それを横で眺めてることが多くて……3、4歳の時。外国映画を観て、自分が今住んでる世界の「外」があるって意識出来たら、気持ちが楽になった。とにかく心配性だったから……(笑)。どうやら地球は大きいらしいって小さいながらに知って、みんな違うごはんを食べて違う言葉を使うけど、身体が汚れるとお湯に入るのは一緒らしい、って気付いて。お風呂入ってるシーン見て「へえ!︎」って(笑)。おもしろいな、行ってみたいなって。知らない文化の中に浸ると自分がどうなるかに興味があった。結婚はいつかするって思ってたけど、30代後半だろうなって。思ったより早かったなー。


2014年、イタリアにて


▼小さい時の自分を満足させてあげたかった

― 今日は、梨乃ちゃんが子供のころから結婚するまでのことを話してもらいながらこれから先どんなふうになるのかなっていうのを訊いてみたいと思ってるのです。

梨乃 あのね、今日話そうと思って、ちっちゃい時のことを思い出してたんだけど……いちばん最初の記憶は、2歳ぐらいの時にベビーカーに乗ってた時のことなの。雨の日は前にビニールを掛けるでしょ。そうすると雨のてんてんがビニールの上にドットみたいにくっついて、それを見て「はあ♥︎これがいいんだよな♥︎」って思ってた。子供って可愛いことあんまり思ってなくて内面がヤバい(笑)。あとはね、小学校入ってから、死ぬこととか戦争とか地震とか、とにかく全部すごい怖かったから、毎晩ダウジングをしてから寝てた……。5円玉に糸をつけて垂らして質問をすると、右回りでイエス、左回りでノーって答えてくれるっていうのを本で読んで。

― えっ、こっくりさんみたいな?

梨乃 毎晩「明日死ぬか?」「戦争が近いうち起こるか」って訊いて、「起こらない」ってなって安心してた。ちょうど湾岸戦争があった頃だったから、最終的に誰に頼ればいいんだろうってずっと考えてたの。「あめりかのだいとうりょう?」って思って、いつも「なんかちがう……わからない!」ってなってた(笑)。でもね、最近それにやっと答えが出たの。それは「誰にも頼れない」。誰がいちばん正しいこと知ってるのかなあって思ってたけど、誰も知らないってことがわかった。これまで、小さい時の自分を満足させるために作品をつくってたとこがあって、『ソーシャルストリップ』はそのいちばんのまとめだったんだよね。だから、これからはそうじゃなくてもいいかな。「頼れる人は誰もいない」「誰もほんとのこと知らない」って、答えが出たから。

― 満足させてあげたかった「小さい時の自分」について教えてほしいな。小学校の時は、どんなことを考えて過ごしてたの?

梨乃 小学校の頃は、いちばんキツかった……。なんか大変だったの。何だったんだろう、あれ……先生とあんまり折り合いよくなかったからかなあ。自分の好きに生きられないっていうフラストレーションがすごかった。集中力が高すぎてちょっとおかしいとこがあったし。家帰ってきて座り込んで、2時間くらいそのままとか。お母さんが「何してるの?!」とか様子見に来るの、よくあった。お話とか考えるのも好きで、一生懸命考えては泣いたり。小説家になりたかったんだけど漢字が苦手だから小説家無理かもって思って、うーん……ってなってた。あ、でもおもしろい事もたくさんあったよ。ヤバイ友達がいてねえ、3、4年生のころがいちばん楽しかった。その時つるんでたのが、「おじん」っていうあだ名の子。おじんはすごい笑いの才能があって、「ちょっと皺目(目に皺を寄せる遊び?)やって〜」ってみんなで言って、それで20分笑い続けたり、まるこちゃんって友だちもいて、おじんと3人で給食室から帰る時に歩いてアチョーって足を上げる遊びをして笑い崩れてたり。あの頃ほんとギャグセンス高かった。自分の好きに出来ないっていうフラストレーションは、中学入ったらなくなったんだけどね。いろんなタイプの友達ができて、ギャルっぽい友達もいたし、オタクっぽい友達もいたし、普通の子とも仲良かったから、すごいのびのびしてた。中学生ん時がいちばん好きにしてたかも。映画ひとりで観に行ったり、自分で服つくって着たり、髪型をものすごいおかっぱにしたりとか。カメラにもはまって写真すごい撮ってた。ルーズソックスはダメだったけど私はニーハイ履いてて、そんな子はひとりしかいないから先生も違反かどうかわかんなくて取り締まらなかったりして(笑)。男の子にもまったく興味なくて、それより自分の世界を突き詰めたかった。中学生の時は、頭ひらきっぱなしで過ぎてったな。90年代を楽しんでた気がする。10代の子って流行ってるもののド真ん中は買えないけど、それに似てるものとか、端っこを味わうみたいなとこあるでしょ。それでも自分たちが流行に参加してる感はあって。……うん、今でも好き、あの感じ。

― 初めて彼氏ができたのは高校生の時?

梨乃 うん、17歳。だんだん学校の外で遊ぶようになって、男の子とも会うようになって。中学の時に比べて普通に女子高生っぽくなった。

― それが『ソーシャルストリップ』にも出て来た「初めての彼氏」なんだね。「好きになる男の子はいつも亀に似ている。」っていう台詞、すごく好きだった。

梨乃 あの子、亀に似てたかなあ……? 似てたかもなー。でもいちばん亀に顔が似てたのは、18歳の時に好きだった子かな。今日の朝もその子のことを思い出してた。役所に戸籍謄本取りに行って「いよいよ結婚するってカンジ♥︎」って思って、でも今まで好きだった子もみんな好きだったのにいいのかなあ……とか(笑)。予備校で一緒だった子なんだけど、結構長く好きだった。本当に好きだったから結婚しようと思ってたけど出来なかったなー。まあ、出来ないもんはしょうがない……よね。

― 「小さい時の自分を満足させるために作品をつくってた」ってさっき言ってたけど、その「小さい時の自分」は、10代の頃からずっと胸の中にいたのかなあ?

梨乃 いつになったら子供の時の感覚を忘れるんだろうってちっちゃい時から考えてて、きっとすぐに忘れちゃうから注意しよう、って思ってた。それでもやっぱり忘れていってるなーって思うけど……。あんまり簡単に子供欲しいって前は思わなかったんだよね。子供は可愛いんだけど、内面では結構ヤバいこと考えてるって思うから……自分がそうだったし。最近は子供可愛いなって思っちゃうけど、自分の中にはちっちゃい時の自分がずっといるなって思う。



▼夢を叶えた20代

彼女いわく「内面では結構ヤバいこと考えてる」子供時代を経て、大道寺梨乃は多摩美術大学に進学することになった。彼女が今も所属する快快(ファイファイ)は、大学の同期メンバーによって結成されたパフォーマンスグループで、リーダーの北川陽子、演出の篠田千明らを含めた集団創作のスタイルを取っていた。明るく華やかなメンバーたちの雰囲気を映し出したような彼らの初期作品は、小劇場シーンの中でもかなり、特徴的なものだったと言える。



― 多摩美術大学に入って、小指値(こゆびち。快快の前身となるグループ)を結成したんだよね。

梨乃 結成は卒制の時だけど、あのメンツでいろいろやりはじめたのは1年生の時。1年の最後にグループを組んで演劇をやることになって。シノダもいたし、絹ちゃんもいた。……やし(中林舞)はいなかったか。こーじもいなかった。天野(史朗)もいなかった。あれ? 意外といなかった(笑)。

― 小指値から快快として活動していく中で、海外に行く梨乃ちゃんの夢が叶っていったと思うんだけど、子供の頃に観た映画の向こう側の世界に、初めて行けたなって思ったのはいつ?

梨乃 初めて自分で行きたくて行った海外は香港で、大学出てすぐの頃に、かなちんっていう友達に誘ってもらったの。ずっとウォン・カーウァイ好きだったし、見るもの全部可愛くていろんなもの買いまくって食いまくって楽しみまくって、帰って胃腸炎で倒れるみたいな旅行をその2、3年で5、6回したかな? 楽しすぎてハマっちゃって。もうかなちんと行ける時あれば行ってた。行って「何これかわいー!」とか言って、買って持って帰ってこれるんだ、みたいな、好きなものにタッチできる感覚が初めて出来たのはその時。それがおもしろくて。ヨーロッパは、その時はあんまり心になかったかな。ユーロ高かったし。香港行きまくった後に、快快でTPAM(国際的な舞台芸術ミーティング)に出ることになって、大学出てすぐやった『My Name Is I LOVE YOU』を英語版にして再演したの。それがベルリンのHAUっていう劇場と、当時のTheater Der Welt(ドイツで行われる舞台芸術フェスティバル)のディレクターだったフリー・レイセンさんに買ってもらえることになって。そこが決まったら他のところからも声がかかって、オランダとスロベニアも行くことになって、快快メンバーのオルガがハンガリー出身だから、ハンガリーも。イタリアもエストニアにも行った。結局『My Name〜』で三年ツアーしたな。

― そこから快快が、海外に出て行くことになったのね。

梨乃 『My Name〜』の初演が2005年で、それが自分としても今までで一番いい演技だったって未だに思うくらい本当に良かったの。あれを超えられるか? って思うとどうしていいかわかんなくて、シノダやみんなと揉めたりして再演は大変だった。それまでシノダのオーダーはだいたい応えられたし、そんなに言葉にしなくても何をしてほしいかわかったの。でも初めて、シノダに何を言われても、わからないし出来ないみたいな感じになっちゃって……快快って、何か問題あるとみんなでそれを話し合うから、あたしも泣きすぎて言葉が出なくなっちゃったりして、すごい大変だった。でもそれがきっかけで、自分でも企画公演をやるようになったの。海外公演の企画も担当するようにもなって、外国のディレクターとやり取りしたり、大変だったけどよかったなっていう公演だった。それが2009年。そこからはツアーで快快が忙しくて、2012年くらいまではかなりいろいろやった。『SHIBAHAMA』とか『Y時のはなし』で日本もヨーロッパも、シンガポールにも行ったし。

― その間に東日本大震災もあったよね。

梨乃 あった! あの時はねえ、快快のみんなと一緒にいわき総合高校の子たちのワークショップの授業をやってたの。1月に授業やった直後で……だから思い入れができた時に地震が来たからすごい、ヤバかった……。みんな無事だったけど……。その年はね、お正月に初めてイタリアに長く行って、エウジーと一緒に過ごしたの。エウジーとは2010年夏のヨーロッパツアーの時に出会って、2011年の初めに付き合いだしたんだけど、いったん1年ぐらい別れてるの。だから付き合いは長いんだけど、恋人だった時間はそうでもない。震災の時は……エウジーがいたから、このまま日本で何か自分にあったらヤバいし、むしろすぐイタリアに行った方がいいと思ったんだけど、その時の「まずいまずい」っていう感覚をエウジーと共有できなくて……同じ体験してないし、いきなり結婚も出来ないし。一緒に住むとかも、向こうが結構ネガティブだったのね。でも私は今すぐそうしないと絶対後悔するっていう気持ちで、それでケンカばかりになっちゃって結局別れた。でもあの後シノダがタイに引っ越したりして、ゆるやかに快快のみんながそれぞれどうしたいかが出て来たっていうか。これからも日本で活動したいのか、違うところでもやってみたいって思ってるかはみんなバラバラになってたから。それで2012年の『りんご』が出来たんだと思う。あたしはすごいツアーしたくて、とにかく海外でツアー出来る作品をつくろうって言ってたんだけど、「やっぱり日本の人に見せたい」って言うメンバーもいて、そういうの聴くと自分がやりたいだけじゃダメだなって。だから、外国で仕事したかったらみんなに頼らないで自分ひとりでやれるようになんなきゃいけないんだなって思い始めた。

― それで、『りんご』(2012年9月)の後に休養することにしたんだね。

梨乃 ちゃんと休んで自分がどうしたいか考えようと思って……『りんご』が終わったらエウジーのとこ行くはずだったんだけど、別れちゃったんだよね……。2013年は『アントン、猫、クリ』のツアーがあってアメリカに行ったけど、夏にはシノダとゴスピくん(渋家のメンバーのゴッドスコーピオン)と、フィレンツェのFabbrica Europaっていうフェスで『The PARTY party』っていう作品もつくった。今思えば、シノダにとってもあれが快快から離れてつくる一作品目になったんだと思う。本当はね、あたしも2013年のうちに自分で公演をやればよかったんだけど、勇気がなかったの。『The PARTY party』は40分くらいの英語のほぼ一人芝居で、作品自体はすごくよかった。だけど、自分は今までやってきたことをただ焼き直してるだけみたいな気持ちにもなって……あんまり、自分自身が新しいことができてるとは思えなかった。シノダとやってる時点で自分ひとりでやるっていうのとも違うし……あっ、電話だ。

 梨乃、篠田千明からの電話に出る。
 この後の待合せの時間について相談したりしている。
 
梨乃 (電話を切って)シノダ、3年ぶりの日本の桜なんだって! そうそう、いつだろ……2013年の終わりかなあ? シノダと二人で、山手線の終電乗ってる時にいきなり「なんかさー!」とか言われて「やっぱり今まで梨乃のことミューズだと思ってたんだよねー」とか言って、「友達ともこないだ話したんだけどー」とか言うの。なんかその友達も演出家で、彼にはすごいミューズがいたんだけど、そのミューズが劇団やめちゃった後に、その人無しだと作品がつくれないっていう風にはなりたくない、っていう話をしたらしくって「あたしも梨乃無しじゃつくれなくなりたくないんだよねー。だから来年はもう誘わないんだ」って言われた瞬間に、高田馬場かなんかに着いて「あ、じゃあねー」って降りてった(笑)。「え?! あ、バイバーイ」みたいな。なんかその時にすごく……放り出されたっていうよりは、救われた感じで……誰かにミューズだったって言われるなんて素晴らしく嬉しかったし、じゃあ、これからはひとりでも大丈夫かもなって思えて。なぜかそれが今も心に残ってる。あたしはシノダにすごい頼ってたけど、向こうもあたしに頼ってたんだって、びっくりした。自分が誰かに頼られることなんてあったんだ、って……。宣言どおり、シノダは次の年の作品には誘ってくれなかったんだけど。あ、夏にピンチヒッターでちょっと出た。でも今年の新作はやっぱり誘わないらしい(笑)。


『ソーシャルストリップ』舞台写真より



▼一生、「東京の女の子」宣言!

2014年10月、横浜の演劇センターFで生まれた一人芝居、『ソーシャルストリップ』は、大道寺梨乃がホスピタリティのすべてを凝縮してつくりあげたソロ作品だった。彼女の部屋を模した空間でおこなわれるそのパフォーマンスは、着ている服にまつわるエピソードを話しながら彼女がひとつずつそれを脱いでいくSocial Stripでもあり、彼女の生きてきた時間そのものが語られるSocial’s Tripでもあった。

― 『ソーシャルストリップ』は、あの狭い演劇センターFの2階から始まって、小さなカフェとか横浜のお絵描き教室とか、とても親密な空間の中での上演を重ねていって、梨乃ちゃんとお客さんとの相互的な豊かさを生んだ作品だったと思う。快快の大道寺梨乃じゃなくて、ひとりのアーティストとしての時間が持てていたように思うな。

梨乃 『ソーシャルストリップ』をやるたび、観に来てくれたいろんな人とそれぞれのちっちゃい空間を持てた気がする。あと、私がもうすぐ日本に居なくなるから友だちみんなが会いたいって言ってくれて、そのたびにそこにしかないちっちゃい空間がいっぱいできる。これまでは、ひとりのアーティストとしての時間を持つっていうことがどういうものか、イメージできなかった。それはストイックで大それたもので、辛い感じなのかなって思ってて。でも、そんなに今までの自分を曲げなくてもできるのかもって思えたから気持ちが楽になった。快快で作品つくるのってすごい大変だし、みんながただやりたいことをやるとかじゃ全然なかったから、ひとりになっても自分のやりたいようにやるんじゃダメだろうって、ずっと思ってたの。でも『ソーシャルストリップ』をつくってからは、自分のペースでもいいんだってわかった。快快で作品つくる時はいつも、この作品は宇宙でいちばん面白いって思ってるのね。今もそれには疑問がなくて、大学の時からこのメンバーでつくるものは宇宙一面白いから、大工さんとかイヌとか偉い人とか偉くない人も、どんな人でもみんなホントに観に来ればいいのになーって思ってたんだけど、ひとりでやり始めてみたら、自分の作品が宇宙一面白いなんて全然思えないの。だけど、どこかにこれを観たい人はいるだろうなとは思える。もしかしたら快快の時よりも、かも。快快はみんなとつくってることに重きを置いてるから、リハーサルの時点で始まってるっていうか。だけどひとりでつくる時はお客さんが観て参加してくれて、初めて形になる。

― 結婚してイタリアに引っ越して、これから先、自分がどう変わっていくと思う?

梨乃 今年はもう、ひとりでは大きい公演はやらないで、とりあえず引っ越して生活を始めてから、来年違う作品をやりたいなって思ってる。東京に1か月くらい帰って来てリハして。本当はできたら出演してほしい人をみんなイタリアに呼んでリハしたいけど。東京で何かつくるのは、自分にとってやりやすいの。観てくれる人が絶対いるし、規模さえそんなに大きくしなければ何とかやれるから。本当は、イタリアでやれることをこれから考え始めなきゃって思ってて。でもそれには向こうの人の協力がいるから。東京だと、「これ出来なーい!」って言うとオバマ(小原光洋)がやってくれるとか、「ノロ加藤和也)どうしよー!」っていうとノロが助けてくれるとか、そういう人が周りにいてくれたけど、向こうにはまだそれだけの信頼関係がつくれてないから。イタリア語も達者じゃないし、ドキドキしてる。

― でも、東京を大切にしつつ、イタリアのことも創作の足場として並列に捉えてる感じがする。もちろん、現時点で出来ることは東京が一番多いと思うけど、同じ地球の上にある一つの町として捉えてるたくましさがすごくあるよね。

梨乃 一生「東京出身」で売りたいなとは思う。「東京から来た女の子です!」って、それなりに魅力がある気がするから。へんな話だけど、あたしもっとおもしろくなりたい(笑)。なんか、不安に思ってるのかも。イタリアって古いしきたりとかがある古風な国だから、波が早い東京とはやっぱり全然違って……。イメージの中ではイタリアに引っ越しますって言うとマダム的な? ロハスっぽいの? とかになっちゃってヤバイ、おもしろくない! って思っちゃって(笑)。エウジーが嫌がるかもだから女体盛りパフォーマンスとかできなくなるし……とか。

― なんでおもしろいのがいいの?

梨乃 えっ……何だろう。年取った時に、お金があってもつまらないと早く死んでほしいって思われるだけだけど、お金がなくてもおもしろければ長生きしてほしいって周りから思ってもらえるでしょ(笑)。なんかね、うちのおばあちゃんがそうなの。おもしろいから、長生きしてほしいの。

― 大丈夫。どんな環境になってもおもしろい人はおもしろいっていうか、おもしろくあらずにはいられないって感じ(笑)。それは絶対大丈夫だと思う。

梨乃 うん、おもしろいほうがいい。

― ところで明日からイタリアに行って、帰国はいつになるんでしょう?

梨乃 4月21日に帰ってきて5月にKAAT(神奈川芸術劇場)で『再生』やって、6月にイタリアに戻る。8月にまた日本に戻って来るけど。新婚旅行と称して、行ったことない日本の場所に行きたいな。広島の、原爆資料館行ったことないから。

― 今日はどうもありがとうございました。




イタリアに旅立つ直前の彼女の表情を見て、私の胸には「充実」という言葉が浮かんだ。「充実」とは、やたらめったら創作に励んだり、たくさんの恋を経験したりすることではない。時間をかけて味わいつくし、価値観の違いに煩悶しながらぶつかりあい、いつか離れる時が来るまで相手との対話をあきらめないこと。そういう彼女の姿勢こそが、「充実」を感じさせる。彼女は、何か、誰かを好きになることを怖がらず、傷つくことをきちんと引き受ける強さを持っている。たくさんの国のボーイフレンドと恋をしてきた彼女は『ソーシャルストリップ』の中で、「たったひとつしかない私の心は、どこに懐かしさを覚えたらいいの」とせつなげに言った。でも、今まで彼女が恋してきた男の子たちはみんな、彼女のことを懐かしく思っているはずだ。彼女はいつだって、たいへんに心を尽くして、彼らと対話してきたのだから。だから、寂しがらなくて大丈夫。結婚おめでとうございます。いつまでも、最高におもしろい東京の女の子でいてください。


右は井上悠(ヘアメイク、衣装、出演)。『ソーシャルストリップ』舞台写真より



『ソーシャルストリップ』舞台写真より







マンスリー・ブリコメンド(2015年4月)

4月のマンスリー・ブリコメンドです。

こんにちは。今月から心機一転、ブリコメンドは三人体制でリニューアルします。ついにあの人がメンバーに……!! これからも、マンスリーブリコメンドをよろしくお願いしまーす!(落)



今月のブリコメンド&メンバー紹介

落 雅季子(おち・まきこ)

1983年生まれ。BricolaQドラマトゥルク。劇評を書きながら各地で『演劇クエスト』製作に携わる。「こりっち舞台芸術まつり!2014春」審査員など。 twitter:@maki_co

■六本木アートナイト

鈴木励滋(すずき・れいじ)

1973年3月群馬県高崎市生まれ。地域作業所カプカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)所長を務めつつ、演劇やダンスの批評も書く。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社)や劇団ハイバイのツアーパンフに寄稿。 twitter:@suzurejio
■4月の鈴木励滋&茶河鯛一出没警報・注意報


茶河鯛一(ちゃが・たいち)

東京都杉並区生まれ、八王子市在住。小劇場を観たり、近年はよくわからないながらコンテンポラリーダンスも観たりしています。名前についてはスルー推奨。(主に)観劇予定ブログ→ http://hachiojitheater.seesaa.net/ twitter:@chaghatai_khan
■4月の鈴木励滋&茶河鯛一出没警報・注意報





六本木アートナイト

4月25日(土)〜4月26日(日)@六本木周辺
http://www.roppongiartnight.com/2015/


まずは無料のガイド冊子を手に入れましょう。六本木の駅のラックとかにたくさんあるはずです。六本木駅に来るには、東京メトロ日比谷線都営大江戸線がありますが、ふたつの路線は結構離れているので終電などには要注意。とはいえ、ミッドタウンからは大江戸線が近くて六本木ヒルズには日比谷線が便利、というくらいの簡単な認識でオーケーです。

アートナイトは日没〜日の出がコアタイム六本木ヒルズ東京ミッドタウン国立新美術館が中心エリアです。「ハルはアケボノ」というテーマにちなんだハル号、アケボノ号という、ミラーボールとかを搭載したド派手なアートトラックが出動したりもするようです。

さてさて、メイン会場になる六本木ヒルズアリーナとミッドタウンアトリウムのプログラムなどは茶河鯛一氏の私家版・タイムテーブルを参照してみてください。ここでは、そこで触れられてないプログラムとスイッチ総研の補足を。


ダムタイプ映像祭@六本木ヒルズTOHOシネマズ

映画館のスクリーンで以下の作品が観られます。鑑賞料金は1000円/1作品。

21:00〜22:08『pH』
22:30〜23:38『S/N』
24:00~1:08『OR』
1:30〜2:45『memorandum』
3:00〜4:00『Voyage』


スイッチ総研『六本木アートナイトスイッチ』@ラピロス六本木、六本木ヒルズ国立新美術館、六本木商店街

光瀬指絵&大石将弘のもとに集いし、小劇場元気玉。ベテランから若手まで総勢100名近い小劇場の俳優たちがこぞって登場。普段は出演なんてしないあの劇団主宰のあの人も?! ああ六本木の道行く人々に、この豪華さを説明して周りたい……。六本木ヒルズのメトロハット、国立新美術館、六本木商店街などなど、どこでどんな作品に会えるかは運次第。上演時間とエリアの詳細はこちら

昨年12月の象の鼻テラスで好評を博したツアースイッチも登場。18:00からラピロス六本木の受付にて、【超】限定の予約制。20:00からと24:00からの二回公演です。

さてさて、そんな私は当日、エリアを見守る「スイッチ案内人」をつとめます。この小劇場元気玉が最後に必要とするのは、スイッチを押す観客の勇気。ほんの少しの畏れを胸に抱き、魔法にかけられる心の準備ができたら、スイッチ演劇の開演です。


無料シャトルバス

ぜんぜん、演目でも何でもありませんが、シャトルバスが気になったのでご紹介。けやき坂を出発して渋谷品川池袋、東京上野吉祥寺、果ては国分寺や立川まで無料で行けるようです! もちろんその逆のルートもあります! 『演劇クエスト』ドラマトゥルクとしては、帰りに乗ってみようかな……なんて考えてます。
http://www.roppongiartnight.com/2015/access.html


番外編・おすすめカフェ&バー&おみやげ

六本木アートナイトは長丁場。ゆっくり遊ぶなら、ほどよく回復できるポイントを探すのが大切です。永遠の東京ガール、落雅季子による六本木おすすめのお店をいくつかご紹介◎

まずはスコーンのおいしいグッディ・フォーユー。チーズケーキもおいしいみたいなんですが、私は紅茶好きゆえ、いつもスコーンを買ってしまう……。土曜日は19:00で閉まっちゃいますので行くならお早めに。日曜日はおやすみです。ちなみに道沿いに西麻布のほうに向かっていくと、ライブハウス新世界です。22:00〜5:00に一般開放され、DJ&VJタイムとともにお休み処にもなってスープやドリンクがいただけるようです。

ミッドタウンエリアで夜を過ごすなら、A971がいいのではないでしょうか。わりと遅めの時間に入って、飲み物とちょっとした食べもので終電までおしゃべりとか、そんな感じで使えます。友だち同士がおすすめ。25日(土)はAM5:00まで延長営業だそう。同じくミッドタウンのorange(オランジェ)もゆったり過ごせます。ここも土曜日はAM5:00まで。

26日(日)の朝早めに来るならマーサーブランチにぜひ。朝9:00から朝ごはんができます。オムレツとかフレンチトーストとか、とてもおいしくて内装も綺麗。けやき坂上ローダーデールも、実は朝からゆっくりできるポイント。朝8:00オープンで、23:00がラストオーダーですが、25日(土)は3:00まで延長営業。

いずれも広めのお店で、ゆっくりできる雰囲気ですが、なにぶんアートナイトは観客30万人(!)とも言われてますので人混みも楽しんじゃうつもりで、どうぞ。

帰る時には、ぜひ六本木ならではのおみやげを。おつな寿司のおいなりさん、六本木商店街にある榮むらの狸だんごがおすすめです。(雅季子)








4月の鈴木励滋茶河鯛一出没警報・注意報

※警報は★、注意報は☆、それ以外は▼になっています。






1月17日(土)〜4月7日(火)
「饗宴のあと」
http://www.teien-art-museum.ne.jp/
東京都庭園美術館
声の出演は青年団の劇団員。足立誠さんのいい声のささやきに耳を傾けたい人、7日までですよ。(茶河)




4月2日(木)〜19日(日)
「正しい教室」
http://www.parco-play.com/web/play/tadakyo/
PARCO劇場(渋谷)




4月3日(金)〜5日(日)
無隣館若手自主企画 キムラ企画
「あっち/無為て/本意」
http://www.seinendan.org/link/2015/02/4237
アトリエ春風舎(小竹向原




4月3日(金)〜12日(日)
東京ELECTROCK STAIRS
「浅い河床の例え話/島棚」
http://www.tokyoelectrock.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




4月3日(金)〜12日(日)
はえぎわ
「飛ぶひと」
http://haegiwa.net/
下北沢ザ・スズナリ(下北沢)




4月3日(金)〜12日(日)
マームとジプシー
「ヒダリメノヒダ」
http://mum-gypsy.com/
KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ(日本大通り




4月4日(土)〜12日(日)
飴屋法水
コルバトントリ、」
https://twitter.com/snac_in
SNAC(清澄白河




4月4日(土)〜25日(土)
「禁断の裸体」
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/15_kindan.html
シアターコクーン(渋谷)




4月8日(水)〜12日(日)
The end of campany ジエン社
「30光年先のガールズエンド」
http://elegirl.net/jiensha/
早稲田小劇場どらま館(早稲田)
早稲田小劇場どらま館開館!(励滋)




4月9日(木)〜19日(日)
劇団チョコレートケーキ
「追憶のアリラン
http://www.geki-choco.com/
東京芸術劇場 シアターイースト(池袋)




4月9日(木)〜4月12日(日)
ニットキャップシアター
「カムサリ」
http://www.knitcap.jp/
座・高円寺1(高円寺)




4月9日(木)〜26日(日)
「ウィンズロウ・ボーイ」
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/150401_003732.html
新国立劇場 小劇場 THE PIT(初台)




4月10日(金)〜12日(日)
映画美学校 アクターズ・コース
「石のような水」
http://eigabigakkou-shuryo.hatenadiary.jp/
アトリエ春風舎(小竹向原
タルコフスキーの映画作品をモチーフに、松田正隆(マレビトの会)が書いた戯曲を、松井周(サンプル)が演出。(励滋)



4月10日(金)〜5月12日(火)
贅沢貧乏
「ヘイセイ・アパートメント」
http://zeitakubinbou.com/
江東区北砂の一軒家(西大島)
駅に集合その1。(励滋)
家プロジェクト、最後の一軒家公演。5/1〜12にも公演あり。過去2作品はまだ場所の力を活かしきれていないと感じた。集大成はどうか。(茶河)




4月10日(金)〜4月12日(日)
横浜ボートシアター
「恋に狂ひて」
http://www.yokohama-boattheatre.org/
横浜ボートシアター(元町・中華街
駅に集合その2。4月11日(土)〜19日(日)
シベリア少女鉄道
「この流れバスター」
http://www.siberia.jp/
吉祥寺シアター(吉祥寺)
土日は38歳・一般男性、平日はエビ中のWキャスト。当日券が買えれば、平日も観たい。…買えるんですかね?4月15日(水)〜22日(水)
monophonic orchestra
「さよなら、三上くん」
http://monophonicorchestra.com/
千歳船橋 APOCシアター(千歳船橋
役者出身が作・演出を務めるユニットには過去何度か期待を裏切られていて、警戒感があったが、一度観た長編は好感が持てる作品だった。(茶河)




4月16日(木)〜18日(土)
ローザス
「ドラミング」
http://www.geigeki.jp/performance/theater079/
東京芸術劇場プレイハウス(池袋)




4月16日(木)〜21日(火)
東葛スポーツ
「ラッパー・イン・ザ・ダーク」
http://www.tokatsusports.com/
3331 ArtsChiyoda ギャラリーB(末広町




4月16日(木)〜22日(水)
水素74%
「誰」
http://www.hydrogen74.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




4月17日(金)〜19日(日)
第七劇場
オイディプス
http://dainanagekijo.org/
早稲田小劇場どらま館(早稲田)
主宰の鳴海康平は津のあけぼの座の芸術監督。以前、彼が本拠にしていたアトリエセンティオ(2014年3月閉鎖)の場としての魅力を思えば、最近あけぼの座界隈が活気づいているのもうなづける。(励滋)




4月17日(金)〜21日(火)
拙者ムニエル
「わくわくステーション」
http://sessya.com/
下北沢駅前劇場(下北沢)
男塾ではないが、生きていたのか、お前らー!と言いたくなるほど間を空けての復活公演。(茶河)




4月17日(金)〜26日(日)
青年団リンク 玉田企画
「ふつうのひとびと」
http://tamada-kikaku.com/
アトリエ春風舎(小竹向原
用松と吉田、二人の亮とこのタイトル、ハイバイ?(励滋)




4月18日(土)〜19日(日)
集団:歩行訓練
「常識のコレクションのコンセプト」
http://walkintrainin.net/
新宿眼科画廊 スペースO(新宿三丁目
「ゲームをつくる劇/劇を生むゲーム」としてカードゲーム(予定)を制作しているとか。わくわく。(茶河)




4月21日(火)〜26日(日)
ONEOR8 B面公演
「ゼブラ」
http://oneor8.net/
SPACE雑遊(新宿三丁目




4月23日(木)〜29日(水)
財団、江本純子
「売るものがある性」
http://junko-emoto.com/
アトリエヘリコプター(五反田)




4月24日(金)〜26日(日)
Co.山田うん
七つの大罪」「春の祭典
http://yamadaun.jp/
東京芸術劇場 シアターイースト(池袋)




4月24日(金)〜26日(日)
劇団森キリン
「えすえむ」
http://ameblo.jp/gekidanmorikirin/
テルプシコール(中野)




4月25日(土)
tantan
「指切った。」
http://www.session-house.net/live_news.html
セッションハウス(神楽坂)
川村美紀子の公演に出演する機会が多い、亀頭可奈恵が振付を務めるユニットの初単独公演。(茶河)




4月25日(土)〜26日(日)
六本木アートナイト2015
http://www.roppongiartnight.com/2015/
六本木一帯
情報がまだあまり公表されていないんだが、東野祥子や鈴木ユキオが出るらしい。(励滋)
体力的な問題でもう今年はいいかと思ってたけど、スイッチ総研参戦と聞いては足を向けざるを得ない。(茶河)

※4/21追記※
茶河鯛一による私家版・六本木アートナイトタイムテーブルはこちら!!



4月25日(土)〜4月29日(水)
突劇金魚
「ゆうれいを踏んだ」
http://t-kinnngyo.tumblr.com/
こまばアゴラ劇場駒場東大前)




4月26日(日)〜5月3日(日)
AMD
「怠け者の旅路」
http://amd-ayamido.tumblr.com/
SNAC(清澄白河




4月16日(木)〜5月3日(日)
原田郁子×マームとジプシー リーディングライブ
あらためまして、はじめましてツアー
http://mum-gypsy.com/news/2539
4月16日:穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペース(豊橋
4月17日:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館スタジオA(新潟)
4月27日:杜のホールはしもと 多目的室(橋本)
4月28日:東京芸術劇場 シアターウエスト(池袋)
4月30日:沖縄 パン屋 水円
5月3日:山口情報芸術センタースタジオA(湯田温泉




4月29日(水)〜5月3日(日)
中野成樹+フランケンズ
「ナカフラ演劇展 vol.2」
http://frankens.net/
シアターノルン(蒲田)
なんと4作品! a.中野成樹+フランケンズ「ラブコメ改」(モリエール『女房学校』より)、b.中野成樹+オオカミ男「ロボットの未来(つながらない星と星)」(中野の作(!)演出)、c.外の刺激+フランケンズ「みな区々(みなまちまち)」駅に集合その?(まち歩き、詳細は予約者に連絡)、d.中野成樹+長島確「劇場の三歩手前」(にしすがも創造舎での「限定ラジオ」をなんかするらしい)。a・b 各\2,800(前売・当日とも)c・d 無料(要予約)。(励滋)




4月29日(水)〜5月3日(日)
Nichecraft 辻本企画
「架空の箱庭療法 #3」
http://nichecraft.org/page/
吉祥寺Gallery re:tail(吉祥寺)
“予告編しか見せてあげない。”“舞台模型と舞台写真で再現する《実在しない演劇作品のカタログ展》”…コピーがそそられる。(茶河)




4月29日(水)〜5月10日(日)
ぬいぐるみハンタープロデュース
「すべての犬は天国へ行く」
http://www.nuigurumihunter.com/
王子小劇場(王子)







世田谷パブリックシアター演劇部 批評課(7日目)

世田谷パブリックシアターの会議室。七日間にわたった批評課の最終日、わたしは、偶然残っていた中学生演劇部古参のミス・カチューシャ、中学二年生ながら華麗なファッションでみんなを魅了するミスター・ジャケット、ワークショップ内で行ったインタビューでその才能を開花させたミス・インタビューの三人に話を聴くことにした。


柏木陽 さて……俺がいない方が好きなこと言えるだろ?(部屋を出て行く)

藤原ちから じゃ僕も……あばよ。またどこかでね〜。

ミス・インタビュー あ、あの……! どっかで会ったら、こんにちはって言っていいんですか?

藤原 え……? もちろん。

イ 「仕事モードの時は話しかけるな!」とか言われんのかなと思って……。

藤原 なんでよ(笑)。大丈夫だよ、道ばたでも劇場でも。じゃあね〜。

 藤原、去る。
 部屋には中学生三人と、落だけになる。

― じゃあ始めます。まず、どうして世田谷パブリックシアターのワークショップを知ったの?

イ 演劇のワークショップやってみたいなと思ってネットで探したんだけど、今まで都合が合わなくって、やっとこないだの冬、第三期に来れたーっていう感じです。だからこれが二回目。

ミス・カチューシャ んっとねー、わたしは、最初は演劇やりたくて、劇団探して! 事務所探して! っていう勢いだったんだけど、お母さんがここのワークショップ見つけてきて、いいんじゃない? 最初はこういうところからスタートしてみれば? みたいな感じになって、行ったらハマっちゃった♪ みたいな(笑)。

ミスター・ジャケット 僕は、急に演劇がやりたくなった、というか……。

― え、すごい。どうして?!

ジ わかんないんですけど……そういうのないかなって急に調べ始めて、家の近くに劇団があって、そこに行こうと思ったんですけど、いい感じに毎週予定が入ってて、そこはあきらめ……。で、いろいろ調べて行くうちにここに辿り着いて、一番近い時期のワークショプが冬の第三期で。だからミス・インタビューと同じタイミングで始めました。



▼わかること・わかんないこと1
― 今回はタイトルに「演劇部 批評課」って付いてたじゃん。「批評のワークショップ」ってやってみてどうだった?

カ 正直、いつもだったら「戯曲からやってみよう」とか「登場人物つくろう」とかそういう系で、わたしは演じるのが好きだから、「批評」って違くない? って思ったけど、まあおっさん(=柏木陽のニックネーム)の名前書いてあるし、これは絶対なんかつくるなーと思って、いいなーって思って来た(笑)。てか、おっさんの名前じゃなくても来たと思うけど、来た♥︎

イ え……あ、あの、何かすごい、失礼なんですけど……批評家ってちょっと正直うさんくさいなとか思って……。だってその、ごはん食べていけるのかなとか思って……何してるのかなとかよくわかんなくて。うさんくさいならうさんくさいなりにちょっと見てみようかなと思って……す、すいません……。

― それおもしろーい! おもしろーい! 実際会ってもよくわかんなかったでしょ?(笑)

イ あんなことしてて、生きていかれるの……?(みんな笑う)今さんざん親から将来のこと、進路決めなさい、とか資格を取れるような仕事につきなさい、とか言われてる中でこういうオトナを見ると「え、ええー……?!」ってなるのはちょっとあります。

ジ そうですね……僕は、「批評って何だろう?」っていうところから始まって、チラシの演劇部批評課っていう文字を見た時に、「批評」より「演劇」に目が行って……。正直、今現在あんまり、パッとはしてないんですけど……でも批評っていうものがわかってなくても、自然とやってたんじゃないかなって。劇つくったりする中に、自分では意識してなくても批評っていう要素があったんじゃないかと。

― 「パッとしない」っていうのは「批評」って何だかよくわかんないってこと?

ジ そうですね。

イ やだー、話が難しいよー(笑)

カ やーなんかー、ていうかー、このワークショップ全部わかんないから、もう、普通(笑)。

― 普通?!

カ なんかね、人生で初めてやったワークショップがトバズニハ(伊藤キムにより結成された中高生パフォーマンスグループ)だったの。で、キムさんの時点でわけわかんないし、中学生演劇部来ててもいつもわけわかんないし、で、今までもいろいろやったけど、全部わけわかんないし、でもわけわかんないの好きだから、この批評課もわけわかんなくて、たのしい(笑)。だからね、もうわけわかんないの当たり前? で、わかると逆に「あ、わかっちゃった」みたいになるから。わかったことないけどねっ(笑)

― でもさ、わけわかんないのと、内容が難しくて理解できないのとはちょっと違うじゃん。今回はどっちだった?

カ 何ていうか、「批評って何?」って訊かれて、「ちからさんは『愛と距離』みたいなこと言ってたよーん」ってことは言えるけど「えー?しらなーい」みたいな?「でも楽しいよー!」みたいな感じ?(笑)

ジ 実際楽しかったんですよ。

カ そ、楽しいもん。

― パッとしなかったけど楽しかった?

ジ 楽しかったです。

カ だってパッとしないのはいつもそうだから!

― (笑)

イ でもすごい自由にやらせてもらった気がする。おっさんとかちからさんは、質問を投げかけても、「こうした方がいいよね?」みたいな裏のニュアンスを含んでない。「こういうのもあるし、他の案もあるよね。どっちがいい? どうする?」って言ってくれるから。さっきおっさんが演劇にもいろいろあるって言ってたけど、すごくいいところのワークショップに来てたんだなって思った。



▼演じて応答するということ
― 今日、『地域の物語』という公演をつくった人たちの前で、別の作品をつくって演じて返すってことをしたじゃない? そもそもそういう応答の仕方って例がないと思うんだけど、みんなも初めて?

カ そうだね、初めてかな。

― 緊張した?

カ いやあ……。

イ え、めっちゃ(してたじゃん)。

カ 違う違う、緊張するのはいつでもそうなの! 始まる直前にウーッてなるんだけど、それは相手に返すからとかじゃなくて! だって、返すけど、もううちらの作品になってるから、それを見せるだけだから、あんまり緊張しなかったけど……。正直言うと、(『地域の物語』出演者の)ヨウコさんとかシラさんとかにインタビューした話をやった(作品内に取り入れた)じゃん。それが、ちょっと……まあ別にいいと思うけど、違うふうに受け取っちゃってたら、ちょっと……どうなんだろう、って……ヨウコさんとかシラさんの反応見ちゃった。

イ わたしも〜。めっちゃ顔見た〜。

カ だからそれはあるけど、でもそんな特別! みたいのはなかった。

 世田谷パブリックシアター学芸スタッフの“にらだい”がお菓子を持って来る。にこにこして、邪魔しないように去って行く。

カ あ、マッカデミア〜♪ 開けてい?

― そっか。でもその後皆さんからその場で感想もらったじゃん。それはどう思った?

カ (マカデミアチョコを食べながら)ほっとした。「あたしこんなこと言ってないけど」とか「そういうつもりじゃないんだけど」じゃなくて、ちゃんと見てくれてるなって。よかった。

ジ 発表のあと、みんなちゃんとコメントくれたのがすごいうれしかった。

― そうだね。相互的な感じがすごくしたよね。



▼中学生から見た「批評」
― 演劇を演劇部でやるっていうと、みんな出るつもりで来てるんだよね? だけど今回は『地域の物語』の感想文書いたり、出演してた人にインタビューしたり、いろんな演劇との関わり方を体験できたと思うんだけど、面白かった?

カ やっぱり文章は苦手だなって思った、ヒヒ(笑)。だから、ちからさんとかおちまき(落雅季子)さんとかすごいなって思って。ある人の話を演劇にしてください、って言われたら出来るけど、感想書いてくださいって言われたら無理だ、ウェーッてなった。

イ 最初は演じる方が面白いなーと思ってたけど、文章書いて組み立てたりとか、ここはもうちょっとこうしたほうが……とか考えるのもすごい面白いなーと思って。わたし、文章書くのそんなに嫌いじゃないんですけど、でも書いてるとこう、型にはまる感じがしてきて……でも今回いろいろやって、もうちょっと違う形もあるのかなとは思いました。

ジ やり始めたら書けるんですけど、自分からやろうとはあんまり思わなかった。でも自主的に書こうっていう気持ちを、強引ではあるんですけど、引き出してもらって、また新しい見方というか演劇の感じ方があるんだなって思ったりしました。

― あたしも中高大学と演劇をやってたんだけど、卒業して会社員やって紆余曲折経て、今は劇評を書くということがいちばん自分にしっくり来てるのね。結構回り道してるというか、だから演劇とのいろんな関わり方があることを伝えられたらそれだけでよかったかなって思うんだよねえ……。でも「批評課」って付いてるから何か書かされるんだろうなっていう予感はあったでしょ?

カ なかった(即答)。

― なかった?!

カ だって、だってさあ! あれだよ?! チラシに「柏木陽」って書いてあったから!(笑)まあちからさんの名前もあったけど……ちからさんに最初に会ったのはキャロマグの座談会(vol.6の中学生演劇部特集)の時だったんだけど、そん時のちからさんの印象はね、「おもしろい人」(笑)。

イ マスクちゃん(ワークショップ参加者のひとり)がやくみつるに似てるって言ってた(笑)。

 (爆笑)

カ 座談会の時はただ話しただけだから、文章のイメージがなくて。何かねえ、そこまで「えっ、書くの?!」とはなんなかったけど、「ま、批評だし、やるのか……やんのか」みたいになった。でも全然ホントに、書くと思ってなかった。

ジ 僕は若干覚悟はしてた(笑)。

イ あたしは書くかなーとは思ってたけど、そこまで嫌いじゃないから、ここでいいの書けば褒められるかなあ〜うふふ〜、みたいのはちょっとあった(笑)

― 実際批評家であるちからさんって、どんな感じに見えた?

カ すごい優しい人!

イ え〜! 絶対に裏では、フフ……みたいなとこある!

カ でもさ、おっさん(=柏木陽)はさ、優しいけど怖いっていうか、ヘンでしょ! にらだいもお菓子買って来てくれたりして優しいけどヘンじゃん。で、最初に会った(伊藤)キムさんも相当ヘンだったから、ちからさんに会って「お、ちゃんとした人だ〜普通の人だ〜」と思って(笑)でもねえ、ちょっとねえ、何かねえ、隠してるとこはありそう!

イ だって普通の人だったらこんなとこ居られなくない?

カ うん。そうだね。

― こんなとこって……?

イ 批評とか演劇の世界。

カ あとおっさんとも話が合ってるしね。

イ おっさんと普通に話せる時点できっとヘンだよ。

ジ ちからくんって、よくわかんないけど、おもしろいんですよね……なんか会いに行きたいっていうか、話を聴きたい……よくわかんないけど、また批評課をやるなら聴いてみたい。

― 話長いけどいいの?(笑)。二日くらい前にすごい批評家モードになってベラベラ喋った日あったじゃない。終わってから振り返りの時間にもすっごい喋ってたから、あれ。

ジ (爆笑)

カ 部屋の外まですごい聴こえてた!

ジ 突っ込めばすごい話を聴いてくれそうな人だなって思う。

― いつかお酒とか飲んだらいいんじゃないかな。もう、すごい飲むよ……。

ジ 飲みそう〜(笑)。

 にらだいが突然現れ「ちからさんたちどこ行った?」と言いながらじゃがりこを自然につまみ、一本食べて風のように去る。

イ あ、食べてった。

カ やっぱヘンな人だよ〜。食べ方もヘンだよ〜、ウケる〜。

イ あたしも食べよ〜。

― いつもの演劇部と今回の批評課では何か違うなってことはあった?

カ え、何かね、動かない。

イ あー、お尻が痛くなったね。

カ あと宿題? これまでもある時はあったんだけど、何か今回はちゃんと形にしてくる宿題だった。いつもは「考えといて〜」とか、そういう感じのノリで、文章でちゃんと提出して読む! みたいのはなかったから、ちょっと「ウヒ?」ってなった。

― 期限も厳しかったよね。

カ 次の日だもん(笑)。

イ 眠いし(笑)。私、朝書いたりしてた。

カ 私も朝書くこと多かった。前日の帰り際にだいたい文章考えてて、家帰って書くの忘れて、寝て起きると、その当日より客観的に思えるからちょっと直して、みたいな。

― それって演劇の台詞とか振りを考えて来てっていうのと一緒な感じ?

カ 文章にするのはね……なんか違った。なんかね、いつも演劇やる時のイメージは……「わちゃわちゃわちゃわちゃ〜♪うひょひょひょひょ〜♪」だけど、今回は「うひょひょひょひょ〜♪」の前に、ちょっとキチッとした感じがあって、「うひょ? キチッ! うひょひょひょ〜♪」みたいな感じ。で最後は「うひゃー!」みたいな感じだった。

― その「うひゃー!」は発表のこと?(笑)

カ そ(笑)。

イ でもライブくん(※ワークショップ参加者のひとり)の感想文は、ああそんな形で来たんだって思ったよね。文章じゃなくて、絵とか図だった。

― それをまさにミス・インタビューが朗読することになったよね。

イ 来るなって思ってた。あの順番だと絶対あたしのとこで止まるなって思ってたらホントに来ちゃって。

カ あれ逆に当たりじゃない? おもしろくない?

イ そうは思った。やればそれだけで何かになるから当たりは当たりだけど。

― 読み終わった後に「ちょっと私の意見とは違った」って言ったよね。そこをちゃんと伝えて良かったと思うよ。ライブくんも一瞬ウッとなってたけど、飲み込んでたよね。

イ そう、だって……違うから。いつもだったら言わない気がするけど言っても大丈夫かなって。わかんないけど、もしかしたら家で泣いてるかもしれないけど。

― 何で大丈夫だって思ったのかな?

イ 場所が場所だし……彼も……言っても大丈夫、人としても大丈夫だし……批評課だし……言っても受け止めてくれるかなと思いました。

ジ それ自体「批評」な感じがする。発信する側の感覚があって、受け取った側からの批判と共感があって、何か違うことが起きる、みたいな。

イ 後で帰り道に「やっぱさーあたし嫌いなんだよねー」って言うのは批評じゃないと思う。相手がいて、伝えるつもりで言ってるんだったら批評だけど、「やっぱさー違うしー」って裏で言うのはただの意見。

― ちからさんに聴かせたらそれ、にやにやして喜ぶと思うよ。

イ ……それはちょっと何かやだ(笑)。



▼高校生になったら
― 高校生になっても演劇はやりたい?

カ とりあえず、世田パブのワークショップには来る♥︎ 最初は演劇科がある高校に行こうとしてたんだけど、親とも話し合って、一番演劇ができるのは今選んだ学校だなと思って。なんか、すごいたくさん演劇やるの。授業で。演劇部はないんだけど、でも面接の時に「ぜひ演劇部つくってください」って感じだったから「あ、はーい」って(笑)。演劇部つくりたいんだけどさーって言ったら入ってくれそうな子もいて。

イ あたしは中高一貫で、部活とかが変わるわけじゃないので、演劇部も一応あるんですけど今から入るのはちょっとアレかなーってのがあって、演劇やるのは学校じゃない場でもやれるかなって思って。さっき振り返りの時におちまきさんも言ってたけど、情報収集を怠るのはそれこそ「怠慢」なので(笑)

― あれはパズドラの攻略方法をネットで調べるかどうかって話です(笑)。

カ でもおちまきさんパズドラやってそうなイメージ。あ、わっかるー♪ って思った。CMに出てそう。

イ あー!

ジ 出てそう!

カ ね、わかるでしょ? こうやってこうやってんの(スマホ画面を操作しているマネ)。

イ わかるわかる! 斜め下くらいからの(アングル)。

― そんなこと初めて言われた……。

カ きゃはー!

イ (それた話を戻す)や、まあ何かそれでがんばって探していけば、やれないこともないかなーって思った。でもなかなかネットで検索しても情報が出てこなかったりとか、終わっちゃったワークショップの感想とかが出て来て、そこは私もがんばんなきゃいけないなーって思うけど。

ジ うちも中高一貫で、演劇部がなくて……部活は剣道やってるんですけど、それもそれで楽しいし、それとは別でワークショプ探してみたくて、ここ以外のも体験したくて。さっきのおっさんの「世の中にはおもしろい演劇だけではなく、おもしろくないものもある。いろんなものに触れてほしい」って話もそうですけど、一回若干おもしろくなさげなところにも行って、それでもう一回ここに戻ってきた時にどう感じるのかなって思ったりもして。あと、何だろう……自分たちだけで、やってみてもいいんじゃないかなって思ってます。



▼わかること・わかんないこと2
― 二日目に、いろんな作家の文章を声に出して読んだじゃん。結構難しい文章もあったけど、意味わかった? 石原吉郎とか宮本常一とか、すっと入ってこない文章が多かったと思うんだけど。

カ や、なんか、普通だった。

― 普通?!

カ や、難しいけど、その文章について感想書けって言われたらちょっとヤだけど(笑)、これの芝居をつくりたい、みたいな。感想書くのは無理だけど、芝居つくってって言われたら楽しそうだな〜って思ってた。みんなの聴きながら。

― あの朗読おもしろかったもんね。

カ おもしろかった!

ジ 今回の批評課自体たぶん「わかんないけど付いていった」感じがすごい、演劇してるな〜って感じだった。なんだかんだ突破してきたのを、身体ですごい感じたというか。

カ でもね、結構あとあとになって、何かわかる時がある。前のとかで「あ、これあたし知ってる♥︎」みたいな。やり方とかじゃなくて気分的に。「これ知ってるわ〜出来るわ〜」って、みんな周り戸惑ってても(笑)。だからこの批評のやつも、そうなりそうな気がする。

ジ うん、絶対糧になりそうな気がする。

イ ダメにしたくないよね。七日間もここにいたから。そういう経験を。「ああやったね、終わったね」じゃなくて。あとあとに持って来るというか。持って来るのは私たちだから、誰かが持って来てくれるわけじゃないからそういうのはがんばんなきゃいけないなって。

ジ 七日間で身体にインプットされて、感覚をさ、何だろう、思い出すというかそういう作業がこれから必要なんだと思う。

イ 学校の生活に戻れるかな……(笑)。

― またこの批評課ワークショップあったら来てみたい?

カ 批評課であることもそりゃそうだけど、高校生が出てもいい世田パブのワークショップだったら何でも行く♥︎

― 宿題書かされても?

カ 行く♥︎



▼大人になっても演劇やる?
― 大人になったらどうなるんだろうね。

イ それ思うー。

― 大人になっても演劇やる?

カ え、やりたいー。

ジ でもおちまきさんの場合逆じゃないすか?

イ 逆に訊きたいんですけど、演劇部に入ってたのに、なんで普通の仕事につこうと思ったんですか? いったん演劇から離れて会社員になったんですよね?

― そう。「やたら演劇を観てる会社員」になった。

イ それってすごい何かこう、嫌っていうか悔しいっていうのなかったですか?

― 何だろう……まず、そんなに自分に役者の才能がないと思って、役者をやることはありえないと思ってたわけ。演劇は好きでずっと観てたんだけど、結局やりたいのが文章を書くことだったのよね。だから、演劇について、言葉を尽くして書くことをいちばんやりたいと思ったの。ずっと一人で細々書いてたんだけど、ある時期に藤原さんと出会って、一緒に仕事するようになったんだよね。いろんな偶然と必然が積み重なって今があるから、ホントに何がどう転ぶかわかんないなーって思うの。一直線に「劇評書く人になりたい!」と思ってたらたぶんこうなってないの。

三人 ふーん……。

― もちろん、まっすぐ俳優とか演出家を目指すのもすごくいいと思うんだけど、いろんな道があるよ。ミス・インタビューも、人の話聴いたり、体系的にいろいろ考えたり出来ると思うから……初日に「ドラマトゥルク」っていう役職の話をしたの覚えてる? そういう勉強とかもおもしろいかもしれない。

イ ああ……でもわたしシラさんと話した時も、一生懸命すぎてシラさんの目しか覚えてなかったんですよ、ほんとにもう……。

― そんなもんだよ、音声は録音しておけばいいんだよ(笑)。

イ ありがとうございます。

― 今日は遅くまでありがとう。気をつけて帰ってね。またいつか批評課で会えるのを楽しみにしてます。

三人 はーい。

 子供たち、帰る準備を始める。

カ (チョコの箱を覗きこんで)ねえねえ、何で最後の一個食べないの?

イ 最後の一個はみんな食べないんだよ〜。

カ えっ何で〜?!

― 食べなよ(笑)。じゃがりこも持ってかえんな。

カ いいの?!……やったね♥︎
 
 帰る準備をして、全員部屋を出る。
 落、エレベーターを待っている時に、ミス・インタビューのリュックに徳永京子・藤原ちから『演劇最強論』が突っこんであるのを発見。

― あ、『演劇最強論』。

イ そうなの……いちおう、持ってきてた。

カ えっ何これ? (手を伸ばして本を取り口絵をぱらぱら見る)あっ、ままごとだ。読みた〜い貸して〜。

イ これ図書館のだから……。

 三人はわいわい言いながら去っていく。(完)


(落 雅季子 2015.04.04)





世田谷パブリックシアター演劇部 批評課(6日目)

藤原ちから 六日間、中学生たちと批評のワークショップやってみて、率直に言ってどうですか?

柏木陽 逆にちからさんはどうですか?

藤原 えっ、そうですね……。小学生、高校生のワークショップは経験があったけど中学生とは確か初めてで、難しい年齢という先入観がありました。だけど実際会ってみると、すごく面白い子たちで。身体はノイジーで、プロの俳優のようにシュッとはしてないんだけど、なんか魅力的なんですよね。それがぼくには新鮮なんですが、子供からお年寄りまで、いわゆるプロの俳優じゃない人たちと演劇ワークショップをたくさんやってきた柏木さんとしては、そういうノイジーな身体はどう見えるんですか?

柏木 プロの俳優や俳優志望の人は、意図したとおりに動きたいんですね。技術もあるし。でもいわゆる素人は動きに意図がなくて、ポンとやったことがすごく面白かったりする。その方が表現が「強い」気がしているんですよ。

藤原 プロの舞台作品を観ていても、感動するのは、技術でうまく固めたところよりも、たぶん演出家や俳優本人ですら謎であるような変な凄みが出る場面だったりします。ちなみにプロの俳優と作品をつくってみたい気持ちってありますか?

柏木 プロとアマチュアの違いを知るためにはすごくやりたいですね。

藤原 それはちょっとした興味があるという感じ?

柏木 いや、それが創作のモチベーションになるくらいには強い関心がありますね。単なる創作環境とか状況以外での違いがわからないと、日本のアマチュア演劇の位置づけは難しいんじゃないかと思ってるから。

藤原 「キャロマグ」(世田谷パブリックシアター学芸が発行する冊子)の編集とかを通じて世田谷パブリックシアターのワークショップに関わるようになって思うのは、「本当はプロになりたいけどアマチュアに甘んじてる」とかいう、従来のアマチュア演劇のイメージとはかなり違っているんじゃないかということです。今回の中学生たちにも、創作プロセスを重視する理念がすでに共有されてるように感じるから驚きです。世田谷パブリックシアター演劇部を2年やってきたことの蓄積が現れつつあるのかもしれない。演劇と関われるチャンネルが生まれてると思いますね。

柏木 大きな劇場でたくさんのスポットライト浴びる演劇もあるんだけど、「演劇活動」全般からすると山の一部。山頂だけが山じゃなくて、のぼって行くルート全部が山なんだから、たくさんの演劇活動があるんですよね。

藤原 今回、いろんな演劇人から、中学生の批評課って何やってんの?! 観に行きたい! みたいな問い合わせを多数もらっているんですけど(笑)、そもそも演劇ワークショップの現場で何が起きていて、進行役とされる人たちが何を考えて活動しているのかを伝えて行く必要があるなと、特にこの一週間柏木さんとご一緒してて思いました。というのは、演劇ワークショップの即席的な効果を求める声は高まってると思うんですよ。コミュニケーション能力に役立ちます的な。それは方便としては必要で、「社会にとって演劇は役に立ちますよ」って喧伝することで演劇の社会的地位を高めようという話は理解できるんですね。でもそれを方便として受け取らないで、ワークショップに効果やサービスを求める人たちが増えてしまってるんじゃないか。それを正直ね、50、60過ぎたおじさまたちが言う感じならまあしょうがないかなと思ってたんですよ。でも20歳くらいの子たちがすでにそういうことを鵜呑みにして、結果や効果しか見られなくなっているのはぼくはすごく残念だし、危険だとも思うんですね。つまり何も伝わってないわけですよ。演劇ワークショップに関わってきた人たちの思想や哲学が伝わらなくて、表面的・即席的な効果だけが求められるのは……ちょっと60年代的アングラな言い方をしますけど、そんなのは「反・演劇的」ですよ! 演劇やそれに関わってきた人たちへの最大の裏切りだとも思う。演劇はコミュニケーション能力として役に立つから行われるのじゃなくて、そこにまずある、存在していることそれ自体が大事で、そこにいろんな人がなぜか集まってくる魅力的なものだからこそ、対話が生まれると思うんですね。結果的にそこで磨かれるものがある、ということだと思う。人が集まるから。

柏木 言いすぎちゃうかもしれないけど、地域コミュニティのつくりかたって誰も知らないじゃないですか。地域コミュニティって、日本だとたぶんお祭りがつくってたと思うんですよ。お祭りをひらくとみんな集まって来て、準備もするじゃないですか。若い人を手伝わせたりして、徐々に彼らがその祭りの中心軸に入っていったり。小さい頃から「あれは面白い」「かっこいい」という思いを持って近づいていくことで、裏や苦労があることを知り、多層な人間関係を知っていく。利害関係の調整の仕方とかも。そうやってお祭りというハードルをクリアすることで自分の位置と地域コミュニティの作法を知っていくことがかつてあったと思うんですよ。そういうことに慣れていくための場として劇場ワークショップがいろんな場所で起こっていくことは、網の目のようなものを作っていく助けになると思いますね。
あと、個人的には今も「演劇は何の役にも立たないよ」って思ってるけど、そうは嘯(うそぶ)けない。下の世代が困るから。役立たないとは思うけど社会の中で相手を説得してみる、とかいうことを、僕らのところでやらないといけないと思う。

藤原 確かに、仕事としての社会的地位を獲得しておかないと、後継の人がキツくなるでしょうね。ぼくは編集者としてはね、社会の中でいろんな人や組織と関わりながら役立っていくという感覚は強いんですよ。「編集は世の中の役に立ちますよ!」ってアピールしたい(笑)。でも批評についてもそう思うかというとそれは微妙で。今回の批評課も、批評という概念や方法を使って発想をひろげる可能性を開拓したいということでやってるけど、いざ批評家を育てるとなったらぼくはたぶんめちゃくちゃスパルタで、批評する人間は、一子相伝、ひとりの師匠につきひとりの弟子しか育てられないんじゃないか、ぐらいに思ってるんです。批評は愛と距離だ、という話を中学生たちにしましたけど、それは社会に対してもそうで、精神的に社会から離れたりちょっとズレた位置にいることは大事だと思う。だから、中学生たちにはもちろん期待はしてますけど、将来何になるかもわからないし、彼らは彼らで自分の人生を謳歌(おうか)してくれればいいかなって。

柏木 中学生って何者になるかわからない最後の時期ですよね。高校生になるともっと将来を意識するから。でも、自分と近い世界(演劇)に来る可能性はあるかもしれない。それならもう少し伝えておくぞ、とは思ってます。

藤原 演劇ってけっこう潰しが効きますよね、いやほんとに(笑)。総合芸術というだけあって、いろんな感覚が自然に身についていくと思うんですよ。誰か人間と一緒にやるものだし、なんといっても、身体がスッと動けるようにもなるし。

柏木 中学生はみんな嬉々として身体動かすよね。ちっちゃい頃から「走るな騒ぐな」って言われてる東京の子たちが、走れるし騒げるし、そのうえ何かやって上手かったら褒めてくれる人がいて、しかも自分たちでアイデア出してそれが形になるって、喜びしかないよ。でも、「面白くない」って厳しいことも言われるじゃん。振り絞ったものがちゃんとジャッジされてる感じ? そういう、投げて打ち返される場で、捨て身で飛び込む瞬間があるんだよね、演劇は。あの捨て身の瞬間をどこかで知らないと、世の中で立てなくなる気がしてるんですよ。どうせ体験するならここでおやり! 俺たちけっこう受け止める覚悟あるぞ!(笑)

藤原 やっぱり手を動かさないとね……。煮詰まって考える時間も大事だけど、やっぱり手や足を使ってこねくりまわしていく中でうわーって生まれてくるイメージもあるから。そこが演劇ワークショップの面白さでもあるなって、今日、中学生たちが自分たちで発案してシーンつくってくの見てて思いました。あとですね、誰か傑出した子だけがすごい、って話にならない場なのがいいと思うんです。エリート主義とか競争原理で動いてない。かといって全員が桃太郎やシンデレラの役をやるような悪しき平等主義でもない。役割分担も、その場でぶつかって話し合っていく感じがあって、ああこれは醍醐味(だいごみ)だなって思いますよ。

柏木 短時間だとあまり達成できないんですけど、今回は七日あった。でも、ちっとも贅沢じゃないとも思うんですね。これくらいの期間があって初めて、何か見えて来るものがある気がする。もちろん入口として短期間のワークショップがあるのは全然いいけど、それがメインではないなって。

藤原 やっぱり「演劇部」になってるから蓄積もあるし、けっこうこの活動が継続されてるのは画期的なんじゃないですか。
 さっき、お祭りとコミュニティの話がありましたよね。今、残ってたとしても、そういう意味で機能してるお祭りってないんじゃないかと思うんですよね。お祭りって前近代的なところがあるし。近代以降の人間にとってのコミュニティを、お祭りで復活させるのはちょっと厳しいかもしれない。というのは、その「伝統」から排除される人が当然いるわけですよ。でも演劇ワークショップにはマッチョな排除の論理はないし、「みんなで盛り上がろう!」とかではなくて、ひとりひとりの孤独をキープできる気がするんですよね。みんなで一緒に何かをつくることはするけど、その人がその人自身であることは尊重されると思う。それは中学生もよくわかってるんだな、とひしひし感じます。何日か前のこのレポートで柏木さんも語ってらっしゃったように、劇場がやらないでどこがやる、ということ。世田谷パブリックシアターはその面でかなり先進的じゃないかと思ってます。どんなに建物として立派な劇場でも、人がいないと……。

柏木 人ですよね。

藤原 現場の経験と、劇場でやることの意義や理念を積みあげていくのはやっぱり人だし、周辺地域のいろんな人との関係も生まれていくし。批評はやっぱり作品や作家至上主義がベースになっちゃってるし、ジャーナリズムも制度の問題を取り上げはするけど、そこにいる人や理念にフォーカスする言葉が少なかったと思うんですね。きちんと議論の俎上(そじょう)に乗っていなかった。「キャロマグ」もそうですけど、これを機に言葉にしていきたいですね。……あ、時間なのでこのへんで。今回はワークショップに呼んでくださってありがとうございました。


(司会:落 雅季子 2015.04.03)









世田谷パブリックシアター演劇部 批評課(5日目)

進行役のひとり藤原ちからがホワイトボードに「批評 ― 愛と距離」と書いたのは、批評の対象は作品作家観客世の中種々様々なものが考えられるし、もしかすると演劇芸術アートそのものが対象かもしれない、しかしいずれにしてもそこからは距離を取らねばならない、距離を取ることができなければ愛に足を取られて倒れることになるであろう、ジョン・ケージにも宮武外骨にもそうした愛と距離の二つがあったのだ、批評はまず咀嚼から始まるのであり、観た作品に対してどう投げ返すか、要約や再現ではなく批評だ、ここは演劇部批評課なのだ、さあ思い出せ、今一度その方法や姿勢を各自で考えよ、と言わんがためではないかと思うが、兎にも角にもその前のめりでやや上滑りともいえる圧力で中学生たちはぱんぱんにふくらんで帰って行き、やっと静かになった、かと思いきや、そのあと始まった大人たちの振り返りの会でも彼の勢いはとどまることなく、中学生とやろうとなった時におっさんこと柏木さんと話したのは、体系を教えるのではなくまず無手活流でやってみることを大切にしようということで、今日まではなるべくこっちの意見を言わずに来た、しかし今日のいくつかのことに関しては一方的でもいいから批評家としての自分の姿勢を伝えたい、でもただ技術を教えるつもりはないし上手にやることにも興味はない、失敗のありえない場所に何の魅力があるのだろうか、必要なのはトライアンドエラーだ、自由にやっていいのだ、たとえば二日目にいろんな作家の文体を選んで持ってきて見せた中にもいわゆる“批評家”の文章はひとつも入れていない、ああ浅田彰の『逃走論』の冒頭は入れたけどあれは逃げろや逃げろの言葉が単に面白かったからで、これが批評、みたいな先入観はないほうがいいだろう、だって既存の批評家のエピゴーネン、つまり二番煎じですね、を育てるつもりは毛頭ないのだし、何がどう花咲くかなんてすぐにはわからないのだからと一気にまくしたて、それまで静かに聴いていたおっさんもたぶんそれにある程度同意したのだろう、「五年殺し、七年殺しですからね」とにやりと笑って言ったのだった。


(落 雅季子 2015.04.02)



世田谷パブリックシアター演劇部 批評課(4日目)

午前中に、ふたり一組でインタビューの練習したじゃん。その時にわたしはお兄ちゃんと一緒になって、そう、初日にわたしが名前間違っちゃった子。や、もう間違えないよ、弟くんのほうとは今日最初にじゃんけんエクササイズもやったし、仲良しだよ。そう、で、お兄ちゃんから「普段はどんな仕事してるんですか?」って訊かれたから、最近まで実は会社員だったって答えたの。システムエンジニアしてたんだよ、って。でも、「システムエンジニア」っていう職業が何だかわかんないみたいだった(笑)。しょうがないよね、わたしも説明しようとして「銀行のATMの画面とかあるじゃない、ああいう仕組みをね、プログラム書いてつくってるような仕事」って言ったんだけど、考えてみたら中学生って銀行からお金下ろすようなことってたぶんほとんどないから、きっとわかんなかったよね……。で、会社員やめたって話をした時に「お母さんは反対しなかったんですか?」って今度は訊かれたから、おお、“お母さん”か……と思って。幸い親の反対はなく仕事やめたんだけど、中学生くらいだと親の同意がないと人生決めにくいよなーって、またしてもしみじみしちゃった。そうそう、おもしろかったのがね、夕方、ヨウコさんにインタビューし終わったあとに、ヨウコさんから中学生たちに逆に質問タイムになって。「どうして演劇ワークショップに来てるの?」「好きだから!」「これからも演劇続けるの?」「はい!」って、すっごい目がキラキラし始めて。インタビューで疲れてたとこから一気に元気になった(笑)。この子たち自分のことたくさん喋りたいし、ちゃんと喋れるんだなーって思ったの。わたしは人に自分の話はほとんどしないからさ。みんなの話聴くばっかり。だから今日、お兄ちゃんと組んでインタビュー練習する時に、久しぶりに自分のこと喋ったなあ……。人の話を聴くのは得意だよ。そういうの前は好きなんだと思ってたんだけど、好きなだけじゃなくて得意だからやれてるのかなって最近は思うね、ってそういえばヨウコさんも言ってたよね。うーん…………自分のこと、やっぱりあんまり喋りたいとは思わないかなあ…………いくら訊かれても、ねえ。なんか、喋りたくないことっていうか、それこそ墓場まで持って行くような秘密っていうの、ありすぎるから。


(落 雅季子 2015.04.01)